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今日という日  作者: 誓約者
京のおはなし
10/30

ま…ここまでが下界編だね

「キョウが……」

 来葉の言葉に京は小さく呟き、絶句した。

 来葉はまた床に目を落とし、自論を続ける。

「ならば全部合点がいく。最近まで京が影に襲われなかったことも、影に襲われたこともな」

 来葉は淡々としていた。

「前者は京が影であった証拠だ。だがキョウが影の居所を奪ったとき、影という属性が消え、影が京の前に現れた。これが後者だ」

 あくまで仮定だがな、一言付け加え、一呼吸置いた。

 この予測を京は疑えなかった。来葉は必要のないことは言わずに、考えられる最大の可能性を述べる性格だ。

 それと何より、自分がここまで予測できなかったことは来葉より自分が劣っていることを示していた。負け犬が吠えてはならない。

「記憶がないことは?」

「元々、体のほとんどが影だったんだ。その居所を奪えば体の機能を制御するのは簡単だろう」

 理心の問いにも即答する。仮定といいながら確信めいたなにかが来葉の中にあるようだった。

「……結論として、理由は不明だが京は影ではないと俺は考えている」

 低い声で来葉は断言した。

 理由はキョウの理由だろう。それが引っかかったが、今はただほっとしていた。

 言えば笑われそうなので内心に秘めたまま黙る。

「…で、これからどうすんだ?」

 ひどく投げやりな問いが発せられた。

「次の土曜に同じ扉を開く。一刻も早く上界に行きたいが手段がこれしかない」

「そうか……」

 残念そうに京が肩を落とす。

 生徒長室に重い沈黙が降りる。一応、話すことは終わったはずだ。理心は京の頭から手をどき、この場からたち去ろうとした。

 その時、扉の向こうに人の立つ影が見えた。


「……今行けば?」


 扉をあけて現れたのはフードをかぶった少女で、生徒長室の三人を見て、不思議そうな声を漏らした。

「お前は……!」

 即座に立ち上がり、京と理心の筋肉が硬直する。

 間違いなく目前にいたのは、洞窟で会った真空まそらだった。

「そんな顔しないでよ~」

 いきり立つ二人を抑える素振りをする。

「貴様が真空か」

「初めまして、来葉さん」

「用件は何だ?」

 目線を変えず、とげとげしい言葉が投げかけられる。

「何って……これ」

 また不思議そうな声を漏らし、真空は両手を二度叩く。

 程なく、真空の隣に真っ黒い闇が立ち上り、人並みの大きさまで膨張した。

 手招くようにまがまがしく存在するそれに、京の警戒が強くなる。それを横目で見てた来葉が呟く。

「…上界への扉か」

 土曜日に開いた扉と同じだと来葉は言った。真空は全部聞いていたみたいな用意だ。

「一刻も早く行きたいんでしょ?なら…」

「ふざけんな!」

「ひゃっ……!?」

 理心の怒声に、真空は小さな声を漏らし、おびえたように体をすくめる。

「誰のせいで京が死にかけたんだよ…。自分がやったんだろ……!」

「……だから悪いと思って、今提供しに来たのに…」

 小さい体をさらに小さくし、か細い声で反論する。

 理心の考えは正常なのだろう。彼の立場から見れば、真空に囁かれ京が自殺に走ったように見えたのだろう。

 今想像してるより、ずっと許せない気持ちが溜まっているに違いない。

「信じられないのも判るけど、信じてほしいな……」

 困ったように笑い口の端を歪める。

 無理なお願いに理心は荒く鼻から息を抜き、先ほどから沈思している来葉をみた。

 極端に言えば、これは来葉の問題だ。来葉がどう考えるかが一番の問題であろう。

 同感かのように、真空の視線も自然と来葉に向いた。

 やがて来葉の顔が上がり、その口が開いた。


「……遠慮なく使わせてもらおう」


「………」

 自然と軽いため息が理心の口から漏れた。

 理由は明確で、言っていたことだろう。一刻も早く上界に戻らなければならない。可能性があるならその可能性に賭けたいとかだろう。

 判りきっていたことだ。だが次の言葉に理心は驚かざるを得なかった。


「俺も行く」


「京!」

 咎める口調で反射的に京を呼び止める。言ってしまってから自分に嫌悪感を抱いた。

 心のどこかでは判っていたことだ。中途半端に話を終わらせる人間でないことを。

 しかし、その心の違うどこかではその一言が聞きたくなかった。

「………俺が終わらせないといけないから…」

 構わず京は闇の前まで足を進める。もう何を言っても届かない。

 ―京はそんな人間だ。

「俺は……ごめんだ」

 去る背中にさびしく呟き、まったく動かない両足を見つめた。

「じゃ、入って入って♪」

 楽しそうに真空がせかす。

 引き込まれそうなほど深い闇を前に、一度理心の方を振り返る。

 まだ顔は上げていない。

 なんともいえぬ顔で前に向き直り、闇の中に一歩足を踏み入れる。

 這うように闇が手足にまとわりつき、恐怖を感じる間もなく視界が黒く塗りつぶされた。

読んでいただきありがとうございました。


闇の扉―真空が使える扉。おぞましく入るのをためらう。


来葉真一クルーエル・ハーツ―このたびもちょい役。上界編では結構でるよ


浮刃京―理心に後ろめたさを残しながら上界へ


香理心―はい!もう最終話まで出番なし!


真空―なぜか、小動物っぽくなった…あれ?

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