Ⅳ
* * *
「お前、何者だ」
私に刃物を向ける男性を観察する。
端整な顔立ち、重く高そうな剣、其れに素人目に見ても判る上等な服。
此の人は、貴族かなにかだろうか。
いや、其の前に質問に答えた方が良いのだろう。
「私、紅紫と申します」
親が遊んでつけたのだ。
弟は、紅蒼。
紅いのか蒼いのか判らない。
私の発言に対して、端整な顔を歪めて睨んだ。
「誰が名前を聞いた」
「何者、という質問に答えただけですが」
種族人間ですとでもいえば良かったのか。
「我が聞いたのは、そう云う事では無い。
何故此処に居るのかということだ」
其れは私がききたい。
「此処は何処?」
私は誰、とノリで云いたいけれども此の人には通用しなさそうだ。
「此処はリィフューズ。
我が治める世界。」
「ああ、いえ此の世界でなく此の部屋はという意味なんですが」
今此の世界を知っても意味がない。
「・・・・・・・」
無言で、見下ろされた。
其の、リィフューズ?という世界が此処というけれど
私は地球で生まれた日本人だ。
「此処は、我の仕事部屋だ」
ああ、矢張り仕事部屋なのか。
「そうですか。
では泊めていただき有難う御座いました。
此の御恩は一生忘れません。
其れではしつれいしま――「待て」
何処に行くつもりだ、とソファから起き上がって扉に直行した私の背に刃先をむける。
「此処は数え切れない罠、門外には数百人の騎士。
此の世の王が住む城として、世界最大級の悪戯――じゃなく護衛が施されて居るにもかかわらずお前は此処に入った。
何者だ?」
此の人、悪戯って云ったよね。
此れで判った、此の人は性格が悪いだろう。
「何者、といわれましても何処にでもいる平凡な学生です」
いつものような説明をすると、心底不思議そうな顔でこう問われる。
「学生とはなんだ」
色々驚いたけど、先ず背中にある刃の矛先が私じゃなくなっただけ良しとしよう。
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