Ⅲ 東岸英吾(6)
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次に英吾が見た光景は、眩しい赤い光を放つ、白と黒の混じった車と、血だまりの中で顔を突っ伏している二人組だった。二人ともぴくぴくと躰を痙攣させ、必死に生きようとしていた。あまりにも滑稽なその光景に、英吾は思わず笑いそうになった。
「君がやったのか?」
突然、青い制服を着た男が話しかけてきた。彼は何やら胸のポケットから取り出し、英吾に提示した。そこには、A警察署、甘利という文字が見られた。どうやら、警察官のようだ。いつの間にここへ来たのだろうか。
「はい」
「君も、すっかりやられたようだね。多分、正当防衛ということになるだろうけど、あのまま彼らを殺していたら、そうはいかなかっただろうね」
「生きてるんですか?」
どうせなら死んでくれればよかったのに、と心の中で毒づいた。
「ああ。死ななくて良かったと思うがな。その腕章を見るに、君はI高校の二年生だろ? これからの進路に影響しないように、穏便な対処をしてもらえるだろう」
「そうですか。それはありがたいですね」
まるで、人を殺そうとしたことに、何も感じていないかのように冷徹な表情を浮かべ、英吾が答える。
今回は、瑛二を間接的に殺したこととは、訳が違った。彼らの無防備な後頭部に石を打ち付けることに、何の躊躇い(ためら)もなかったし、殴り倒した後も、眉ひとつ動かさず、まつ毛の一本も揺れなかった。
きっと、あの時栂池に襲いかかった時の瑛二も、英吾と同じ気持ちだっただろう。栂池をあの時、殺してしまっていたとしても、何の後悔もなかったはずだ。それどころか、快感すら覚えたかもしれない。
英吾は甘利に連れられ、警察車両でA警察署へと連行された。