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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

アリス・ヴァレンティナ、交戦する。

掲載日:2026/09/19

「アレスティナ・フォン・ヴィンセント公爵令嬢。弟、ローレル第二王子の代理としてここに宣言する。貴女との婚約を破棄し、この場にて拘束する!」


 その言葉はローレル王子の兄、ヴェリル第一王子の口によって高らかに宣言された。

 それは私にとってはあまりにも一方的に、無慈悲に告げられた。

 婚約破棄。

 つまり、私に対しての信用が失墜したことを示す。

 今まで私と王族とは非常に仲が良かった。

 それなのに一瞬で信頼が失墜する。

 それが悲しくて悲しくて仕方がなかった。


「……理由を、お聞かせ願えますか?」


 私には知る権利があるはずだ。

 ここまで信頼が失墜した理由を。

 ローレル王子がここに居ない理由。

 きっとそれと関係しているはず。


「本来なら弟がお前に婚約破棄を告げるはずだったのだがな。弟は目が腐ってしまったようだ。お前の毒によってな。」


 ……どく?

 毒物ですって?

 私は、ローレル王子に毒を盛ったと決めつけられたの?

 冗談じゃない……。

 そんな、そんな……!


 私は終わりのない絶望の深淵に突き落とされたような錯覚を覚え、膝から崩れ落ちた。


「だが、お前はローレルに生かされたな。」

「……え?」


 ローレル様に……?

 なんで?

 あの人が私を庇ったというの?


「半ば死に体で言ってたよ。お前は無実だとな。全く。傑作だろう?」


 ……なんなの。この人。

 以前からうすうす思ってはいたけど、ローレル王子を見下すような、バカにするような言動がすごく、不愉快。


「どれだけアイツがお前を無実だと言っても状況証拠がお前を犯人だと言ってるんだよ。」


 ヴェリルはそれに……と、悪態をつくように告げた。


「父上もお前とローレルにぞっこんだからな。本来ならば即刻死罪だが、二人の権限で牢に閉じ込めることすら許されん。結果、お前を辺境のリメスの屋敷に幽閉することになった。」


 私はやっていない。

 だけど、それはきっとこの人には通用しないし、むしろ状況が悪化するかもしれない。

 ……だれか。助けて……!




















































































「アリス様!」


 私がコーヒーを嗜んでいると、メイドが一人飛び込んできた。

 その様子はまさに汗だくで、その長袖の服が蒸し暑いろうなと頭の片隅で思った。


「まず、状況報告だ。」


 うんぬんかんぬんと、長い前座はいらない。

 メイドが蒸し焼きになりかけながら来たんだ。

 きっと相当な事態が発生したんだろう。


「実は、アレスティナお嬢様がローレル殺人未遂の容疑で、リメスの屋敷に幽閉されることになったそうです……!」


 ……なんだって?

 姉貴がローレルを殺害未遂?

 意味が分からん。

 そもそも何でそんなことをする必要がある。

 ローレルは将来の夫だろう。

 となれば。


「冤罪だな?」

「えぇ……きっとそうだと思います……」


 肩で息をしながらメイドはそう答えた。

 ご苦労さまだ。本当に。


「君はまず着替えて休め。その服だと風邪をひくぞ。」

「お気遣いいただきありがとうございます。お嬢様は……?」


 私が何をするかって?

