目的地は【アドラント】
【ザスチェル】〜【アドラント】街道
夜もすっかり更け、一本一本の木が生き物のように枝葉を揺らす。
此処は、【ザスチェル】〜【アドラント】を繋ぐ街道。
ファイと守護獣達は【アドラント】に向かう事にしたのだが、その仲間にヘラとディールも加わっていた。
話は一時間前に遡る─────
「エネルギーを無限化する機械なんて、信じられないんだけど。」
シャルルが怪しむように言う。
「うん。その気持ちは解るよ。僕も最初は信じられなかったから。」
それから、ディールは詳しくあの研究所で何を開発していたかを知る限り、ファイ達に伝えた。
王からの命令で、研究所では大規模な開発が行われていた。
その機械が完成すれば、エネルギーを無限に使うことが出来る。
【ザスチェル】の民の生活はより便利なものになると言うのだ。
その機械の名は【エターニティ・チェル】。
けれど、ディールは王の本当の狙いに薄々気付いていた。
「王は、その機械を使って戦争を始める気なんだ。」
そう、エネルギーを無限化するという事は戦争で有利な立場になれるという事でもあった。
「それで、その【エターニティ・チェル】と云うののエネルギーの素が何かを知っているか?」
「え?」
ディールはファイからの質問にたじろいだ。
エネルギーの素が何か、など知らないからだ。
「・・・ディールは知らないのね。」
ティーナが悲しそうに笑った。
「仕方ないでしょ。そんなの、考える訳無いんだから。」
「ヒドイです〜・・・・・・」
シャルルもリリシアも辛そうな顔になる。守護獣達も頭を垂れる。
「どうして、みんな悲しそうな顔するの?」
ディールは混乱したように尋ねる。
「エネルギーの素はそんなに悲しくなるモノなの?」
その問いに答えたのは、意外にもヘラだった。
「精霊の魂。」
ポツンと一言、ヘラは呟いた。
「・・・・・精霊の魂には底知れないチカラが秘められてるってお姉様に聞いた事がある。」
それだけ、言うとまた黙りこくってしまう。
今度はディールも黙ってしまう。
精霊の魂に秘められたチカラ────即ちエネルギーを無限化すれば確かに生活はより便利になるだろう。
けれど、それは精霊を殺して得るモノなのだ。
「それじゃあ、【エターニティ・チェル】が完成して、もし実用したら・・・・・」
ディールは其処で口篭った。
実用したら、精霊の多くが死に絶える。
精霊が死ねば、豊かな自然や作物が育たなくなり、最後は・・・・・
ディールはやっと四人が悲しげな顔をする理由を理解した。
「・・・・・・けど、【エターニティ・チェル】は破壊したんじゃ・・・・」
「いや、ヘラの相手に気を取られて機械は破壊出来なかった。」
「多分、【エターニティ・チェル】は別の安全な場所に移動したんだと思うわ。」
ファイとティーナが首を振った。
「どうするの?【エターニティ・チェル】を探すの〜?」
リリシアが皆を見回す。
「・・・・隣の国の王に協力して貰えないかな?」
ディールが提案した。
「【エターニティ・チェル】が危険な機械だと知れば、【アドラント】の王も無限化機械の破壊に手を貸してくれるかもしれない。どう・・・かな?」
「おお!ディール、それはいい考えだ。」
ファイは微笑んだ。
「そうね。そうしましょうか。」
ティーナも頷き、シャルルとリリシアも納得の表情になる。
ヘラがビクリと身体を震わせる。
「唯、一つ問題がある。」
ファイが真剣に考え込む。
「私達は隣国への行き方を知らない。」
ディールはガクッとバランスを崩した。
「そんな事か・・・」
「ディール、すまないが道案内を頼めないだろうか?」
「僕?」
ディールは少し考え、
「いいよ!それに、僕にも協力させて欲しいんだ。【エターニティ・チェル】が危険な機械なら破壊しなきゃいけないと思うし。」
それを聞くと灰色の精霊達のかおがほころぶ。
「ヘラ、君はどうする?」
ヘラは一瞬キョトンとしたが、
「えっと、私も行く・・・・」
と絞り出すような声で言った。
「これで、決まりですね〜!」
リリシアが明るく言うと、狼が声高く遠吠えをしたのだった。
・・・それを一人の男が見ているとも知らずに。
「・・・へぇ、無限化機械の破壊ね。・・・・・くだらない。」