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六の甘 「週末のチョコレート」

六の甘「週末のチョコレート」



 夏桜祭、期末テストを乗り越えた先にあるもの。そう、夏休み。

 学生だけの専売特許であり、純然たる、唯一無二のモラトリアム。

 進路を、夢を実現させるため勉学に身を投じるも良し。部活動にて清く正しく美しい汗を流すも良し。はたまた、ただひたすらに遊びに興じる、それもまた良し。


 百人の生徒が居れば、百通りの夏休みが存在している。皆、一体どんな夏休みを過ごすのだろう。ん? 《ボク》? ボクの場合は、勿論…


 さぁ。甘い甘いとある夏の特別な一日が、幕を開ける。


        ◆


「……あの、ここは、何処でしょうか? ボクは、その…誰なのでしょうか?」


 ボクの目の前には何故か半裸の女性。彼女は四つんばいでベッドとボクの身体をこれでもかと言わんばかりに固定、いや、支配している。

 自分が何処に居るのかわからない。ましてや、自分が何者であるのかすら分からないという状況は…世間一般的に考えれば、それは相当恐ろしい状況であるし絶望が身を包むような状況なのかもしれない。けどそれは、あくまで正常に記憶があって、ごくごく普通に生活を送る人間の安易な憶測に過ぎない。とどのつまり、今、ボクが何を言いたいのかと言えば、それは勿論。


 本当に《記憶喪失》なんて状況に陥ってしまった人間が思う事は、恐怖でも絶望でもなんでもなくて、ただ単に《知りたい》という欲求だけなんだって話。


「おやおや、ふふっ。我が最愛の眠れる森の王子殿は、未だまどろみの中に頭を突っ込んだままの状況にいるらしい。良いだろう、君のだいだいだーーい好きな愛すべきこのおねーちゃんが、熱いチッスで君を…」

「その、つまりあなたは…ボクの、姉なんですか?」

「そうとも、ああそうとも! 私は君が愛してやまない最愛にして最強。究極にして至高の存在。所謂おねーちゃんなのである。えっへん」

「ボクの…姉。そっか、良かった」

 心底安心しきったボクの表情。安堵の溜息。流石に何かが可笑しいと悟ったためか、ボクの目の前の半裸の自称姉は、その綺麗な顔を少しだけ曇らせながらボクの体をぐらぐらと力いっぱい揺さぶる。

「お、おいおいおい。本当にどうした少年。一体どうしたのいうのだ、君らしくもない。そんな風に怯える子犬のような表情をされたら私は……聊か興奮してしまうじゃないか!」

 どうやら、ボクの見立ては、かなりの方向転換が必要なようだった。安心して身を委ねるには、まだ、いくらか早計だったらしい。

「興奮? それよりおねーちゃん、ボクがおねーちゃんの弟だという事は良く分かりました。では、ここはボクの家で、ここはおねーちゃんの部屋なのですか?」 

「待て! 今、何て言った?」

「す、すみません。あの、おねーちゃんが居るということは、つまり、ここはおねーちゃんの部屋なのかなって」

「違う! その前、その前だ少年」

「? おねーちゃん、と言いました。すみません、あの、慣れ慣れしかった、でしょうか。おねーちゃん」

 そんなボクの発言を受け、何故か目を潤ませ、ぷるぷると小刻みに震えながら、自称ボクのおねーちゃんは…


「ヤッダヴァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


 真赤な鼻血の噴水をまき散らしながら、絶叫し、喉を掻き毟りながらベッドの上でのたうち回る。しかも終始、はちきれんばかりの満面の笑顔で。スタイルも良くて、綺麗で、しかも何故か半裸なのに…あぁ、なんて残念な人。

