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今日という日  作者: 誓約者
人でないもののはなし
19/30

胸騒ぎがする…。(単なる気のせい)

 ―都合により時は移り、昼休みとなる。

 当然のように体育終わりにいたメンバーがそろっている。

 茣蓙ござにくるまれた理心は部屋の隅でいびきをかいている。茣蓙は朱の先刻の発言による措置であるのは言うまでもない。

 綾平はソファーで眠っている澪羅の横にすわり、退屈そうに大銀杏を眺めている。朱はその向かいだ。

「暇なんだね、こっちは」

「平和のほうが聞こえはいいんじゃないのかな…」

 ぽつりと言った綾平の言葉に苦笑いする朱。

 これが東の日常だ。普通としか表現できないものを彼は暇と表現するらしい。では私や理心がむこうに行ったらきっと戦場と表現するだろう。それほどまでに西の学校は荒れているのだろうか。

 そんなことを考えながら朱はカップに注がれてあるコーヒーをすする。

 その時、ドアノブから錠が開く音がした。

「あのぉ……」

 がちゃ、という鉛の音で入ってきたのは小柄で何とも可愛らしい少女だった。

「どうしたの?」

 一番近い位置にいた朱がカップを持ったまま近づく。

 あまりにも幼すぎる外見から小学生の迷い子と見間違えそうになったが、緑の腕章と制服を見て同学年だと確認する。

「ここは生徒長室、ですよね…?」

 見た目に違わぬ可愛らしい声が疑問気に問いかける。

「そうだけど…どうしたの?」

「いや……あの…大した用じゃないんですけど……」

「……」

 身を捩じらせ恥ずかしそうな態度を取る。反射的に朱の目は侮蔑するようになる。

 朱にとっては嫌いな性格の一つだ。人と対面して話しをするのが恥ずかしい気持ちは判らなくもないのだが、話が進んだ覚えがない。今もまた然りである。

 徐々に腹の底からどす黒いもやがこみ上げてくる。

 結果、朱はこういう生徒と対面すると決まって眉をしかめこう言ってしまうのであった。

「何の用?」

「う……」

 目前のくりくりとした大きな目に涙が溜まる。

 言ってしまってからしまったと思い額に手をつく。またやってしまった。

「ふえぇぇ……」

「朱はイジメの癖があるのか…」

「別にイジメてないです」

 見かねた口振りで言う綾平が近づいてきて彼女の隣に来る。

「大丈夫?」

「…」

 小さく欠伸をして、彼女の頭をぽんぽんと叩く。

「…で、何のようえふぉふぉに来たの?」

「なんて?」

 欠伸交じりの発言に朱が怪訝な表情をする。

 ただ、言動の意味は涙目の彼女に伝わったらしい。

「あのぉ…わたしは……」

「………」

 いや、前言を少し訂正する。私の嫌悪の意味までは伝わっていないみたいだ。

 無意識のうちに苛立った息を漏らし、右足が小刻みに床を鳴らす。

「え…っと…そのぉ……」

 またもじもじと…。

「言いたいことあるならさっさと言う!」

「うぅ……」

