ⅩⅩⅠ
* * *
「人多いですね」
「王立都市だからな。はぐれるなよ」
手首を掴んでいた陛下が指をからめた。わざわざ恋人繋ぎの意味が不明だけれども此れなら逸れない。
「あれなんですか」
「本屋」
「あれは?」
「写真屋」
「あの黒い店は?」
「芥特殊専門店」
どんな店!?
でも入りたくない。
「あれは?」
「ドルチュカの店」
「ドルチュカ?」
食べ物の名前なのだろうか、初めて聞きとれた。
「有名な飲み物の名前だ。お前いい加減にしろ我を案内係と思って居るのか」
「え?そりゃあそうですよ――」
口づけられた。
人前で。
街の中で。
「我が、なんだ?」
「・・・何でもないです」
視線が凄い。
恥ずかしさから顔が紅くなるのが自分でもわかるけれど陛下は知らんぷりだ。悪魔。
「陛下・・・何処かお店入りましょうよ」
今道を歩ける自信がない。
「そうだな。最近問題視されて居る店でも寄ってみるか」
「嘘でもデートなんだからオブラートに包んでくださいよ!」
「最近色んな意味で有名な店があるからいくか」
「遅いです」
「拗ねるな。後で何か買ってやるから」
もので釣ろうったってそうはいかない。
「本」
別に赦した訳じゃない、違うのだ。
「失礼な奴だ。此の世界の書物は凡て我が持っている」
凄い。では本を買っても意味がないのか。
じゃあ何も買ってほしいものはない。残念だ。
「女らしく装飾品は欲しくないのか」
「・・・あまり」
似合わないし変な云い方だが綺麗な物は怖い。
裏路地に入り、また変な道を抜けて怪しげなバーらしき場所に直面する。
「陛下・・・?」
入るぞと手を引かれて絶対にデートと呼ぶにしてはおかしい場所に入る。
デリカシーがなさすぎる。
「・・・いらっしゃい」
暗闇の中から現れたのは無精鬚の中年男性。やる気がない店員。
「実は北の方の出身で初めて王立都市に来て早速迷ったんだが此処は何屋だろうか」
「北の出身?にしては鈍ってねぇ標準語を喋ってんじゃねぇかよ」
「母が此処等の出身なんだ」
あっさり納得した男性。
此の人はよくもこんなにもあっさりとぺらぺらと。
キャラも変わってるし。
「初めての奴なら特別に教えてやらぁ
此処は情報の売買をする店だ。金さえ出せば誰にだって情報を売る。
お前さんも職場に困ったら来いよ。身の安全は保証出来ねぇが割りは良いぜ」
陛下に対して何を云う。一番割が良い仕事の気がする陛下。此の世界の王。
「覚えておこう。一つだけ、此の世界の王をどう思う?」
「さぁ?俺みてぇな屑には無縁だからよ。
でも噂によれば若ぇのに頑張ってるらしいじゃねぇか。俺とは大違いだな」
見た目に反して良い人。
職場斡旋、陛下激励。
さて、陛下はどうでる。
「・・・そうか、では何か尋ねたいことがあったら此処に来るとしよう。親切に感謝しよう。行こうか」
見た事無い優しそうな笑みを此方に見せた。俳優顔負けの演技だ。
「へぇ、あんた女が居たのかいやっぱあんたみたいなやつには美人しかよってこねぇのかい」
「幼なじみなんだ。では失礼する」
あっさり見送った中年男性に吃驚する。こういうのって殺されたりしないのか。
「なんだ、普通の情報屋か」
「嘘つき」
「王として取り締まりに来たなんて云ったら面倒だからな」
「つい最近会ったばかりなのにね。」
「我からしたらあまり時間は関係ないな。お前の事は大体判った。変人。非凡以上」
私が一番嫌いな言葉だ。
非凡、変人、普通じゃない。
私は普通が大好きだから。
「全然判ってません。でも私は陛下の事判りましたよ。陛下は意地悪です」
「意地悪、か」
そうだなと嗤って陛下がまた口づけた。周りに人が居ないのが救い。
本当、意地悪だ。
「我は若いのに頑張る此の世界の王ぞ?口に気をつけろ」
意外と調子に乗るんだ。
「偉いですねー、流石です」
睨まれながら、狭く暗かった路地から大通りに出る。矢張り人が多い。
「陛下、雑貨屋さんみたいです」
「意外と女子だな」
「五月蠅いです」
「ならば其の唇で塞いでみたらどうだ?」
流石に人前で口づけなんてするものか。
あの陛下が下僕と称した黒猫が大きなぬいぐるみになって飾られた店に入る。
こんな処入りたくないと嫌な顔する陛下は無視。
「あ、此れとか可愛いですよ」
鎌を持った黒猫を陛下に見せる。どうやら此の店は黒猫グッズが中心らしい。
「欲しいのか?」
「いえ、そういう訳じゃないです。可愛いなって」
「欲しいなら欲しいと」
「いえ、別に本当に欲しくないですし」
「おい、此処の店のもの凡て城に―――」
「ちょっほんとストップですやりすぎです!」
「お前が正直に云えば良いのだろう」
本当に欲しい訳ではないのだが。
何故人の発言をはいそうですかと信じないのだ。
一応優しいのだろうけれど、度が過ぎている。
「じゃあ、陛下が一個だけ選んでください」
「一個?別に凡て買えば良かろう」
「そんなに持って居たら大切さが損なわれるでしょう?私には一個で良いですよ」
そうかと今度は意外とあっさり頷いた陛下。今まではなんだったの。
「此れはどうだ?禍鈴だ」
見せられたブレスレットだろう、黒い鎖に猫の形の大きな鈴が一個。
「じゃあ、其れで」
そうかとまた頷いた陛下がレジにだろう、運んで行く時に何故か鈴の音が聞えない。
あれほど大きな鈴だから大きな音で鳴るのかと。
にしても、衣食住支えてもらって居てプラスでなど申し訳ない。嬉しいは嬉しいけれど。何か出来れば良いのに。
「紫」
また珍しく名前を。
手に付けられた禍鈴に礼をいって腕を振ってみるも矢張り此の鈴はならない。
「不良品」
「阿呆。禍が生じた時にだけなる鈴だ」
凄い。不良品扱いごめんなさい。
「陛下、有難う。あとはスイーツ食べて本屋行こう」
「別に何度でも来れるのだからそう急かさんでも良いものを」
溜息を吐く陛下は行き慣れて居るのだろう。其れでも此の世界の街は私は初めてだ。もっと見たい。
「少し訂正。陛下はちょっとだけ優しい」
ちょっとかと笑う陛下とまた指をからめると恋仲みたいな感じがして微妙に恥ずかしい。
惚れさせてやるまでは、好きになんかなるもんか。
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