最終甘 「朝鳥家のお菓子な日常Ⅱ」
最終甘 「朝鳥家のお菓子な日常Ⅱ」
朝鳥夕多は、甘党である。
それは、人工培養の作られた甘党であり、鍛えられた甘党である。
朝鳥夕多は、不死身である。
それは、ナイフで刺されても車に撥ねられても死なない程度には不死身であり、定期的に甘いものを摂取しなければ死んでしまう位の不死身さである。
朝鳥昼姉は、姉である。
それは、朝鳥夕多の義理の姉であり、彼を心の底から愛してしまった姉である。
朝鳥昼姉は、魔訪遣いである。
それは、《魔女》に師事し得た《魔訪》を遣う魔訪遣いであり、奇跡と代償を同時にもたらす現代唯一の奇跡である。
朝鳥ヨルシーは、妹である。
それは、朝鳥夕多の義理の妹であり、彼を慕う血の繋がりのない妹である。
朝鳥ヨルシーは、魔訪遣いである。
それは、姉と同じ《魔女》に師事するも、《魔訪》の遣えない《魔訪遣い》である。
これは、朝鳥家最大にして最後の物語の全記録である。
◆
夏桜祭も滞りなく終了し、無事夏休みを迎えた八月のとある暑い一日。
この日、頗る体調の悪いオレは、《夏バテ》という自らの体内で起こりつつある不協和音に踊らされ、浅い眠りを繰り返した後、気がつくと朝を迎えていた。
嫌な夢を見た。
自分の中の獣、暴力性、ドス黒い負の感情。そう言ったものをコントロールできず、ただただ自分本位に生きていたあの頃の自分の姿。この世は、自分だけが全てで、追従しないものは総て屈服の対象なのだと思っていた、そんな誰もが一度は通過するであろう、若気の至り。そしてその極み。苦々しい記憶。忘れたい過去。そして、今尚地続きで続く現在進行形の、終わりのない、果てのない悪夢。苛立ちと軽いめまいを感じながらも、ただ黙々と夢の続きを反芻する。そんな俺が、今日一番最初に目にしたのは、いつもと同じ姉貴のドヤ顔だった。
「おや。お目覚めかい、少年。昨日はどうにも寝苦しい夜だったな。私もこの部屋で君の寝顔を見つめることが出来なかったら、きっと寝不足に陥っていたに違いない」
「…姉貴。あんたまた勝手に俺の部屋に侵入して勝手にここで寝てたのかよ。あぁ、糞。道理で悪夢にうなされるわけだぜ。見たくもねー、あんな夢を見せられるわけだぜ」
「言うじゃないか、弟よ。ふむ、それだけの元気があれば問題ないか」
…分かってる。分かってるさ。俺だって、いつまでも昔の俺じゃない。
姉貴は、恐らく俺のそんな呻き声やうなされた声を心配して、わざわざ朝まで付きっ切りで一緒にいてくれたのだろう。こいつは、いつだって俺の心配ばかりしてやがるんだ。そう、昔っから。
「さぁ、少年よ、早く着替えるんだ。私の目の前でレッツ生着替えだ。それだけ元気があれば問題ないのだろう? さぁさぁ、ハリーハリー」
ああ、糞。ちょっと見直したと思ったらすぐこれだ。本当、やれやれ、だろ?
