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今日という日  作者: 誓約者
人でないもののはなし
28/30

INFO:木刀は破壊されました

…疲れた。読みにくくなったと思われます。心してください

 ―遠くで親に泣きつく幼児がいた。右腕についた綱のような痣がはっきりと見える。

「わ、私、なにもしてないよ…!」

 目の前には涙目の妹が切実に、訴えかける。

「分かってるよ…」

 優しい言葉を一言かけながら、一歳しか違わない妹の体を胸に抱く。それでも妹の涙はとまらず、ぽたぽたと肩に水滴が落ちる。

『どこの子供よ…』

「…!」

 脳内に響く声。遠くの、あの泣きついていた親の声と直ぐに判った。

 妹を握り締める力が大きくなる。

 ―私が泣いてはいけない。私が泣いちゃいけない。私は姉として、未稀を守らなければいけない。

 感じたことがある思いを胸中に広げ、奥歯をかみ締めながら、うわずる声を押し殺す。

「…なんで…」


 私たちは普通に生まれなかったの?


 *


 真夜中、学校の銀杏に手をかざす彼女。満月が煌々と辺りを照らす。

「…これでいいんだよね」

 静かに問いかける声は中庭に反響した。黒い鏡のように反射するガラス窓。その一つから用事が抱きしめるような大きさのクマの人形が窓を開け、ぽとりと落ちた。

 彼女は無言で落下点に行き、両手を差し伸べた。めがけてクマが飛び跳ね、乗った。

 ほくそえみ彼女は銀杏の木を見直した。

『十分だ。これだけ供え物があれば神も分かってくれるに違いない』

 クマから声がする。縫い付けられたプラスチックの目は銀杏の元にある数枚の紙切れを覗く。

「これで私は―」

 幸せそうに笑いかけたが、途端に真剣な目つきをして濃い闇を睨んだ。

 唯一中庭に校舎に入らずに進入できる場所。彼女は誰かがその闇の中に存在していることを感じ取っていた。

 彼女は無言で睨みつづける。やがて侵入者二名は月光にさらされた。

「…」

「お前の予想は嫌なほど当たるな」

 理心が楽天的な口振りをする。後ろの来葉は闇を引きずっていた。

「今回は外れてほしかったがな」

 来葉はため息混じりに呟き、有稀をにらみつけた。

「…こんな時間にどうした? 忘れ物か? 有稀」

 理心は彼女の目を見て問う。深夜の学校の敷地内は厳重なセキュリティーによって厳重に管理されている。よって理心らもまともな理由でここにはいない。

 有稀は清掃員の手元を見る。薄い氷で構成された二丁拳銃を握っている。

「驚かないんだな」

 来葉が言う。

「…」

「まあ、いい」

 一言で終わらせると両目を滑らせ、有稀の足元にいたクマのぬいぐるみに向けた。

「お前が首謀者でいいんだな?」

 さも当たり前のようにぬいぐるみに話しかける。暫く沈黙があり、若い少年のような声が聞こえた。

『…君らはなんだ?』

 口は動いていないが確実に話していた。驚く理心を尻目に来葉は続ける。

「上界の人間…で理解できるかな?」

『…なるほど…』

 来葉の回答に納得した声色を出す。

「…目的は?」

『…この子を助けたかったんだ』

 ぬいぐるみの顔が理心からはずれ有稀を見る。

『望んでもいないのにこんな能力を手にして、本人は苦しんでいた』

「ESPか」

『僕はその解決方法を知っていた。彼女も助けを求めた。だから、僕は―』

「ふざけるなよ」

 不意に隣にいた理心がかみつくように言葉を遮った。

「…そんなんじゃないだろ。お前の目的は」

『……』

 クマは黙る。

「ならなんで―!」

「理心」

 急速に激昂する心が一声で穏やかになる。クマが軽く肩を竦めたように見えた。

「俺も、そうは思えないな」

 腕組み、話し出す。

「…俺の予測だが、お前は有稀を利用したんじゃないのか?」

『…』

「ESPを消せるといい、有稀の意思をコントロールする。その後有稀や未稀を通して、おまじないという名の降霊術を広める。だが、降霊術などまやかしだ。素人に霊が呼べるわけがない。必要なのはそのまじないに込められた強い念だ」

