Ⅵ
* * *
「でも、どうして其の別世界に来てしまったんだろう」
思い当たるといったら黒猫くらいだ。
革の首輪を考えても。
「多分、誘われたのだろう。
百年に一度くらいある」
此の人何歳よ。
「あの、黒猫?」
「猫?なんだ其れは」
どうやら、猫は存在しないらしい。
学校と云い、地球の事はあまり知らないのだろうか。
「まあ、可愛らしい動物のようなものよ」
「あれは、下僕だ。
あれだけが、他世界を行き来出来る。情報を集めるのが仕事だ」
「あれだけがって、じゃあなんで私は行けたのよ」
「知るか、偶然だろう」
人の苦しみを、そんなひと言で。
此れから・・・如何すれば良いのよ。
「此の世界って、仕事口とかあるの?」
「腐るほどな」
其れならば良かった。
何処かで働いて、とりあえず帰る手段が見つかるまでどうにか生き延びよう。
「じゃあ、いろいろ有難う」
礼を告げて立ち上がった時に、後ろからチャキ、と刀を抜く音が聞こえた。
「帰らせると思うか?」
「殺される理由・・・ありませんよね?」
おおありだ、と反対の壁まで逃げようとする私の腕を捕える。
「暗黙のルールで、他世界と干渉していけない
此処を除くお前の居たイアーともう一つの世界は他に世界があるなど思って居ない。
此処で秘密が漏れたら困るのだ」
「何が困るのよ」
別にいいじゃない、ヘー違う世界があったのみんな仲良くしたいね。
何がいけないのだ。
「其れで過去実際に全世界痛手を負った。
なんとしても、其れだけは防がねばならん」
「私、死にたくないんですけど」
明確な生きなくてはならない理由は無いが、矢張りそう易々と死ねない。
「帰り方も知らないし、余計な事を云う理由もないし。」
そして、未だ読み終わって居ない本がたくさん。
「貴様など信用できるか」
「ならば何故話したの?」
目の前で、そういえば名前知らない、此の世界の王が端整な顔を歪めた。
「どういう意味だ」
「混乱して居る私に、適当な事言って追い出せば良かった。
お前は頭がおかしいのだと、そういってしまえば良かったのに。
なんで、わざわざ此処は地球じゃない事、他世界がある事を教えたの?」
暫く思案したようなそぶりの後、
「気まぐれだ」
と吐き捨てる。
「兎に角、殺す」
「す、ストップ!早まらないで!」
「此方とて殺したいわけでは無い。
見苦しい命乞いはよせ」
「そうじゃなくて!」
一つだけ、気になったのだ。
命乞いとかは其の疑問解決後で良いだろう。
「なんだ」
「うん、此の世界には地球には無い書物はありますか?」
黙って、私の腕を引いて此の国の王は部屋内にある扉を開いて中に私をおしこんだ。
広がった、景色。
「うわぁ」
「我の蔵書だが、此れは一部に過ぎない」
一軒家以上の高さのある吹き抜けの部屋の壁には隙間なく本が詰まっている。
「矢ッ張り、殺さないで!」
* * *