 決まっている。


「リメスの屋敷に行くんだよ。」











































「アリス・ヴァレンティナ・フォン・ヴィンセント公爵令嬢だ。ここを通せ。」

「……その服装で公爵令嬢ですか。」


 アリスの服装はとてもではないが貴族を名乗るような服装ではない。

 茶色のズボンに白いシャツの上に茶色い燕尾服のような服装で、その下に僅かにベルト類を付けているのが見えるような、とても貴族の女性とは言えないような服装だったのだ。

 それに、ピンク色の髪の獣人である。


「事実、ヴィンセントの者だ。私は有名なはずだ。悪い意味でだろうが。」

「それであってもできません。ここから先は大罪人を捕らえる場ですから。」

「家族の面会も許されないのか?」

「はい。」


 なんか胡散臭いな。こいつら。

 こんなボロっちい屋敷に幽閉か。

 つくづく公爵令嬢を舐めているようだ。


「それならば強硬手段に出させてもらうぞ。どけ。下郎。」

「それで退くとでも……ぐッ!?」


 鎧に身を包んだ騎士にアリスは腹部に一撃殴りこむ。

 その威力たるやすさまじく、鎧にアリスの拳の痕がつくほどであった。


「すまんな。あとで治療しておこう。」


 アリスは倒れ込んだ兵士に告げると屋敷の扉を開ける。



「酷い埃だな。」


 まずは清掃から始めたいものだ。

 床にはこびり付いた汚れがある。

 タイル張りなのを見るに、以前ここに居た貴族は比較的高めの階級だったのだろう。


「姉さん。居るか?」


 その声はホールにて全てかき消されてしまった。

 なんともデカい屋敷だ。

 規模だけ見るなら十分公爵令嬢がいても問題ではなさそうだ。

 ただ、余程使われていなかったんだな。

 手入れが行き届いていなさすぎる。


「……アリス?」


 そこには、いつものドレス姿ではなく、シンプルな庶民が使うような服に身を纏った姉の姿がそこにあった。


「姉さん。何があったんだ?」

「……答えたくないわ。」


 余程ショッキングだったのだろう。

 答えを引き出すのは無理か。

 なら、宣言だけして帰るとしよう。


「姉さん。私は、貴方の無実を証明して見せる。すこしばかり、待ってていてくれ。」

「アリス……。」


 たとえ、私が血のつながっていない養子だとしても。

 養子だからこそできる方法で、立証して見せる。





















































「すまなかったな。」


 私は殴ってしまった兵士の鎧を脱がせ、包帯を巻いていた。

 致命傷ではないが、軽い内出血を起こしてるな。

 この程度で済んでいるのなら。


「相当鍛錬を積んだんだな。想像より怪我が軽い。」

「……貴女ほどではない。」


 ……こいつ、まさか。

 私の過去を知っているのか。


 兵士は軽く微笑みながら私の目をじっと見つめながら告げた。


「傭兵アリス・ヴァレンティナ。私たちの中では非常に有名な獣人の傭兵。まさか、貴族令嬢になっていたとは。」

「……昔の話だ。だが、その人脈を姉の捜索に使うつもりだ。」


 私は兵士にそう告げると兵士に3枚の金貨を握らせた。


「……これは?」


 兵士は不思議そうに私の顔を見つめる。


「鎧の代金と私がここに来たことに対する口封じと賠償金だ。受け取ってくれ。」

「分かったよ。気を付けていくといい。」

「もちろんだ。」





















































 リメスの屋敷から去った後、私はUMと呼ばれる街へ来ていた。

 UMはウルブス・メルケンナーリオールムの略称で、傭兵の街という意味を持っている。

 UMではとあるルールがある。


「おぉ、ベルクートか。久々に帰ってきたんだな。」

「久しぶりだなスパロー。調子はどうだ?」

「上々だ。」


 本名は禁止。

 互いにコードネームで呼び合うというちょっと不思議な風土だ。

 これは互いに本名を特定されないようにするための暗黙の了解だそうだ。