「い・い・か・ら出ていけえええええ」
「ふむ。相変らずいけずだな、夕多は」
いつものように姉貴を部屋から蹴り出したオレは、簡単に身なりを整えるとその足でヨルシーの待つキッチンへ、朝食へと向かう。
「お早う、ゆー君」
「ああ。おはよーさん。あー…わりぃな、ヨルシー。今朝は朝メシ食えそーにない」
瞬間。露骨に、ヨルシーの顔色っつーか雰囲気が変わったのが分かった。
「ゆー君、どうしたの? どこか悪いの?」
「いや。どーにもちょいと夏バテ気味みたいなんだ。夢見も良くなかったが、別段心配はいらねーよ」
オレだって、妹の朝食が食えないなんて罰当たりで兄貴失格なセリフは言いたくない。だが事実は事実。途中で残しちまうより、最初から断るほうが、まだ傷は浅く済むように思えた。正に苦渋の決断ってやつだ。断腸の思いというやつだ。
「そう。無理しちゃ駄目だよ、ゆー君。病は気から。今日の家事は、ヨルシーちゃんに任せていい」
「悪いな」
そのままキッチンから洗面所へと向かう。顔を洗い、自分の腑抜け切ったツラを眺めた後、やはり妹の言葉通りもう少し寝ていようかと思い立ち、部屋へと逆戻りする。
部屋の中には、先程蹴り出したはずの姉貴が、当然の如き我が物顔でオレのベッドを占領していた。
「くんかくんか。はぁー、こうやって弟成分を吸収する事で、私の一日はようやくスタートする事が出来る」
「変態かてめーはっ! オレはもう少し寝る。姉貴はいいからヨルシーの朝飯でも食ってこい! オレはいらないって伝えてきたし、親父は仕事にいっちまったから朝は二人だけで食ってくれ」
「…おお、なんと。それはまた好都合な」
何が好都合なのかは知らねーし知る由もねーが、そう言った姉貴の顔は、先程までオレに見せていたふざけ切ったソレではなく、なぜか一人の女の顔をしていた。良い予感はまったくしねーよな、こういう時ってやつは。
◆ ◆ ◆
「ほう? 珍しいな。今日の朝食はトーストか」
「ヨルシーちゃんと、昼姉の二人分だけだから」
「ふむ、そうか。そうだったな。では頂くとしよう」
「どうぞ、召し上がれ」
静寂。
響く金属音。
二人だけの空間。
「それで? 妹よ」
「何? 藪から棒に」
「ふっふっふ。分かってるだろ? 私に言わせるつもりか?」
「…」
「おっと。愛する我が妹お得意のだんまりか。ふむ。困ったな。では、今回も勝手にこちらで推理させてもらおうか」
静寂。
小鳥達の囀り。
二人の姉妹。
「ヨルシー。結局君は、私の魔訪を解く事が出来なかった。私の魔訪に対抗する事が出来なかった」
「…やめて」
「君は放棄したんだ、力を使うことを放棄した。夕多を、この私の手から救うことを放棄した」
「やめて!」
「いいや、やめない。君は、私と同じでありながら、今日まで力を遣うことをしなかった! 君は、最低の魔訪遣いだった。そうだろ?」
「やめろ! 馬鹿姉っ!」
砕け散る食器。
響き渡る怒声。
二人の魔訪遣い。
◆ ◆ ◆
突然の破裂音と、悲鳴。今正に眠りに落ちようというその一歩手前にて、オレはこの現実世界へと引き戻された。
二人の身に何かが起こった?
糞、オレってやつはいつだって一歩遅い。一手遅れる。心の中でそんな悪態をつきながら、オレはベッドから跳ね起きると、一気に階段を駆け下りキッチンへと駆け込む。
「なんだ、おい、何があった!」
散らばる食器片。無残にもひっくりかえった朝食…だったらしきもの。飛び交う罵声。取っ組み合う二人の姉妹。
「うぉい! 何やってんだよ二人とも。やめろ、一体全体どーしたってんだよ! こんなところで暴れるな! 食器が割れてんだ、怪我でもしたらどーすんだよ!」
キッチンゆえ、二人はスリッパをはいていた。自分で言っておいてなんだが、むしろ足の裏が血だらけになったのは、慌ててやってきたこのオレだけだったらしい。
「見ろ! 血だらけじゃねーか。主にオレがっ! …やれやれ、一体何があったんだよ。姉貴とヨルシーが姉妹喧嘩だなんて、らしくねーじゃねーか」
オレの足元を見て、これまでの喧騒が嘘のように押し黙ってしまう二人。
落ち着いてくれたのは多分にありがてーんだが、こうなってはその原因が分からない。姉貴は別としても、妹がここまで感情を露にするなんて、よほどの事があったに違いない。
「で? 二人とも、いつまで黙秘を決め込むつもりだ? それともずっとこうしているつもりか? オレはずっとこのままか?」
依然としてだんまりを決め込み、うつむく二人。……だが、答えは意外なところから返って来た。いや、返って来ちまった。
「その必要はねーぜ、タタタ君。やれやれ、ちょっと眼を離した隙にすぐこれだ。だから人間って奴はいけねーぜ」
黒マントに白衣、トンガリぼうしに加えて冗談みたいな杖っぽいなにか。いつもと雰囲気や格好、言葉遣いが違う事を除けば、腐るほど見慣れた姿だった、このオレが見間違えるはずがない。玄関が開いた覚えもなければ、窓が開いていたわけじゃない。一体全体こいつは、どうやって、どうして、ここにコイツがいるのか?
