四人集結 その頃【アドラント】では
東の国【ザスチェル】
首都【フィング】
誰も居ない場所に突如炎が燃え上がり、一人の女性が獅子と共に現れた。
炎の中からだ。見知らぬ人が見たら、湧いて出たように見えただろう。
女性は、眼の前の建物を見上げた。
「此処か・・・・・・・・?」
獅子が歯を剥いて唸った。
「あら?貴方が一番?」
続いて水が地面から噴き出し、白い虎と青い瞳の女性が姿を見せる。
「久しぶりね。ファイ。」
ファイと呼ばれた真紅の瞳の女性は微笑を浮かべた。
「お前も相変わらずだな。ティーナ。」
青い瞳の女性、ティーナはフフと笑う。
その時、ザァッと強い風が吹き鷲と少女が地面に降り立った。
「やっぱり、ファイもティーナも来たんだ。」
少女は驚く様子も無く、平然と言った。
「シャルル、お元気?」
ティーナは笑顔でシャルルと云う少女に話し掛ける。
「別に・・・・・」
シャルルの反応は薄い。
だが、これが普通なのでティーナも苦笑するだけだ。
ビュウ!
木の葉が舞い上がり、幼い少女が眠そうに狼に寄り添われて登場する。
「ふあ・・・・ぁ」
少女は眠そうに眼を擦っている。
「どうした、リリシア。」
ファイが少女、即ちリリシアに聞く。
「眠い・・・・・・・」
リリシアはトロンとした瞳で欠伸をした。
三人は呆れた様に溜め息を吐く。
「それにしても四人、揃うのは本当に久しぶりね。」
「うむ。」
ティーナの言葉にファイも頷く。
「・・・・・・・・・百六十年ぶり。」
シャルルがぼそっと呟く。
「みんな、変わってない。」
リリシアが言う。
「皆も異変を感じたからか?」
ファイが言うと他の者は厳しい顔になる(リリシアを除いて)。
「前々から妙な魔力がしてたけど、今回のはかなり強いわ。」
ティーナは唇を噛む。
「精霊達が各地で次々消えている。」
シャルルがぶっきらぼうに呟いた。
「精霊達が消えた先は此処みたい・・・・・・・・だね。ふぁぁ。」
リリシアは建物を眺める。
「で、この建物、何?」
シャルルは腰に手を当てる。
円形の屋根が高い石壁からチラリと見える。
「行こうか。」
ファイは決意の表情で歩き出す。
三人も後に続いた。
西の国【アドラント】 王城
一人の兵士が慌てた様子で謁見の間に向かっている。
ばん、とばかりに扉を開けると王座に座る男性が刺すように兵士を見る。
その場に居るだけで物凄い迫力とオーラを感じる。かなりの強者だと瞬時に理解出来る。
そう、この男こそ【アドラント】の王、ギルガである。
「何だ。」
低い声で一言発するだけで相手を射すくめてしまう。
「ご、ご報告致します。今朝書物庫を確認致した所、権利書や計画書などの重要な書類が消えています。」
兵士は震えながら報告する。
「な、何者かが奪って行ったかと思われます。」
「そうか。」
ギルガは傍に控える側近を呼んだ。
「ルナ。」
「はい。」
前に進み出た女性。
メイド服に身を包み、背の一対の蝙蝠の翼がルナが人間でないと証明している。
纏めた髪には黒薔薇の髪留めが部屋の明りに反射して光る。
藍色の瞳は冷たく氷のようだ。
「処置はお前に任せる。」
ギルガはルナに言う。ギルガとルナは眼で一瞬合図し合った。
「畏まりました。仰せの通りに。」
ルナは身体を曲げ、礼をした。
そして、部屋の暗がりに姿を消した。
「お前も下がって良い。この処置はルナに任せる。」
「は・・・・はっ!」
兵士は敬礼すると謁見の間を後にした。
「どうだったんだ?」
兵士が仲間の元に戻ると仲間が尋ねてきた。
「首を斬られるかと思ったよ。」
「ギルガ様はおっかないからなぁ。容赦しないし。」
「で、盗みを許しちまった俺らの処罰は?」
「特別無いみたいだぜ?書類はあのメイドが何とかするみたいだ。」
「『黒薔薇の悪魔』さんのお仕事か。ま、処罰無しってたけで良しとするか。」
「あのメイド、ギルガ様以上におっかないらしいぜ?」
「ああ俺も知ってる!一人で闘技場の強者をギッタギタにしたんだとよ。」
「怖ーな。俺らも何時殺られるか。」
そんな会話をしていると声が掛かった。
「君ら馬鹿だな。」
兵士達は振り返る。
「何だよ、シェグハかよ。」
後ろには剣を背負った男が立っていた。
「あのメイドは滅多な事が無い限りは手をあげない。ギルガ様の事になると恐ろしいらしいけどな。」
シェグハは頭の後ろで手を組んで、ブラブラと歩いて行った。
「あの根無し草、一体何しに来たんだか・・・・・・」
「ギルガ様は何であんなのを雇うんだろうね。」
「メイドといい、シェグハといいギルガ様は妙な奴らがお気に召すらしいな。」
この物語に登場するルナさんは、命約のルナさんとはちょっと違います。
ご了承下さい。