 実際、気軽でいい。

 国との契約では本名を使った方が良いだろうが、そういうわけではない時は基本的にコードネームでやり取りをするのが私たちのやり方だ。


「ベルクートは今は何をやってるんだったか。」

「貴族令嬢だよ。養子として迎えられた。中々にのんびりできてこれはこれでいい。」


 命のやり取りを毎日やらなくてもいいのは精神的にずいぶんと楽だ。

 ただ、完全に何もないとどうにも腕が鈍っちまってるかもしれん。


「貴族令嬢か……お前さんの年齢ならなれなくもないか。たしか14だったか?」

「あぁ。そうだな。」

「で。そんなお前さんが何でここに舞い戻ってきたんだ?ただ鈍った腕を叩きなおすなら冒険者ギルドとかで十分だろう?傭兵ギルドってのは……」

「それくらいは分かっている。」


 傭兵ギルド。裏ギルドだとか闇ギルドとか言われているが、冒険者ギルドとの大きな違いは、不正を生業としていることだろう。


 冒険者ギルドは基本的にインフラとして成り立っている。

 多すぎる魔物の数を一定の数まで減らす。

 商人移動での護衛、危険地帯への薬草採取。

 どれも暮らしを豊かにするために欠かせないものだ。


 それに対して傭兵ギルドは人の暗殺、違法物の輸送、又は強奪。

 それ以外にも戦争の誘発ってのもあるし、復讐代行だってやる。

 とにかく法律で禁止されたことを請け負うギルドこそが傭兵ギルド。

 だが、その傭兵が集まるここだからこそできることもある。


「義姉が謂れのない罪で幽閉されてな。無実を証明するために情報が欲しい。」

「なるほど。そういう理由か。」


 スパローは納得した様子だった。


「インフォーマーが何処にいるか知らないか?」

「あぁ、奴か。なに。いつもの所さ。」

「分かった。」

「それじゃあ、またな。」

「スパロー、これから仕事なのか?」

「あぁ。久々に会えて楽しかったぜ。」

「私もだ。」
























































 私はそのままの足でUMの町はずれにあるバーにやってきていた。


「インフォーマーは居るか?」

「……あぁ、ベルクートね。調子はどう?公爵令嬢としての生活は。」

「ホントに何でも知ってるな。アンタは。」

「ま、そこに腰でも掛けなさい。」


 私はインフォーマーの言われた通り、インフォーマーの隣の椅子に腰かける。


 この白い髪に獣人の耳を持った10歳も言っているかわからない少女の姿をした彼女こそがインフォーマー。

 彼女は曰く、4桁歳だという。

 具体的な年齢は分からないが、情報屋の頂点として君臨しているのが彼女だ。


「何でも知っているわけじゃないさ。例えば、今アンタの義姉がローレル殺害未遂の罪で幽閉されている中、何をしているのかなんて情報は持っていないさ。」

「……そこまで知っているのか。」

「なに、風の噂さ。」


 風の噂。

 彼女の能力は風の操作。

 言ってしまえば声も結局は空気の震え。その空気の震えを風の流れとしてその耳によって集める。

 要するに空気のある所に彼女の耳がある。

 私はそう認識してる。

 もちろん、彼女にも限界がある。

 だから、他の傭兵から集めた情報だってある。

 私もインフォーマーに情報を売ったことがある。


「それじゃあ、犯人を知っているのか?」

「犯人確保のショートカットだねぇ。だが、生憎その情報は持っていない。」


 カクテルを愉しみながら彼女はまるで酔った様子を見せずに私に深呼吸した空気を吐き出すように告げた。


「……アンタでも無理なのか。」

「ベルクート。アンタ、焦ってるわね。」


 その言葉に私はぐさりと突き刺されたような感覚がした。


 焦っている?

 私が?

 そんなわけないだろう。

 私は最短距離で情報を集めようとしているだけ。

 それだけだ。


「……え?」

「あら、気づいてなかったの。ちょっと考えればわかるでしょう?犯人が犯行をするときに犯行します!なんて言うわけないでしょう。それに犯行現場を見られているならアンタの義姉は捕まって無いわ。」