「古森? 何で、ってかどうしてお前がここに?」
「愛しのナウシカちゃんの登場だぜ? もっと素直に喜んどけよ、タタタ君★」
オレが訳も分からず口をぱくぱくさせている最中、件の古森はそんなオレの元をスタスタと通り過ぎ、オレの姉妹の下へと近づく。
「お前ら、何かあたしに言うことがあんだろ? 常考」
おまえ、ら?
なんだ、まて、いや、どういうことだ、これは。オレの頭は、もはやオーバーヒート寸前。これはもう夏バテだとか、そんな日和った事を言ってる場合じゃねーらしい。が、そんなオレの心情を知ってかしらずか、オレの姉妹たちは互いの顔を見合わせた後、驚くべき行動に移す。
『すみませんでした、師匠』
ししょう? オレの聞き間違えでなければ、確かに今、姉貴と妹は、古森に対して師匠と、そう言って頭を下げた。
「気まぐれで弟子なんて取るもんじゃねーな。やっぱり《魔女》はいつの時代も孤高じゃなくちゃいけない。だろ? タタタ君」
「お? おう」
急に振られたオレは、とまどいつつも適当な相槌を打つ。つーか、これ、この状況、むしろ一体何て言や正解なんだよ。
「さっすがタタタ君、良く分かってる。そこに痺れる憧れるぅ、だぜ。そんじゃ、ま、早速だけど反省タイムといこうか?」
「待て待て待て、待ってくれ古森」
「おっ、なんだいタタタ君。君から食いついてきてくれるなんて、成程珍しいこともあるもんだお」
この雰囲気、この場で、恐らくなーにも知らずにアホ面下げて爆心地状態は、オレたった一人だけだろう。そんなのいいわけがない。納得出来るわけがない。
「一応確認するが、お前…古森だよな?」
「当・然。君とトーダイ君の幼馴染にしてクラスメイト。桜ヶ丘第四高等学園三年B組、愛しの古森今鹿だお★ ……またの名を、風の谷の森の魔女。おいおいタタタ君、君は幼馴染でありながらあたしの事を、ただのいかれた引き篭もりの古森だなんて思ってたのか? 違うぜ、全然違う。魔女ってのはね、すべからく孤独で孤高で一人淋しく森に住んでいるものなんだぜ、常考」
お? おお?
分かったような、全く要領を得ないような。狐につままれたような気分ってのは、正にこういうことを言うのだろう。
「んじゃ、まず朝鳥(姉)からいくお」
そう言うや否や、くるりと反転し姉貴の元へとつかつかと近づく古森。…な、なんてこった。あの、あの姉貴が怯えてやがる。顔面蒼白で涙目になってやがる。
「朝鳥昼音」
「は、はい」
「お前の罪は…《幻想》だお。魔訪は魔法じゃない。その実、夢も希望も詰まってねーし、万能なんかじゃ断じてない。あたし、いつっつも言ってたよな? な? そして、気づいてなかったのか? 見ろよ、タタタ君の足元。血、出てるだろ? 当然だよな、食器のカケラを踏んづけちまったんだ。普通の人間なら血ぐらい出るぜ」
ん? 血? ………え?
! ! !
なんてこった。確かに、言われてみりゃ確かに出てる。そう、不死身の身でありながら、オレは、さっきから血を流し続けている。ということは、つまり?
「私の魔訪が、解けた? いや、まさか、そんな筈は」
「おいおい、諦めが悪いぜ、朝鳥(姉)。そもそもさー、不死身の人間は夏バテになんてならねーんだぜ? つまり、タタタ君の魔訪はとっくに解けてたってわけ。何でか分かるかい?」
オレも、姉貴も、妹も、三人揃って首を横に振る。そんな朝鳥三兄弟の図。
「うはw 昼夕夜。揃いも揃ってわかんねーのかお。ったく仕方ねーなーー。あのねぇ、魔訪は魔法じゃない。代償、対価が必要だ。ここまではおk?」
そうだ。だからこそオレは、この欲しくもない不死性を手にした代わりに、《かつて》大嫌いだった甘いものを食べ続けなけりゃならなくなっちまったんだ。
「耳の穴かっぽじってよく聞けよ? つまりさー、タタタ君が甘いものを好きになっちまったおかげで、その図式が成り立たなくなっちまったってわけ。お分かりか? 偽りでまやかしの不死性なんて、なーんの役にも立たないってことだお。たった数年たらずで、これだけ魔訪を遣いこなせるようになったのは認めるけどさー。もっと現実見ようぜ? いい歳なんだし。そもそも、こんなアンチテーゼに頼らないと愛する弟も守れねー姉貴なんてのは、良い姉貴失格なんだぜ。だろ?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
オレが、変わったから?