 そんな様子を見つめながら改めてボクは思う。

 空っぽで何も持たない今のボクを突き動かす唯一の原動力は、知りたいという欲求に他ならない。自分を、自分を取り巻く状況を知りたい。自分が何者で、ここは何処なのか。

 …けど、現実は残酷だ。

 知らないことが恐怖なのではなく、知る事自体が恐怖であるという事を、ボクはこれからまざまざと見せつけられることになる。


         ◆


 一つのダイニングテーブルを挟んで対面するは、二人の女性。ボクの姉と妹…らしい。

 一人は、先程ベッドの上を真っ赤に染めてあげてくれた自称ボクのおねーちゃん。今も尚、その切れ長の目つきで一心不乱にボクを見つめている。さっきも思ったことだけど、こうしてじっとしていれば絵になるような凄い美人さんだ。とても先程の痴態をやらかした人間と同一人物だとは思えない。海外のお菓子の様な過剰な甘さをもったボクの姉。ボクの第一印象からなるイメージは、正にそんな感じ。

 そしてもう一人、金髪碧眼でツインテールの良く似合う美少女。ハーフなのだろうか。そして驚くべきことに、ボクの妹らしい。砂糖菓子の様な繊細さをもったボクの妹。これもただのイメージにすぎないけれど。

「あのっ…。おねーちゃんに、妹、ちゃん?」

「………ヨルシー、で良い。ゆー君は、いつもそう呼んでいてくれたから」

「そ、そうですか。分かりました」

 百面相のおねーちゃんとは異なり、まるで海外の精巧な人形の様に可愛らしく、静かに佇み、そして何より表情が無い。正直言って、一体どんな風に接したらいいのかわからない。普段のボクは、彼女に、彼女達とどう接し、どんな風にコミュニケーションをとっていたのだろう。知りたい。ボクは、その総てを知りたい。例えどんな真実が待ち受けていようとも。

「ギャップ。そう、これは所謂ギャップなのだろう。正直言って新鮮で、これはこれで可愛らしくはあるのだが…」

「ヨルシーちゃんは、嫌。ゆー君だけど、ゆー君じゃないから……あっ、ごめん、なさい」

 どうやらボクは、おねーちゃんからのみならず、この妹からもとても信頼されていたようだ。今の発言だけでもそれが良く分かる。その事実に対し、何故か、心底ほっとしているボクがいる。記憶が無いのに、可笑しな話ではあるのだけれど。

「いえ。ボクは何も。朝鳥夕多…それがボクの名前だということ。昼音おねーちゃんに、妹のヨルシーちゃん。うん。少しずつですが、今のボクの状況がだんだん整理出来そうです。教えて頂きありがとうございます。だからこそ…単刀直入に申し上げますが…ボクは、これから一体どうするべきでしょうか?」

 正直言って、今のボクという存在は、仮初の人格に近い。朝鳥夕多という人間を構成する要素の、小さな小さな一部分にすぎない。これまでも朝鳥夕多という存在がどのような人間で、どういった人生を過ごしてきたのかはボクの与り知るところではないが、今のこの状況が、彼のレールから脱線した異常事態である状況には変わらない。つまりボクは、本来、存在するべきではない存在なのだから。

「うむ。普段、少年がスイーツを貪る姿は、正にギャップ萌えという奴ではあったのだが、うーむ。流石にこの状況は萌え云々などと言っている場合ではなさそうだな? 妹ちゃんはどう思う?」