 インフォーマーは淡々と両手で頬杖を突きながら告げた。


 言われてみればそうだ。

 私は早とちりをしていた。

 姉が捕まったからと、気持ちだけが先行して何か大事な点を見落としてしまっている。

 そんな気がする。


「ただ、使われた毒の種類ならキャッチしてるわ。テトロドトキシン。要するにフグ毒ね。だいたい30分くらいで効き始めるやつね。」


 確か神経毒だったな。

 だが、よく死ななかったな。

 フグ毒と言えば体内に入れれば死ぬものだと思っていたが。


「ローレル王子はその毒の量が軽かったからこそ助かったそうね。少しでも多ければこの世にはいない。」


 だとすれば犯人は相当毒の扱いに長けた人物で、テトロドトキシンを手に入れやすかった人物だと考えられる。


「だとすると、料理人か科学者あたりが候補に入ってくるな。」

「それもあるでしょうけど、案外そのどちらでもなく、意外な人物、案の定な人物が犯人かもしれないわね。」


 インフォーマーは人差し指を一本立て、口角をほんの少し釣り上げ、まるでその犯人を知っているかのような口ぶりでインフォーマーは私にそう告げた。


「やっぱり犯人知ってるのか?」

「いえ?私は色んな情報を持ってるからね。これまでの事件のことも知ってるのよ。その時にそういう傾向があっただけ。ただ、これ以上は私は助けになれないわ。」

「助かった。ありがとう。」


 私が席を立ち、そのまま立ち去ろうとしたとき、インフォーマーが一言告げた。


「ベルクート。急がば回れ、よ。」

「わかったよ。」

















































 去っていくアリスの背中を見て、インフォーマーはフッと微笑む。


「マスター。もう一杯。」

「はいはい。よく飲みますね。今日は。」

「そりゃもちろん。息子同然のベルクートが来たんですもの。」

「……息子?あの方は女性ではないのですか?」

「なんというか、雰囲気が男の子なのよね。だから私はあの子を少年として扱ってるわ。」


 マスターは頭の中で本当に変わった人だと考えながらカクテルシェーカーを振る。


「それに、あの子だから特割価格の10割引きなのよ。」

「そういえば今日は請求してませんでしたね。」

「あの子にはずいぶんと世話になったのもあるけど、やっぱり少年としても、少女としても美味しい二重の味がするからねぇ。」


 マスターは心の中でしっかりと引いた。

 なんだこいつ、頭イカレてんのかと。















































「急がば回れ、か。」


 確かに遠回りだということも重要か。

 ここでのショートカットはテトロドトキシンの毒について調べることだろう。

 だが、そもそもそれ以前の問題があったな。


「事件概要か。」


 確かに調べていなかった。

 それならばまず、事件について調べなければ。

 もし、調査がしっかりと行われているのなら、どこかに調査書がある筈だ。

 考えられるのは公爵未満立ち入り禁止の資料庫だろうか。

 そこに無ければ誰かが持ち去っているか、ロクに調査されていないことになる。

 だが、そんなことはまず考えられない。

 王族の殺害未遂だ。少なくとも姉貴につながる間接的証拠ならある筈だ。

 その内容次第では、意外にも最大のショートカットルートが見つかるかもしれん。


「いかんな。棚ぼたを考えては。」


 楽観的に考える自分にうんざりする。

 大丈夫だ。

 私はただ姉貴を信じて、解釈すればいい。


「貴方は……アリス・ヴァレンティナ・ヴィンセント公爵令嬢ですか?」

「あぁ。私がアリスだ。君は?」

「ルーチェ。ルーチェ・ヴァンデルントです。」


 ヴァンデルント?

 それはこの国の名だ。

 つまり、王族である可能性が非常に高い。

 だが、うまく思い出せんな。


「確か、ローレル王子の……」

「えぇ。妹です。」


 そうだ。思い出した。

 ルーチェ第一王女、確か姉と仲が良かったはずだ。


「貴女が私に何か用でもあるのですか?」

「……本当に、アレスティナが言ってる通りの人ね。」

「姉がいつもお世話になっております。」

「こちらこそ、アレスティナにはいつもお世話になってますよ。」


 なんというか、華奢な雰囲気がする人だな。

 姉貴はスラっとしているが、あれでも十分に強い。

 だが、姉貴の話だと……


「付き人はどうしたんです?体が弱いと姉に聞きましたよ?」

「それでは、資料室に共に行きませんか?」

「……資料室?あそこに行ってどうするんです?」

「とぼけなくてもいいですよ。あの事件の事件概要を調べるんでしょう?」


 さすが王族。そこまで読むか。

 だが、なぜルーチェが単独で私に接触してきたんだ?