 淡々と話を続ける。来葉の論理が夜闇に消えていく。

「念じることは一種のESP能力。超能力とされている。ただ、強い念は紙に閉じ込められているから今日みたいに燃やさなければいけなかった。紙という依り代を解かれた―」

『―解かれた念は辺りに漂う』

 クマが不意に言葉をつないだ。

『漂えば力は薄れていくので燃やした日に儀式を行わなければならなかった。といいたいのか?』

「…違うのか?」

 臆せずに来葉は問う。違和感はあった。そして違和感は目の前で具現した。

「…正解だよ」

 問いに有稀の口が動いた。同時にクマはぱたりと倒れ、人の圧力は感じられなくなった。

 動いたな。いわずとも理心に告げる。

「そうして藤野も操ったんだな」

 そう呟くとクマのぬいぐるみに数発撃ちこむ。クマは軽い音を立て、体中から白い綿を吹き出した。

「賢明な判断だ」

「…」

 無言で見返す。

 理心から聞いた藤野の話で仮定し、現在確信に至った。理由は分からないが憑依に似たことが出来るらしい。

「賢明な君にききたいことがある」

 有稀の口はそう言うとふらふらと後退して壁に背をぶつけた。


「君が以前僕を撃ったのか?」


 語中、クマの口角がにやけたことを来葉が認識。合わせて質問も理解した。

「…そうだ」

 理心を気にしながら、言う。予想通り、背後から聞こえてきた。

「クルハ―」

「後で説明する」

用意した一言で理心は黙り、確認した来葉の視線は有稀に戻る。

「お前の本当の目的は?」

「上界に帰る」

「……どうするんだ理心」

 振り向かずに理心へと問いかける。

 このまま放って置けばこいつはこの世界から消えてくれる。下界の住人としては悪くない話だろう。

 意識を有稀に、目を理心に向けた。

「…とりあえず有稀と未稀と藤野に土下座してもらおうか」

 妙に間を空け理心は言った。妙に軽い口振りに最後まで聞かずとも来葉の体は戻る。

「それまで向こうに行かせたくねーし。うん」

 自己を納得させた理心は胸ポケットからボールペンを二本取り出し、それぞれ短い剣に変える。

「…だそうだ。残念だな」

 話しながら、変化が無いことを目視する。変わらず漂う重苦しい魔力の波動も同じだ。

「いいよ。僕は機嫌が悪い」

 そう言って背後の壁に手を着け、白銀のランスを抜き出す。それだけではない。壁から異形の物体が這い出ようとしていた。

 形となろうとし、なれずに辛うじてゲル状となるそれを二人は連想付けた。

「―影!?」

「ァアアアアアアアアア!!!」

 返事をするように奇声がたたき出される。飛び出る無数の黒い影。すかさず来葉の銃弾が飛び、頭と思しきものが次々と爆ぜる。絶え間なく吐瀉音と共に銀杏の木の下が汚れていく。

「…ほんと―」

 突如、理心の懐から声がする。目を向ける隙すらないと、直感した。

「迷惑なんだよ!」

「…っ!」

 咄嗟に身を反らし、突き出されたランスを短剣に当てる。だが、衝撃を止めるには至らず、吹き飛ばされる。土を二度えぐり、視界が二転する。

 必死に焦点を敵に合わせる。

 有稀の黒髪は暁光のような橙色に染まっており異界の者となっていた。確認してから間もなく、次の突きが繰り出される。

 甲高い金属同士の衝突音が轟く。

 今度は完全に防いだ、と思ったが交差した二本の短剣を押しのけるようにランスがねじりこむ。

「ほらほらぁ!」

 威勢がいい声に、こらえるように呻くことかできない。じりじりと鋭利な先端が体に近づく。

 やがて、堪えきれず自ら吹き飛んだ。急激に地面が近づき、一転、背中を強打する。口の中に血の味が広がった。

 理心自身、女子に吹き飛ばされるのは癪に障る。とはいえ、本能が危険を感じ取ったことは確かなのだろう。

 すっと立ち上がり、ちらりと来葉を見る。

 四方八方の影を順番に次々と撃ち抜いている。気付かなかったが銃音は一度も止んでいる様子はなかった。なおも増え続ける黒い生命体を現状維持で精一杯みたいだ。幸いにもこちらには影が一体も向かってこない。

「…ああ…違うか…」

 向かってこないのではない。彼女が向かわせていないだけだ。脳の中枢まで震えたらしい。

 息を吐き出し、彼女を睨む。ただの憂さ晴らし。好物を誰にも食べられたくない子供だ。

「つまり、俺様次第か…」

 呟くと狂気に満ちた笑みを浮かべながら彼女が迫っていた。再び突き出される高速の一突き。

 今度は完全に見えていた。それでいても避けれないスピードであることは違いない。


 屈辱っちゃあ…、屈辱だ。


 瞬間、息が感じ取れるほど彼女の顔が近づき、左腕に杭を打ちつけたような痛みと鈍い音が聞こえてきた。

 ―有稀の顔は無邪気に笑っていた。


とりあえず理心のかっこよさが―。


二本の双剣…先日、木刀はこなごなになりましたので


ランス…RPGが好きだから。


クマ…がおー。実家の近くに出没しやすいので


有稀…作っていくと可愛くなってきた(脳内映像では)。変態とか言うな!


理心…なんか、体張る役になってる


来葉…説明役。これからも

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