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今日という日  作者: 誓約者
京のおはなし
11/30

同い年なのに自分より稼いでる人を見たくない

 ―長い闇を抜けた感覚があった。

 夢から覚めたようなおぼろげな感覚を感じながら、京はゆっくりと瞼を開いた。

 闇の扉を抜けた先。ここは上界のはずだった。

「………?」

 視界に入ったのは一面の緑色だった。

 よく林と言われて連想する光景くらい、自然な林の中に京は居た。

 穏やかな風に木の葉がかすかな音を立てる。

「ここか…」

 予想違いに呆然する京を差し置き、隣の来葉は感慨深そうに呟いた。

「ほんとに上界なのか?」

「ああ。この空気はそうだ」

 下界と大差ない光景に疑う京を一蹴する。来葉がそう言っているのだから多分そうなのだろう。

 無理やり頭の中で納得する。

「……こっちだな」

 一度辺りを見渡し、ふと右に歩き出す。

 置いていかれた形になった京は小走りになり来葉に追いつき平行して歩く。

「…あってるの?」

 暫く歩いてから京が不安そうに問いかける。

 かなり歩いたが人のいる痕跡がどこにもない。この林の中で誰かと出会うほうも珍しいのかも知れない。

「誰を疑っている?」

 不機嫌な声で京に問い返す。

 今はこの自信たっぷりな来葉を信じるしかない。京は言い返さずに苦笑いを浮かべた。

「……居たな」

「え?」

 来葉が前方を眺め呟く。頓狂な声で反応したが、京も直ぐにその理由がわかった。

 同じような林の景色の中に一人の少女が居た。

 とある樹に近づくとうずくまり何かを採取している。見れば京たちと同じくらいの年だ。

「エイル!」

 無感情の低い声で彼女の名前と思しき名を呼ぶ。

 驚き弾けたように立ち上がり、一回転して周りを見回す。そして直ぐにこちらを見つけた。

「……」

 こちらを向いてから石像のごとく硬直したエイルに一歩ずつ近づく。

「……ゆ、ゆ…」

「ゆ?」

 何か言いたそうに同じ単語を繰り返す。

 そして、いいたいことは大声で叫ばれた。

「幽霊~~~~~~~!!!!」

「本物だ」

 面倒そうにため息混じりに告げる。

「またまた~。下界に行った人間が帰ってくるわけないじゃ~ん」

 ぽんぽんと来葉の肩を叩き、笑顔で馬鹿にする。

「…これを見てもか?」

 すっと来葉愛用の拳銃の片方をエイルに見せる。

 林の木漏れ日に触れ、水色につややかに光っている。

「これは……Iceアイス triggerトリガー……!?」

 手にした途端、目を見開いて驚く。

「…本物……?」

「そう言っている」

 上目遣いに問うエイルに簡潔に答える。

 そして聞いた途端に何か吹っ切れたようにエイルは来葉に抱きついた。

「うわぁぁぁん!クル~!」

 うれしそうに笑い、目には涙も浮かべている。

「おかえり~!会いたかったよぉ~!」

「…ただいま」

 熱烈な歓迎に来葉は気のない返事を返す。やがて、京がいることをエイルに示唆する。

「あ…」

 急に頬を赤らめ、恥ずかしそうに来葉から離れる。

 来葉から離れると、こぼれそうになった涙をぬぐい、圧倒された京の顔を見る。

「この子は?」

 疑問を来葉に問う。

「下界の人間だ」

「えっ!?」

 聞いた途端に京に寄り、珍しい動物を見るかのごとく目を輝かせる。

「へぇ~…大して私たちと変わらないね」

 京の周りを一周して、残念そうにそういった。どうしていいかわからず、とりあえず下手な愛想笑いをする。

 困った顔をした京と目が合い、来葉が軽くため息をつく。

「……エイル。先に行って皆を集めておいてくれ。話をする」

 いつものように腕組みをしてはしゃぐエイルの背中に投げかける。

「あ…ああ、了解」

 瞬間悲しげな目をし、直ぐに笑顔で来葉に返事をした。

「では、いってきます」

 京に見えたそれが気のせいだと感じるほど元気に笑ってみせる。

 来葉に告ぐとくるりと反転し、来葉が向かっていた方向へと走り出す。

 軽やかな足取りで瞬く間に背中が小さくなり、やがて木陰に隠れた。

 姿が消えると京は肩をおろした。

「…どうした?」

 同時に重いため息を漏らした京を気にかける。

 横目で来葉を見て、無意識に疲れた声色で京は答える。

「……なんか、にぎやかな人だな」

「………」

 疲れた台詞に、来葉は特に反論をせずに腕組みを解いた。

 林の木の葉がさらさらと風に揺れている。

 それから来葉と京は何も言わず、エイルが走り去っていった方角に進路をとった。


 *


 誰も居なくなっていた会議室に京は一人ぽつんと居た。

 扉越しにはあわただしい声と物音が交錯しており、忙しい情景が目に浮かんでいた。

 その音さえも一人きりとなった会議室の中に拡散しては消えていった。

 話は既に終わっている。

 それぞれが割り振られた役割に着手し、ここには京が取り残された。

「………」

 ふと見知らぬ天井を見上げる。

 気付けばこの世界のことを何も知らなかった。全てが驚きの連続でやがて驚くリアクションにも疲れた。

 来葉と同じ考えを持つ人間がこんなにもいてこんな基地を作っていることも、来葉が英雄のようにあがめられることも。

 居心地が悪かった。

 新鮮すぎた情報は自分の存在意義を揺さぶり、世界から嫌われている錯覚があった。