 目的に対する対価があまりにも大きすぎる。

 なにか、理由でもあるのか?


「私がここに一人でやってきたのはなぜ?って顔ね。」

「……えぇ。」

「そもそもここまでリスクを冒す意味が分かりませんからね。」

「そうね。けど、その話は資料室でしましょう。」








































 私達は資料室へやってきた。

 するとルーチェは資料室の奥から4冊ほど資料を持ってやってきた。


「……それは?」

「今回の事件と似た内容の事件と今回の事件についての資料よ。」


 その資料に書いてあった事件の表紙にざっと目を通してみる。


〘SV13号ローレル第二王子殺害未遂事件概要〙

〘SV12号レイネル第一王子殺害事件概要〙

〘AB52号ラズレート伯爵殺害事件概要〙

〘AS50号アーレント公爵殺害未遂事件概要〙


「4件か。」

「そうですね。4つあります。」

「それに、アーレントっていえば……」

「えぇ。貴女の義父にあたりますね。」


 まさか義父が殺されかけたことがあったとは。

 初耳だ。


「これを持ってきたということは、これら全てが今回の事件に関係があるものだと?」

「私はそう考えています。」


 その前に、ルーチェには聞かなければならないことがある。


「ところで、なぜ私に会うために貴女一人で探すという真似をしたのですか?貴女は体が弱いはずでは?」

「私もアレスティナがあれほど仲のよかったのにローレル兄様を殺そうとするとはとてもではないですけど思っていないのです。」


 それに関して言えば私も同感だ。

 だからこそ私も調査を始めたのだから。


「そこに、アリス。貴女がアレスティナの元へ向かったという話を聞きましてね。」

「えぇ。そうですね。」

「ただ、ヴィンセント家追放を言う前でしたしね。」

「……なんですって?」

「後で決まったんですよ。ヴィンセント家を追放すると。」


 尚更ここで姉貴の無罪を証明しなければならなくなったな。

 あの心優しい親子を見捨てさせはしない。


「ちなみに、いつ荷物をまとめて出ていくんだ?」

「1週間後ですね。」


 なるほど。タイムリミットは1週間か。

 それまでにすべて終わらせなければならないのがしんどいところだ。


「今回、私が貴女を探したのは追放をさせたくないのもなのですよ。」

「そりゃあまり追放されたくはないな。……すみません。敬語が外れてしまっていましたね。」

「いえ、ため口で構いませんよ。」

「それならいいですが。」

「……それにしても、意外と反応が軽いですね。」

「私は養子だから生活が逆戻りするだけですからね。」

「なるほど。」


 私だけが助かるわけにもいかない。

 その為にも。


「それでは、見てもいいか?」

「えぇ。」


 私は手に取り、まずSV13号事件について読み進める。


〘ローレル第二王子殺害未遂事件概要

事件番号:SV13号

被害者:ローレル・ヴァンデルント

事件現場:ヴァンデルント王城ホール

事件日時:9月11日

事件時刻:18時30分頃

内容:

 被害者の使用したグラスのワインの中に薄められたテトロドトキシンを服用したことによる毒殺未遂。

備考:

 毒を含み倒れる際、付近に3名の目撃者あり。

 現場には120名居た。

現場にいた人物リスト:

ローレル・ヴァンデルント

ヴェリル・ヴァンデルント

ルーチェ・ヴァンデルント

セドリック・ヴァンデルント

アレスティナ・フォン・ヴィンセント

アーレント・フォン・ヴィンセント

レイチェル・フォン・ヴィンセント

カーティス・フォン・アルマー

カルヴィン・フォン・レーン

……〙


「なるほど。3名の目撃者……か。」

「えぇ。そのうちの一人が私です。」

「それでは、聞かせてください。事実を。」


 じっと私はルーチェを見つめた。

 彼女は何を告げるのか、その本心を。

 ここで噓を言われたものでは、真実を見極められない。


「……私は、兄が毒入りであろうワインを含み、わずか3分ほどでしょうか。足元がふらふらとふらつき始め、膝をついて倒れました。」


 ……なんだって?