「どう思うも何も。今の言葉の中に、結論と原因は、最初から出てる」

「ああ。やれやれ、だ。やはりそうか。とどのつまり、私が原因というわけだ。欠陥…対処法…一体誰に相談するべきか」

「決まってるでしょ?」

 誰に? ヨルシーちゃんの言う通り、普通、ここはまずお医者様に相談するべきではないのだろうか。それより今の発言、私が原因って、一体どういうことなのだろう。

「そうだったな。幸いにして今は夏休み。君も多少不便はあるかもしれないが、好都合ではある。不幸中の幸いというやつだ」

 そう、現在は7月の下旬に差し掛かろうという日付。


 そんな明日は、夏休み最初の週末だったりする。



         ◆ ◆ ◆



「それで? 《例の返答》はどうだったの? もう、返事来たんでしょ?」

「うむ。手紙はたった一行だったよ」


 ―親愛なる馬鹿姉妹へ― 


 チョコを創れ。以上


「だ、そうだ。ふふっ、相変わらずじゃあないか、《あの人》は。なぁ? ヨルシー」

「だったら。作るしかない」

「正に。その通り。あの人がそう仰る以上。だったら、作るしかない。愛しの我らがスイーツ王子の為に…な」


 キッチンにて並ぶ姉妹。その両手に、いっぱいの料理道具を携えて。笑う。


「しかし、流石は少年だ。まさか記憶喪失とはな。うむ、流石はスイーツ(笑 男児と言ったところか。最も、私が言えた立場ではないのだけれどね」

「後半だけ同意。前半は、何度も言うけど、馬鹿姉の責任」

「ふふふふふふっ。いつにも増してなかなかに辛辣じゃないか…ヨルシー、悪いがミキサーを取ってくれ」

「…どうぞ。でも、事実は事実。馬鹿姉、牛乳、こっちにも」

「うむうむ。ほれ、使いたまえ。ま、だからこそ、こうやって姉妹揃ってキッチンに身を寄せ合っているわけだがな」

「何が言いたいの?」

「いやなに。こーやって、二人揃って夕多の為に何かをするだなんて…思わず、あの時の事を思い出してしまってね。ほら、私たちが揃って魔訪への門を叩いた時さ」

「…」

「最も、何かきっかけが無いとこうして姉妹の肩が並ぶことも無い、という現実は、少々情けのない話ではあるがね」


 キッチンにて並ぶ魔訪遣い。その両手に、いっぱいの禁忌を携えて。哂う。


「話を戻そう。我々の《師匠》の話さ。《あの時》、正に藁をも掴みたい気持ちでいっぱいであった我々に、そっと手を差し伸べた人物。あの時は、そうだな、本当に驚いたものだった」

「それって…何に対して? 魔訪の存在? それともあの人の正体?」

「両方、かな。この現代社会において、未だそんな奇跡が残っていた事に。そして、よもやその遣い手が、権威が…我々に《近しい人物》であった事」

「そうね、意外だったけど。不思議じゃなかった…ん、そろそろ、隠し味いれないと」

「ふむ。ヨルシーはシンプルな生チョコにしたのか。まぁ、チョコレートの定番ではあるが。少々面白みに欠ける。君らしい実に優等生な選択ではあるがね」

「そういう馬鹿姉は…」

「ふふふっ。私はズバリ。大人らしく、大人のトリュフさ。そしてこちらもたっぷりの愛情と共に隠し味を入れる」

「…魔訪は、魔法じゃない。夢も希望も、詰まっていない」

「師匠の口癖だな。その意味は各々で考え、理解し、解釈しろとの事だったが…だが、魔訪を遣うための大前提であり根幹は、《甘い愛情》であるということもまた事実…どうやらお互い、少々冷やす必要があるようだな……チョコも思考も、ね? なぁーに、時間ならたっぷりある。何せ今は夏休み。加えて今日は週末だ。肴は勿論我らが王子殿。さぁ、ヨルシー、再びの…姉妹会議を始めようじゃないか」 


 キッチンにて並ぶ魔訪遣いの姉妹。その両手に、いっぱいの魔訪と、いっぱいの愛情を携えて。嗤う。



           ◆


「またせたな、少年。さぁ、季節外れの甘い甘いヴァレンタイン祭りを開催しようじゃないか」

「ゆー君、召し上がれ」

 何故チョコレートなのか? むしろどういった民間療法なのか? 記憶喪失の体を、チョコレートを食べさせる事で治療するなんて方法は、ボクは聞いたことが無かった。とはいえ、それはボクに記憶がないからそう感じるだけかもしれないし、記憶を失う前のボクは二人をとても信頼していたようだし。そんな彼女たちが食べろと言うのならば、ボクは、疑問も持たずに食べるべきなのだろう。きっと。何故かはわからないけど、流されるままって部分が少しだけひっかかる気もするけどね。