 そんな京だけが浮いていた中で会議は進められた。


「…こいつは下界からの客人だ。気にしないでくれ」

 席に着くと来葉はそう切り出した。

「さて……下界であったことを報告しようか」

 向かい合った年上の男女に腕組みして、来葉は話し出した。


 影の急激な成長。来葉の殺すための刺客。下界には魔力持った人間がいないこと。


 そして、上界より空気が濃いこと。


 京にとって初耳のことも含まれていたが、この空気では問いただせそうにはなかった。

 徐々に話が進むに連れ、会議室がざわめいていく。召集された各グループの代表と思しき人々も顔が険しくなっていく。

「あの王は完全に俺の考えに気付いているようだな」

 小さく鼻を鳴らす。

「…王?」

 京が呟く。

「上界は一つ国が統治していて、その王国の王様」

 隣で座っていたエイルが言う。

 なんでも今の王は逆らうもの全てを罪とする人間らしい。十三年、彼の言うことは絶対でこの上界の頂点として君臨していた。

 来葉が口癖のように上界といっていたがそれは単に王のことを示しているようだ。

「…王は俺の帰還の情報もすぐ耳に入るだろう」

「ですね~」

 厄介そうにはき捨てた言葉にぴりぴりした空気を無視し、エイルがにこやかに返事を返す。いつもこの性格らしくそれを誰も咎めずに話は進められる。

「……王の処刑を明日に変更する」

「!!」

 一拍置き告げられた明らかな反乱の宣言に、会議室内がざわめきによって埋め尽くされる。うっすらとエイルの表情も強張ったように見受けられたが、すぐさま手を二度叩き、場の空気を収める。

「時刻は明日の夕方。作戦は三時間後、広間で行う。異論は無いな?」

 静まった頃を見計らい鋭い眼光で、座った人々の是非を問う。誰もが苦虫をつぶしたような苦渋の顔をしているが、誰一人として首を横に振ることは無かった。

 回りまわってにこやかなエイルと目を合わせ、そして戸惑う自分とも目を合わせた。

「異論なし…だな」

 威厳のある態度でそう述べた。

 その後、エイルの解散の一言で会議は終了した。困惑せずにいたのはエイルくらいで同席した同志たちは足早に出て行った。

「…あとで話に来る。ここで待ってろ」

 席を立つと目を合わせずに京に向かって言い放った。呆然としながらもこくりとうなずく。

 後を追うようにエイルがついていき、京は見知らぬ世界で孤立した。


 *


 結果ここで待ちぼうけを食らっている。

 見知らぬ天井は既に見飽きており、手持ち無沙汰な状態が継続している。

 思うところがあることも手伝おうとする京の動きを止めていた。

 明日、王を殺す。

 判りきっていたことだがいざ対面すると、物怖じしてしまう。

 影を止めるため。下界の人を犠牲にしないため。自分自身を拭い去るため。

 いくつもの言い訳が確かに浮かんでは霧散した。

「………」

 一人沈黙する。

 そこに誰かが扉を開ける音がして、京の意識は自然とそちらに向いた。

「どしたんだい?お客さん」

 ひょこ、と顔を出したのはエイルだった。

「……客さんって…」

「だって名前聞いてないからね」

「あ…」

 思い出したような返事が漏れたと自分でもわかる。言われてみればエイルに名を名乗っていない。

 エイルから目をそむけ、すまなそうに笑う。

「…浮刃京うきはけい。来葉と同い年」

「京ね。私はエイル・ファミズ。よろしくね~」

「よろしく」

 本人は極めて明るく、簡単に握手を交わす。気まずそうな京に構わず、空いていた隣の椅子に座った。

「そいや、京の武器って特別なんでしょ?」

「特別?」

 京が問い返すと、エイルは来葉から聞いた、と言った。記憶の中で武器は魔力によって形成され、京の魔力は複雑で珍しいとはきいたことがある。

 だとすれば特別と来葉自身が判断してもおかしくはない。

「そうなるのかな…」

 頭の中で解釈し、自信なさ気に京が頷く。

「み~せて」

 微笑みながらエイルがねだる。別に不都合な点はないため、京はテーブルの上に手を置き、念をこめる。

 重く凄烈に存在を威圧する物。

 脳裏に大剣を完全にイメージ出来た途端に、それはテーブルの上に現れた。

「…これ……」

 大剣を見るや否や厳しい顔をし、エイルは言葉を無くし絶句した。

 うっすらと煌くExistenceの文字から視線を外せず、凝視している。

「どうした?」

 京が問う。

 声をかけられ、エイルは笑顔を引きつらせ京の方を向いた。

「どうしたって………制約者キョウの剣だよね…」

「!?」

 彼女に告げられた彼の名に京は驚きを隠せなかった。

 エイルは恐る恐る大剣の刃をさすり、わなわなと震える唇を動かした。


「…浮刃は……泊制戦争って知ってる…?」


 震えた声でエイルが京と目を合わす。初めて聞く単語に京は眉をひそめ、エイルの青い目を見た。

読んでいただきありがとうございます


「下界の人間だ」―この言葉が大好き。


悲しげな目―エイルの目


空気が濃いこと―影が成長した理由


泊制戦争―結構大事な事件


来葉真一クルーエル・ハーツ―組織のトップ。若干下界と比べて言葉が柔らかいよ


浮刃京うきはけい―特に書くことなし。


エイル・ファミズ―来葉の右腕。テンションの高低がある?新キャラ。


制約者キョウ―え!?どゆこと!?

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