「……それは、本当なのか?ハッキリと断言できるのか?」

「え?」


 テトロドトキシンが効き始めるのはざっと30分はかかるはずだ。

 だとすればあまりにも早い。


「……ところで、なんでこんなに人がいるんだ?」

「あぁ、あの日は定期パーティの日でしたからね。」


 確か、第二土曜日だったか。


「なるほど、パーティ。そのパーティはいつごろから始まったんだ?」

「そうですね。17時45分くらいでしょうか。そこでちょっとした話がありました。そして18時に全員で乾杯を。」


 ……ここか。


「毒を飲んだ瞬間はおそらくその18時だろうな。」

「18時?」


 3分で毒が回るほどテトロドトキシンは即効性はないはずだ。

 もしそうだとすれば、ローレルが生きていられるとはとてもではないが思えない。


「あくまで推測にすぎない。実際私もテトロドトキシンに詳しいわけでもないからな。」

「テトロドトキシン……?」

「えぇ。この資料にも書かれている。テトロドトキシンを服用と。」


 ルーチェは何か疑問に思っているようだ。

 顎に手を当て、何か考え始めた。

 テトロドトキシンに心当たりでもあるのか?

 少なくともここの辺りでは魚は出てこない。

 それもフグは高級魚だ。

 フグに触れる機会もそれほど多いわけではないだろう。


「何か、気になる事でも?」

「テトロドトキシン……確か、ローレル兄様が研究していましたわね。」

「……なんだって?」


 入手経路はまさか、そこなのか……?


「えぇ。確か兄が作っている論文の薬と毒の違いという論文の中にテトロドトキシンが入っており、研究していたはずです。私も手伝いましたし。」


 ……私()


「……その論文は誰が関わっていたんだ?」

「まず私でしょう?ヴェリル兄様にアレスティナ様、それとカーティス様でしょうか。」

「カーティス?」


 確か資料にもあったな。


「えぇ。ローレル兄様の友人だとか。」


 色々絞れてきたな。

 だが、直接的に姉貴の立証するほどの証拠でもない。

 この条件だけだと4人は容疑者がいることになる。

 なぜ姉貴が犯人だと断言できたんだ?

 断定できたというのなら物的証拠がどこかにある筈だ。


「ところで、なんで姉貴が犯人だと断定できたのかは知っているか?」

「どうやら、ローレル兄様のワインを用意したのが彼女なのだとか。」

「なるほど。ところでどちらも毒が入っていたのか?」

「えぇ、グラスに僅かに残っていた毒とワインに入っていた毒が一致したそうで。」


 そりゃ犯人と疑われるわけだ。

 これを覆すのは骨が折れそうだ。


「それでは、他の事件はまた持ち帰りでもいいか?」

「えぇ。構いませんよ。それらはコピーですから。」

「……コピー?」

「えぇ。私が重要だと思った事件なので、その4冊は全てコピーされたものです。」

「本当に、助かる。」


 念のために本物と見比べたが、ミスはなさそうだ。


 帰ろうとしたとき、最初に抱いた疑問をふと思い出した。


「……そういえば、なんで付き人がいなかったんだ?」

「なんとなくですよ。なんとなく、居ちゃダメな気がしたんです。」


 そういうものなのか?


 私にはよく分からないが、そういうものなのだろう。















































「……ただいま。」

「おかえりなさいませ。お嬢様。」

「あぁ、いつもありがとう。カリナ。」

「……お嬢様。聞いたのですか?」

「あぁ。聞いたよ。追放まで秒読みカウントダウンなんだろう?」

「えぇ。」


「……アリス。」

「どうしたんだ?父上。」

「……その、持っている本は何だ?」

「資料だ。4つの事件の。」

「4つ?」

「まだ目を通していなくてな。ただ、うち一つは父上の事件だ。」

「AS50号か。」

「あぁ。」


 この事件に関して言えば本人に聞いた方が早いだろう。


「どんな事件なんだ?」

「なに、シンプルな事件さ。魔術を用いて狙撃されて殺されかけただけだ。」

「よく気づいたな。」


 狙撃に気づいて避けるなど、至難の業のはずだ。


「魔力の扱いに関して言えば昔学園でトップだったからな。」

「だから気づけたと。」

「あぁ。犯人も捕まっているはずだ。ただ……」

「?」

「脱獄したな。犯人は。」


 脱獄だって?


