弱虫侍 其の四
翌日、出勤した兵庫は早速伝馬町の牢に出向いた。
牢屋同心に断りを入れて、牢獄の中に入っていく。
篭った熱気とすえた匂いが鼻を撲った。
薄暗い牢の中で、喜助は筵に寝かされていた。
喜助は一晩立ってもなお動けないほどの体の痛みようで横たわっていたが、声を出すことはできた。
「あんた、昨日の弱虫侍か」
ハン、と鼻で笑って兵庫に格子の向こうからギラギラと光る目を向けた。
「喜助。お主、お鳥という女を知っているか?」
拷問にあった者からも弱虫と言われちょっとくじけそうになったが、すぐに気を取り直して訊いた。
もっとも、答えにはそんなに期待もしていなかったのだが。
「お鳥だって?何であんたがお鳥を知っている」
しかし、意に反して喜助は食らいついてきた。
これは、ひょっとすると当たりかもしれない。
兵庫はもう一度聞いた。
「地蔵を抱えていたお鳥ですぞ。お主、知り合いなのかな?」
喜助は痛む体を引き摺り、格子に押し付けるようにして兵庫に近づいてきた。
「知り合いだ。行方を捜していたんだ。いま、どこにいる。あいつ生きているんだな」
兵庫は少し考えこう告げた。
「知りたければ、全て罪状を認めることですぞ。城に忍び込むは重罪。どちらにせよ、お鳥に会う事はもう許されぬ」
そう言って兵庫は、汚れた床にどっかりと座り込んだ。
「お主、強情張ったって得る物はなにもないですぞ。罪は罪として認めなくてはいけない。理由があればお上だってお情はありますぞ。忍び込んだことを隠して痛い思いをして、何の徳がありますかな?」
今度は兵庫が、じいっと喜助を見つめた。
喜助の目が少し動いた。
兵庫はお鳥の出現と拷問の恐怖が心を錯綜していると感じた。
臆病な分、人の顔色を読むことには優れている。
「もし、話す気持ちになられたら、奉行所に連絡を下され。では、拙者はこれにて」
ここでは押すより引いた方がいい。
そう思い、スッと立ち上がろうとしたとき、喜助が「待てっ」と声を上げた。
「話す、すべて白状するよ。聴取の用意をしてくれ」
連絡を受けた両奉行所の与力同心は、強情だった男のあっけない白状に唖然としたのであった。
「お前、何をしたんだ」
不思議そうな眼差しをした板倉や、南町の与力たちの感心の眼差しが兵庫には気持ちがよかった。
喜助の白状は明朗、しかし悪質なものであった。
「金に困っていたんだ。城なら宝があるかと思って忍び込んだ。蔵から刀や壷を盗って売り払おうとした。城詰の役人の財布もだ。それだけだ」
さあ白状したぜ、と喜助は声には出さずに兵庫を見た。
やけに簡単な理由で城に入ったものだ、とは思ったがこれで処刑は決定だった。
高価な物や十両以上の盗みは斬首、さらに城に忍び込んだ罪は見せしめのため晒し首だろう。
後は、沙汰を待つのみである。
罪を認めた後のこの男の命が助かる望みはなかった。