Ⅷ
* * *
「此処が部屋だ。足りないものがあれば申し出ろ」
「ん、ありがとうございます」
ふかふかのベッドは沈んでしまいそうで、警戒して寝なきゃ窒息死してしまいそうだ。
其れじゃ安らかな睡眠が得られないじゃない。
「一つだけ忠告しておく」
王が此方に歩いてくる。
いい加減に名前を聞きたい。
「貴様が――」
「名前は?」
遮るように尋ねると、またチャキと嫌な音がする。
「・・・すみませんでした」
「素直が一番だな。
陛下とでも読んでおけ」
名前を聞いたんですけど!?
陛下って呼ばせるってどんだけ俺様よ。
いや、こいつの場合我様か。
「返事は無いのか」
「Yes, Your Majesty.」
「・・・莫迦にしているのか」
此の世界にも英語はあった。
新しい収穫だね。
別世界の言語が通じる。
よく判らない仕組みだ。
「判った判った、陛下陛下。
・・・なんか下に堕ちていきそうな呼び名」
だね、と終わらせようとした時に頭をがしっ、と鷲掴みにされる。
私、女子なんですけど。
というか。
「痛い痛い痛いごめんなさい冗談ですっ」
「騒がしい女だ」
誰の所為よ!
怒鳴りたかったけれど、こいつに文句をつけても結局私に返ってくる。
「で、なんなんですか忠告って」
「ああ―――逃げ出そうとしたり、ふざけた行為をすれば容赦なく殺す」
睨んできた其の目からの威圧に矢張り此の人は王なのだと再認識する。
「へぇ
貴方はそうして脅して何人殺してきたんでしょうね?」
ちょっとした嘲笑含んで尋ねると頭鷲掴みだけでは済まぬ刑が下った。
「貴様は自身の立場を理解しているのか?
貴様のような虫けら、片手で殺せる」
私よりどれくらい大きいのだろう其の左手に首を絞められても何も感じない。
「どうした?命乞いをして見せろ」
口角をあげて嫌味に笑う陛下にせめてもの抵抗で睨むとほう、と意味ありげにまた笑い手が私の首から離れる。
其のままひっこめてくれるのか、と淡い期待は虚しく左手は私の顎をくい、と上に持ち上げる。
「反抗的で面白い瞳だ。イアーの者は皆そうなのか」
「嫌いな人とかの前でなら皆こういう瞳になるわ」
「正直なのか愚かなのか判らぬな」
純粋無垢正直素直な平凡女学生よ。
やっと顎から手を除け、ベッドに座っている私を冷ややかに見下ろす。
「精々捕らわれた身で自由にやっていろ」
誓った。
絶対、絶対、絶ッッッ対にっ!
私は仕事口を見つけて此処から出る!
そんで此の国の人全員に陛下の悪口を云ってやるんだっ。
* * *