 私は急いでAS50号事件の資料を開く。

 そこには確かに犯人が脱獄しており、現在に至るまで見つかっていないと記されていた。

 そして、その犯人の名前は。


「アレン・テルナ……か。」

「確かそんな名前だったな。今は何をやっているんだろうな。奴は。以前は裏社会のギルドで中々名を馳せた人物だったそうだが。」

「裏社会のギルド……か。」

「確かアリスもそこの出だろう?」

「あぁ。傭兵ギルドだな。私も中々有名な部類だとは思うが、既に捕まった後のことなんだろうな。」

「あぁ。もう18年は前のことだしな。」


 かなり昔だな。


「アレン・テルナって、どんな奴なんだ?」

「職人気質のある男だったな。本人は依頼に失敗した時点で捕まる気でいたとか言っていた。」


 ……妙だな。

 なんでそんな男が脱獄したんだ?

 そういう奴は自分の運命を受け入れるような奴だろう。

 私も何人も自分の信念を曲げずに死んだ傭兵や殺し屋を見てきたことがある。


「何か引っかかる事でもあったのか?」

「私の経験上、そういう奴は自分が死ぬことを受け入れる。そんな奴が脱獄するとは到底思えないものでな。」

「なるほどな。ただ、奴はもう表舞台に出てくることはまずないだろう。」

「……裏社会ならまだ情報が出回ってるかもしれないな。」

「アリス。お前まさか。」


 私はフッと笑って見せた。


 何をいまさら。

 今日だって行ってきたじゃないか。

 UMは行ってしまえば古巣だ。

 行くもいかないも自由だし、命を狙われることもない。

 あそこの暗黙の了解は、あそこで犯罪を犯してはならないというものがある。

 その暗黙の了解を破った奴は少なくとも見たことがないし、破った奴がどうなるのかなんて聞いたこともない。


「大丈夫だ。気にすることでもない。」

「……気をつけろよ。」

「もちろんだ。……だが、今日はさっさと休むことにするよ。」







































「インフォーマー、昨日ぶりだな。」

「あら、また戻ってきたのね。ベルクート。」

「アンタの忠告のおかげでこれだけの情報が入ってきた。」


 私はインフォーマーに4冊の資料の表紙をひらひらと見せる。

 インフォーマーも私の狙いがきっとわかる事だろう。


「まずはそこに腰掛けなさい。話はそこからよ。」

「あぁ。」


「確かSV12号、SV13号、AS50号、AB52号だったわね。」


 私がインフォーマーの隣のカウンター席に座ると、4冊の本を見ることなくその内容を一発で当てて見せた。


「やっぱり聞いていたか。」

「もちろん。面白そうな情報だったからねぇ。」

「だが、内容までは知らないんだろう?」

「えぇ。ASとSV13号はもう分かってるからとりあえずAB52号を見せて頂戴。」

「SV12号は見ないのか?」

「あれは私が見るよりルーチェやローレルに見せた方が手っ取り早いと思うわ。ただ、ヴェリルには見せない方が良いわ。もみ消されるわよ。」


 確かに、一理ある。

 SV12号という名なのだから今回の事件の一つ前の王族関連事件だと考えられる。

 それならどちらかが知っていると考えた方が良いだろう。

 それと、ヴェリルは確かに揉み消しそうだ。

 あいつは私の予想だと御大層な変革を望まないはずだ。

 ただ、ヴァンデルント(変革し続ける)の意に則っているとは思えないがな。


「で。ASは見ないのか?」

「AS50号で出せる情報?せいぜいアルコンくらいな物ね。」

「……アルコン?」


 初めて聞いた単語だ。

 というより、まさか……


「コードネームよ。AS50号の犯人の。」

「アルコン。」


 やはり、傭兵ギルドで依頼を受けた奴だったか。