「こんなボクのために、お二人ともありがとうございます」

「何を言う。君、だからこそさ」

 そんなおねーちゃんの言葉に、こくこくと首を縦に振り肯定を示して見せるヨルシーちゃん。二人がそう仰ってくれるのであれば、もう、ボクも迷いはない。

「ご期待に添えるかどうかは分かりませんが、早速頂く事にします。では、まずヨルシーちゃんのチョコレートから」

 ダイニングテーブルの上にて、まるで宝石の様に煌びやかに輝き、飾り付けられ、恭しく鎮座された彼女のチョコレート。どうやら、彼女の用意したチョコレートは石畳のような形で並んだチョコ、いわゆる生チョコらしい。そのチョコ自体の見た目はとてもシンプルではあるものの、勿論彼女の手作りであり、手間暇がかけられているということが窺える。言うなれば、彼女のその内面を表しているかのようなチョコレート。

「ボクにこれまでの記憶はありませんが、不思議な事に、何故かただ一つだけはっきりしている事があるんです。どうやらボクは…甘いものが苦手だった。違いますか?」

 ボクのそんな問いかけに対し、少しだけ驚いた顔を覗かせたヨルシーちゃんが、すぐさまコクリと静かにうなずき、肯定を示してくれる。本当に不思議な事なのだけれど、きっと、それはボクのこの体に刻まれた記憶なのだろう。けれど、今のこのボクも必ずしもそうだとは限らない。なんせボクには、甘いものを嫌うその記憶すらないのだから。

「では、いただきます」

 綺麗に並んだチョコの一角をフォークで突き刺し、その香りを少しだけ楽しんだ後、口へと運ぶ。

 瞬間。柔らかでとても優しい触感と、本来のチョコレートが持つ豊かなコクが瞬く間に広がっていくのが分かった。

 美味しい。とても。優しい味だ。

「はちみつ…隠し味は、はちみつでしょうか?」

「ゆー君、それ正解」

 ヨルシーちゃんは、これまでボクの前で見せた事のない、驚いたような或いは嬉しそうな表情を浮かべる。その表情の変化は微々たるものかもしれないが、確かに彼女は笑っている。少なくともボクにはそう見えた。ああ、素晴らしい笑顔。天使の笑顔って、きっとこういうのを言うんだろうな。恐らく、本来のボクも、この笑顔の前で全身を骨抜きにされていたことだろう。

「はちみつの効果で口当たりが滑らかになり、風味も断然増している。合理的で相性ばっちりの隠し味であると言えます」


 体が、疼く。


 ボクの体の奥底で、誰かが、或いは本来のボクが…何かを叫んでいる気がする。怒声にも似た叫び声だ。こんなにも美味しいチョコレートを食べて、何故怒るような事があるのかは、ボクの与り知ることではないのだけれど。


「…不思議な感覚です。何かを思い出す前の感覚とは、こういうものなのでしょうか? 体中がざわついている。どこかに飛んで行ってしまいそうな程に」

「おっと。釣れない事を言ってくれるじゃないか、弟よ。君はまだ私のチョコを食べていない。それで記憶を戻してしまうなど言語道断だ。それとも君は、乙女に恥をかかせるつもりかい?」

 乙女という言葉がやけに引っかかった。そんな反応もまた、ボクが記憶を取り戻しつつある確固たる証明なのだろう。ボクは、彼女の言葉に従い、何とか正気を保つ。

「ご安心してください。ボクには、そんな恐れおお……勿体ないことは出来ません。当然、頂戴しますよ」

「うむ。がばっといけ、がばっとな。君の事を想いながらころころころころと丸めて作ったんだ」

 ヨルシーちゃんとは異なり、少々無骨で、飾りつけもシンプル。これは、トリュフチョコというやつなのだろう。多少歪ではあるもののズラリと並んだ球体のチョコレート群。

「はい、遠慮なく」

 おねーちゃんのその言葉通り、仰せのままに一口でがばっと食べてみせる。トリュフ独特の形状からなる独自の感触を楽しみつつ、次第に広がっていく甘さ控えめのビターテイストと香りを味わう。ヴァレンタインと言えばトリュフチョコ。確かな愛情に裏打ちされた手間暇は、正に、プレゼントの王道なのだと実感する。