姉貴のビスケット、飴玉、水尻とのケーキバイキング、クレープ、皆との学園祭の屋台。そして…
あの日の、《週末のチョコレート》
そう。
オレは、甘いものを、好きになっていた。
「おっと、エンドロールにゃまだまだ早い。次、朝鳥ヨルシー」
「はい」
姉に代わり、今度は妹の元へとつかつかと歩み寄る古森。妹の目は、一心に古森を見つめている。
「お前の罪は…《弱さ》だお。どんなに口で言ったところで、そいつを実行できなければ意味がない。ヨルシーちゃん、結局君は魔訪を遣いこなせなかったな。君は少し優しすぎるし、世間を知らなすぎる。代償が無ければ、なーんも手に入れられねーんだよ、この世の中って奴は。代償や対価を恐れてたら、一生何にも出来ねーよ?」
ちょ、ちょっと待て。妹が、ヨルシーも魔訪遣い? いや、まぁ、そうか。この展開的に言えば、確かに二人揃って師匠って言ってたしな。でもそうか、妹も。…何だろうな、このもやもや。
「ま、ねーちゃんまでとはいわねーが、もっとオープンな性格にならないときっと苦労するぜ。この先。せめて、自分で自分を守れるくらいにはならねーと駄目だお。誰かに気を使ってもらってるようじゃ、全然駄目だ。君の容姿はただでさえ目立つんだからな。そうじゃねーと、どっかの馬鹿兄貴が心労でぽっくり逝っちまうぜ?」
でも、そうか。妹は最後まで魔訪を遣わなかったのか。よかった。本当に。あいつには、妹には例え誰の為であっても、そんなものに頼って欲しくなかった。
「さて、いよいよラスト。待たせたね、タタタ君?」
……は?
「なーにを、ハトがガトリング食らったみたいな驚いた顔しちゃってんだよ。当然だろ。君が総ての始まりであり原因なんだからさ、当然、君にも審判は下るんだぜ★」
そう言って、今度はこちらへとつかつかと歩み寄る古森。今更だが、素足の傷が痛み出してきやがった。あぁ、糞、生きてるんだって事を思わず実感しちまいそうだぜ。
「タタタ君。君のその、自分の嫌いなもの、流儀に反するものは力づくでねじふせよーとするその性格。意見の通らない相手にはすぐに力でものをいわそうとするその性格。……このままじゃ病院だけじゃなく、他の《院》にも入らざるを得なくなっちまう。分かってたよな? 自分でも分かってた筈だよな?」
オレが入退院を繰り返していた本当の理由。
オレがクラスから浮いていた本当の理由。
オレが姉貴に魔訪を掛けられた本当の理由。
オレの見る、オレの悪夢の本当の理由。
「だが、確かにここ最近の君は変わった。例えそれが偽りの不死性であったとしても、その対価は結果として君を変えた。君の姉が、妹が、友が、或いは君自身が、君を変えた。いいか、タタタ君。確かに魔法なんて便利なもんはこの世には存在しねーよ。魔女であるこのあたしも、そう断言出来るお。魔訪なんて所詮は魔法のまがいモンでしかねーからな。ちっと手の込んだ手品と同じさ。けどよ、君を変えたその過程こそ、現代における実在しうる最高の魔法だと、そうは思わねーか?」
総てを語り終えた古森は、満面のドヤ顔で、テーブルへと鎮座する。
「おい、今、終わった…とか思ったんじゃねーだろうな? 見当違いも甚だしいお。むしろ、本番はこれから。あたしがやってきたメインの目的はこれからだお。戯れに弟子入りを認め魔訪を教えてやった、そんな馬鹿弟子達の暴走を止める。次は、そんな馬鹿弟子どもに罰を与えるターンだぜぃ。魔訪の私的乱用は万死に値する、当然、そいつを見て見ぬふり。止められなかった奴も同罪なんだぜ。なんせ、魔訪の根幹にあるものは《甘い愛》なんだからな。甘い愛と代償を持って、現実を歪める力。それが魔訪。だからあたしは、二人に平等に死を与える。そのために、今日この場に、あたしはわざわざ来たんだお★」
姉貴と妹。
オレにとってかけがえのない家族であり、どちらも自分の方法で、オレを救おうとしてくれた。苦しんで、苦しみぬいて。
だったら、オレがすべき事は、たった一つだけ。たった一つのシンプルな答え。
「古森…やめろ。付き合いは姉貴やヨルシーよりなげーんだ、オレが何を言いたいのかくらい、分かんだろ?」
