探し物と捜し者
【ザスチェル】 【セディナ】研究所前
「あれ?」
白衣を羽織った青年は首を傾げた。
「まだ立ち入り禁止なのかな?」
【セディナ】研究所の前には『立ち入り禁止』と云う札が立っている。
「う〜ん・・・・・・・もうそろそろ研究所に入れると思ったんだけど。」
仕方ない、と青年─────ディール・トロメラは踵を返した。
ディールは、診療所を持つ新人の医者だ。腕が良い、と評判で患者の数は多い。
研究所で働く彼の友がある事件で亡くなり、ディールは友人が大切にしていた本を取りに来た。
けれど、研究所に入れず終いだ。
「折角診療所を休みにして来たのにな。」
そう呟いた時、
「あの・・・・・・・・」
鈴のような可愛らしい声がした。
「?」
辺りを見回すと暗い路地裏で美しい少女が手招きしている。
「何か用かな?」
路地裏に近付いた瞬間、物凄い力で引っ張り込まれた。
「うわっ!」
バランスを崩し、路地裏に容易に引っ張り込まれてしまう。
「知らないお兄ちゃん、今困ってるの。助けてくれる?」
紅い宝石のように輝く瞳が尻餅をついたディールを見つめる。
「えっと・・・・・・・・急に言われてもこっちも困るんだけど」
ディールは戸惑いの表情を浮かべ、立ち上がる。
「まず、君は誰?」
少女はニコリと笑い、
「ヘラ。ヘラ・ローデリーよ。」
と答えた。それから、
「お兄ちゃんは?」
「僕は、ディールだよ。・・・・・じゃあヘラ。君は何で助けて欲しいの?」
「オモチャを探してるの。とっても面白いオモチャ。でも、失くしちゃったから一緒に探して欲しいの。」
ディールは頷いた。
人が困っているのを見ると放って置けない性格なのだ。
ディールは腰を落として、ヘラと目線を合わせる。
「いいよ。どんなオモチャなの?」
ヘラは嬉しそうに笑った。
「探してくれるんだ!ありがとう!・・・・え〜と珍しいオモチャでね〜四つあるの!」
「珍しいオモチャか・・・・・・・」
ディールはそれを頭にメモした。
「それでね〜、遊んでて飽きないの。・・・・・・・・普通のオモチャはすぐ壊れちゃうから面白くない。」
「そっか、解った。探すの手伝うよ。で、何処で失くしたのかな?」
ヘラはニィと唇を引き上げた。朱色の瞳に禍々しい光が宿る。
チラリと覗く鋭い歯。
「・・・・・・研究所。あの退屈な研究所で失くしたの。人間を、ね。」
「結局、研究所は調べられなかったわね。」
ティーナが呟く。虎も元気無く唸る。
「もう一度、忍び込む?」
シャルルが三人に尋ねた。
「いや・・・・・・私はあの吸血鬼の子と決着をつけたい。」
「ファイ、売られた喧嘩を買うつもりなの〜?」
リリシアが目を丸くする。
「当たり前だ。此処でこちらが尻尾を巻いて逃げ出すなど、恥だ。」
皆、溜息を吐く。
ファイが頑固な事は知っている。
こうなった以上、あの少女を見つけ出し、勝敗をはっきり決めねばいけない。
説得は無駄だと皆、諦めた。
「しょうがないわね。あの子を捜しましょ。」
ティーナがグッタリと言った。
「うむ。」
「リョ〜カイ・・・」
「は〜い。」
ティーナの言葉に力強く答えたのは───────もちろんファイだけだった。