「あ…」

 再び後悔の念が心の中で渦巻く。

「またイジメたな」

「だからイジメてないって!」

「ぅぅぅぅ………」

 彼女を擁護する発言をする綾平はよしよしと小さな頭を撫でる。

 自分は間違ったことをしたのだろうか。

 いや違う。時間はもったいないし、大体条件反射で起きてしまって、理性ではどうにもならないことだ。朱は罪悪で生まれた傷を言い訳で塗りたくり、自分を保つ。

「あの人恐いなら俺に耳打ちできる?」

「あんたも茣蓙に処すわよ」

「ふぇ…ぇっ……」

 言われた彼女は足りない身長を背伸びで補い、綾平に耳打ちする。

 まるで子供だ。すぐに涙が溜まるところや、極度な物怖じ。朱は直感でこの子とは仲良く慣れそうにないと判断する。

「……そう」

 話が終わったらしく、綾平は猫背になった体を起こし朱の顔を見る。

「なんだって?」

「生徒会に頼み事だって」

 何とも平凡な答えに朱はがっくりと肩を落とす。

「たったそれだけに……」

「しかし生徒会の香理心が茣蓙に巻かれているのを見て、手荒い集団が生徒会を倒したのかと思った、らしいよ」

「……」

 朱は聞いて目を丸くする。綾平は眠そうな欠伸を再びして、澪羅の隣に座る。

 これがただの八つ当たりだと分かっていながらも、理心の寝息が不快に、腹立たしく感じられた。


 *


「…で?檜山ひやま未稀みきちゃんは何の頼み?」

 自分から差し出した生徒手帳を眺め、朱は自分なりにやさしく問う。自分なりに。

 だが意図とは逆にまだ恐いらしく肩をびくつかせ、綾平に耳打ちする。

「…自分で言えよ」

「やっぱ理心もそう思うよね」

 呟きに反応した隣の理心をちらりと見る。

 茣蓙から開放されて間もないので首の辺りが赤く筋のように腫れている。措置とは言えここまで赤くなっていると朱も罪悪感を覚える。だが後悔はない。

 出来れば今日中はあの状態でも良かったのだが一応理心は副長だ。依頼をする側に失礼があってはならないのだ。

「…俺なりに要約していいかな?」

 話を聞いた綾平が問い、未稀は小さく首を縦に振る。

「長いの?」

 痒そうに首を掻きながら理心が言う。綾平は面倒そうに後頭部を掻いて、理心と朱の方を向く。

「まあ、事は最近始まったらしい…」

 二週間前、未稀の友達の一人が通学の電車のドアに挟まれ、肩を脱臼した。

 その三日後、未稀の隣の男子が授業中に腹痛を訴えて早退。後日胃に穴が空いていたという。

 そして、昨日学校の玄関を出た瞬間、上から植木鉢が落ちてきたらしい。運良く前髪を掠めただけで怪我はない。

「不幸、にしては多いね」

 朱がソファーの背もたれに体重を乗せる。

「…で俺らにその原因を確かめてほしいと?」

「………」

 未稀は小さく頷く。

 朱は天井を見ながら考える。

 事象としてはおかしいけど、偶然といってしまえばそれまでだ。何より理由としては不十分だ。未稀の胸が自分より大きいとか、性格が気に入らないとかを無視してもこの仕事は受けるに値しない。