「ふふふのふー。勿論分かるとも。だがな、タタタ君。時にはきちんとした言葉で聞きたいセリフってのもあるんだぜ?」
「二人を助けてくれ、頼む。ヨルシーも……姉貴も。オレの大切な家族なんだ。元々二人に救われた命。だからこそ、この命以外だったらなんだってくれてやる。どんな代償も対価も引き受ける」
「少年、お前」
「ゆー君…」
今思い返してみれば、オレが最後の一線を越えずに済んだのは、いつだって妹や姉貴、水尻やトーダイ…そして、古森のおかげだった。こいつらがいたから、今のオレがいる。
オレは、そんな神妙な面持ちで古森からの、魔女からの返答を待つ。
「いいよぉー。許しちゃうぜ。ってかさぁ、あたしだってタタタ君の幼馴染の一人なんだぜ? ぶっちゃけそんな大切な人の大切な人を傷つけられるわけねーーじゃん。ま、二人には魔訪遣い失格っつーことで、弟子の破門と与えた魔訪に関する知識をリジェクトさせてもらけどさー。元々ただのきまぐれだったしぃ。一応けじめだしぃ。なによりよぉー、《こーゆー展開》、になるように仕向けたのは、ぶっちゃけぜーんぶあたしの仕業だしぃ。あっ、ヤベ、言っちゃったお★」
…やれやれ、忘れてた。こいつは魔女である前にオレの幼馴染で、昔っからこーゆーやつだったってことを。
「で、どう? 不死身になったおかげで、嫌いなもんをたらふく食わされたおかげで、少しは変われたかよ? 成長出来たかよ? タタタ君。だけどさ、君達兄弟は、こんなツマンネー戯言を長々とあたしに言われるまでも無く、気がついていたはずだぜ。そうだろ? だからさー、結局さぁ、今日、一番あたしが何を言いたいかって言えばさぁ…………」
古森は、その薔薇色の思考と薔薇色に染めた頬から創り出す今日一番の笑顔を浮かべ、姉妹の顔を交互に眺めつつ、こう締めくくった。
「ばーーーーーーーーーーーーか! タタタ君は、昔っから、《あたしのもの》って決まってんだよ、常考!!!!!」
『えええええええええ!?』
「義理の姉妹に男の娘。そりゃーーー誰が正ヒロインかって言われちゃぁ、あたしがヒロインだって決まってんだぜ、常考。魔訪の力の根源は、ズバリ、甘い愛。甘い考え方やら、スイーツなんて生温い。あたしは、致死量に至る劇薬的愛情の一点張りだ★」
オレの腕をぐいっと掴んだ古森が謎のスペルを唱えると、どこからともなく一本の箒が現れた。
「覚悟しな、タタタ君! 地獄のようにダダ甘でスゥイートで完璧で本物の《魔法》ってやつをタタタ君にかけてやるぜ♡」
古森とオレを乗せた箒は、朝鳥家を飛び出し、屋根を越え、雲を超え、星を越える。
…どうやらオレは、いつの間にやら本気で好きになっちまってたらしい。《≠甘いもの》って奴を。古森の言う通り、姉貴がオレに掛け、妹が必死に解こうとしてくれた、この魔訪は…。魔訪と、甘いものは良く似ている。どちらも用法要領によって、人を幸せにも不幸にもしちまうという点において。そして、この魔訪ってやつは、確かに、オレの中の何かを変えてくれた。
オレの思考回路。或いは、嗜好回路ってやつを。
それが古森の狙い? トーダイの言うように、妹馬鹿だったこのオレを変えるため? この性格を変えるため? 触れる者、皆傷つけようとした……そんな抜身のオレを変えるため? 甘いもの、そのものが嫌いだったオレを変えるため?
だとしたら、きっとそれは成功したのだろう。ただし、こいつは、この先は、きっと難儀だろうな。なんてったってこれ《恋愛感情》は、あまりに甘ったるくて、流石のオレも食えたもんじゃねーであろう、そんな代物なのだから。
ここまできて、いや、こんな糞メンドクセー死ぬほど遠回りで邪な計画まで立てて、あいつが、古森が欲しかったもの。
あいつも。
……そしてオレも、結局はただの乙女で、青少年で、年相応の青臭い人間だったって事。なんだよ、これじゃオレも、すいーつ(笑)なんて馬鹿に出来ねーじゃねーか。
やれやれ。
スイーツ男児の明日はどっちだ? 何てな。
最終甘 END