「大人の味ですね。ラム酒…ダークラムのおかげで苦みと香りが一層引き立っている」

「おぉ! ご名答だ、少年。だがそれだけじゃないぞ、隠し味は幾つか用意してある。他のチョコにはブランデーや、キュラソー、つまりオレンジのリキュールが入っているものもある。他のも食べてみてくれたまえ」

「はい、それは楽しみですね」

 彼女の言葉に従い、次の一つを続けて口にする……が、その瞬間。


 脳が、痺れるようにして焼ける。目の前が銀色に輝き出し、視界が定まらない。体中の血管が欠陥となり、動作不良を引き起こす。沸騰する様に、滾る心臓が熱い。


「が、こ、これ、一体、何を…いれ」

「ふふん。企業秘密さ。何せ私は…魔訪遣い、なのだからね。不完全は許されない。それが私のサガ、つまりはそれが総てだ」

「……病みつきになる、味、ですね。きっと、ボクでなければ死んでいます。何故そう思ったのかは分かりませんが」


 とにもかくにも。


 どうやら、時間切れらしい。めでたし、めでたし。ってね。


「最後のおねーちゃんの隠し味が気になる処ではありますが、どうやら、本当に記憶が戻りそうです」

「うむ、そうか。少々残念であるが…君のおかげで初心に帰ることが出来たよ、ありがとう。短い間だったが、新鮮で楽しかった。心底そう思う」

 何やら感慨深そうに何度も何度も頷きながら、おねーちゃんがそう呟いた。そしてもう一人。

「ゆー君は、ゆー君。あなたがゆー君の一部だというのなら、ヨルシーちゃんは、あなたの事も好きになる」 

「ありがとうございます、ヨルシーちゃん…どうやらボクは、とても幸せな人間だったようですね。だって…こんなにも二人から愛されているのだから」


 ああ。

 眠い。

 とても、眠い。

 とても、とても。


 きっと、もう、時間だ。


 瞼を閉じよう。

 あぁ、それにしても、たった1日だったけれど、なんだか楽しかったなぁ。


 これが、きっと…。

 こんなことなら、この感情は、この想いだけは…知らない方が良かったのに…

 朝鳥夕多、君は、幸せな人間だよ、とても。とてもね。


 …。


 この、、、、、凄く、満ち、足り、、、、た、、、、気分、、を、、、、、、



          ◆



 夢の記憶を反芻する。

 

 とてつもなく長く、あり得ないほど奇妙な、オレの夢。

 夢が何処から来てどこに向かうのかなんて、それこそオレの知ったことじゃない。むしろ知りたくも無い。

 意識が覚醒しつつある今となっては、どんな夢だったのか、その総てを思い出す事は不可能だと断言できる。だからこそ、オレは、いつまでも目を閉じているわけにはいかない。


 そして。

 いつものように目を覚ますと、オレの目の前にはいつものように姉貴の姿…に、加えて、何故か今朝は最愛の妹の姿もあった。

 朝一番で妹の顔を拝めるなんて、おいおい、こいっあ、とてつもなく素敵でご機嫌な一日になりそうじゃねーか。何故か二人ともちょっとだけ泣きそうな顔しているのが気になるところではあるのだが。オレの気のせいだろうか? きっと、そうなのだろう。


 

 夢は、飴玉の様に次第に消えてなくなる……《チョコレートが、甘いものが好きだ》という、この感情の残滓だけをオレの魂に遺して。




六の甘 END


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