「…」

 朱の視界に理心の後頭部が見える。

 バカな理心だってそれは分かっているはずだ。


「おっけー。引き受けた」


「!?」

 立ち上がり返事をした理心の顔を驚いた表情で見る。気持ちいいくらいに清清しい表情をしている。

「本当ですかぁ…!」

 終始怯えていた未稀の顔がうれしそうに輝き、胸の前で手をあわせる。

「ちょっと理心!本当に受けるの?」

「なに?」

 ソファーから立ち上がり、清清しい横顔に噛み付く。視界の隅でまた未稀の顔色が沈んだが、気にせず朱は問い続ける。

「こんな不確かな話に相手してたらきりがないよ。それに、もしイジメなら私達が関与しないほうが…」

「もし、だろ?」

「…うん」

「可能性で話するんなら不確かなんてのも可能性だよね~」

 珍しく鋭く切り返す理心に朱は何も言えなくなってしまう。

「ま、だから俺が調査したいと思ったんだしね。調べて何もなかったで済めば一番いいのよ」

「…!」

「けど…」

「だいじょーぶ……」

 立ち上がり不意に朱の肩に手を置く。

「なんかあったら命がけで守ってやるからよ」

「……そ、その約束守りなさいよ…」

 慌てて肩の手を払い、朱は尻すぼみに台詞をはき捨てる。なぜ視線を反らし俯いたか、理心は疑問に思ったがこの時は口にするほどではなかった。

「…って俺決めちゃったけどいいかな?生徒長」

「興味ない。元々ここのルールには口を挟まないつもりでここにきたからな。東の副長の方針に従う」

「そ。なら決定だね」

 朱が手にしていた未稀の生徒手帳を取り、未稀の前に差し出す。

「未稀ちゃんもちょっと手伝ってね」

「は…はい」

 笑顔の理心。未稀の隣で欠伸をした綾平は未稀の顔色が心なしかよくなっているように思えた。

 気のせいだろ。

 心の中でそう呟くと、無意識のうちに視線が澪羅のところに向いた。相も変わらず綺麗な顔ですやすやと寝息を立てている。

 綾平は仕方なさそうに鼻から息を吐き、下唇を小さくかみ締めた。


 *


 ―翌日。三時限目の授業中。学生の皆さんは勉学に励んでいる最中だ。

 それは生徒会の皆さんも同じ。…のはずだが。

「…まずは君が脱臼した藤野ふじのさん?」

 機嫌がいいように笑い、問いかけている理心が生徒長室にいた。

 いたと判るのは当然朱も、綾平も、ストーカーもその場に居合わせていた。

「……そーか。これがねらいか…」

 壁を背にした三人の中でおでこに手を当て、重いため息をつく朱。

 理心の目論見は授業を休みたかっただけだ。

 膨大な嫌気が理心ではなく、自分に向かう。授業より生き生きする理心を見て、嫌気が色濃く増幅する。昨日の自分の言動が恥ずかしく、どうしようもなく思える。

「…気付いてなかったのか?」

「残念ながらね」

 綾平の発言すら嫌味に聞こえる。ちなみに綾平自身は嫌味のつもりで言っている

「綾平~。おかわり~」

 気にしない澪羅は右手を綾平の目の前に出す。

「ほれ」

 流れ作業のように手にした茶色い紙袋から、肉まんを取り出し置く。澪羅は右手で受け取ると大きな一口をかじり、せわしなく口を動かす。

「今日は気絶させないの?」

「電源がなくなった。食べ物さえあればそこそこおとなしいから何とかなる…」

 その割には綾平の表情は浮いてない。続けて朱は問う。

「なら…」

「だが食費が馬鹿にならない」

「…あ、そゆこと……」

 無表情の横顔に今までの苦悩が垣間見え、朱は愛想笑いをする。

 そっと身を乗り出し、横目で肉まんをほおばる澪羅の姿を見る。

 確かに一時限目からずっと食べている。綾平の話が確かならば見ている限りで四千円分を消費している。

 だが不思議なことにそれだけ食べてもあのスタイルは良すぎる。カロリーが全部胸に行っているのか。うらやましい限りだ。くそっ。

「な~に?」

「…なんでもないよ」

 無垢な瞳を向けられ、誤魔化す笑顔を繰り出す。

「おい。藤野ちゃんの話聞いてんのか」

 ソファーで話をきいていた理心が注意を引くように、両手を振り回す。ここにきて副長らしくする理心への憎悪が再燃する。

「ちゃんと聞いてるから続けてて」

 私はここにいる理由くらい忘れない。少なくとも理心よりは頭の使い方はうまい。

 藤野に向き直った理心を眺望しながら、こめかみに指を当て話のあらすじを思い出す。


 いつも通り藤野は通学用の電車が来る三番ホームに待っていた。いつも通り寝坊した未稀とぎりぎりで電車に駆け込んだ。

 そして、発車のベルが鳴っている最中に服ごと外に引っ張り出され、そのまま未稀とつないでいた右腕が閉まり始めた扉に挟まれたらしい。

 騒々しくなった乗客に気付き、電車は少し動いた後に急停止したがそのときに腕を脱臼したという。


 大体こんなところだ。

「あのときはものすごく痛くて…扉の跡は三日消えなかったですよ~」

 藤野は右手首をさすり、苦笑いをしながら言う。

「その時ホームには誰かいたの?」

 朱が小さく挙手して質問をする。すると困ったように眉をひそめ、眼鏡のフレームを人差し指で掻く。

「どうした?」

「人じゃないんですけど…」

「人じゃない?」

 綾平が珍しく興味を持った声色になる。藤野は目を閉じ、さらに眉をしかめてこう言った。


「人影のようなものですかねー…」


「…」

 影。その言葉に理心は毛細血管まで緊張するのを感じた。

あーぜんぜんクルーエルがでてこねぇ…。ストーリー上仕方ないけども…。


―次回―


理心「あ~。超能力でもあればなあ」


未稀「ないんですか…?」


朱「あるの?」


未稀「ぅ…。…はい。ボールペンならぁ………」


理心「ほい」


未稀「い…いきます…」


―お楽しみに―



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