「スワローって居たじゃない。」

「スワローって、スパローの妹の?」

「えぇ。今だとスパローの援護をしてるわね。」

「あいつがどうしたんだ?」

「スワローの師匠だったはずよ。アルコンは。」


 なんてこった。

 そんなところでつながりがあったのか。


「それと、アンタの疑問だったなんでアルコンが脱獄したのかだけどね。依頼主が嵌めたのよ。アルコンは正攻法だと見つけられない。」


 だろうな。

 スワローだってまず見つけられない。

 異次元なレベルの長距離狙撃を行うからまず狙撃地点が読めないはずだ。


「けど、アルコンは捕まった。アルコンの罪を受けるというのは、正攻法で見つけられた場合、あっぱれだと言って罪を受けるわ。」

「その時はそうではなかったと?」

「えぇ。まぁ、片方の理由はそうっぽいわね。」

「……片方?」

「えぇ。もう一つは彼の上に居たヴァイパーって奴の指示だったそうね。というか、ヴァイパーの告げ口が無ければ今彼は生きていないでしょう。」


 ヴァイパー?

 誰だそいつは。


 私の興味はそのヴァイパーという存在に注がれた。

 しかし、無情にもその興味は満たされることは無かった。


「残念だけど、ヴァイパーに関しては私は本当に知らないわ。どれだけ情報を洗っても出てこなかったもの。」

「アンタが情報を洗っても出てこなかったってことは。」

「相当隠れるのが上手いわね。ヴァイパーってのは。」


 こりゃ、今回暴くのは無理かもしれないが、ヴァイパーって奴のことは覚えておいた方が吉と出るだろうな。


「それで、依頼主ってのは?」

「確かヴァスティヴァン大臣だったかしら。邪魔だったそうよ。」

「で。今はそいつはどうしている。」

「アルコンって、意外と優しい部類だからねぇ。顔面を陥没させて終了だったはずよ。」


 本当に優しいな。

 普通、命を取られても何も文句は言えないと思うが。


「それじゃあ、AB52号の蓋を開けてみましょうか。」


 確かにAS50号から得られるものはもうなさそうだ。


 私はAB52号の資料をぺらりとめくる。


〘ラズレート伯爵殺害事件概要

事件番号:AB52号

被害者:ラズレート・フォン・ヒューレット

事件現場:ヒューレット屋敷ホール

事件日時:3月4日

事件時刻:20時20分頃

内容:

 ラズレート伯爵の食べた菓子の中にスズラン毒が入っていたことによる毒殺。

備考:

 本事件の犯人は未逮捕。〙


「……比較的シンプルね。」

「しっかりとした捜査はされていないのか。」

「いえ、そういうわけでもないわ。」

「……そうなのか?」

「BD級事件を見た際だと、SV級事件に一歩届きそうなほどまでの捜査はされていたわ。」

「なるほど?」


 だとするとあまりにも情報量が少なすぎやしないか?


「そうね。けど、考えられる理由はシンプルよ。」

「え?」

「犯人につながるデータがあまりにもなさ過ぎたことでしょうね。」


 確かにスズランなんて、何処にでも生えているからな。


「けど、なるほど。ルーチェがこれを引っ張り出したのはなんとなくわかるわ。」

「え?」

「この事件、似てるのよ。SV13号に。」


 確かに似てないこともないが……

 使用された毒は違う。

 それどころかこっちの方が巧妙だ。

 今回もこの手口を使わなかったほうが不思議なくらいには。


「同一犯だと?」

「私はそう思うわね。何せ、この資料にはパーティに参加した人間もあるけど、王族は参加してないわ。それにアレスティナも。けど、上流階級の直属の貴族なら何人か混じってるわ。」

「だが、動機がないだろ。これ。」

「状況が似てるのよ。この事件。貴女なら動機が無くても殺すとするなら、どういう場合かしら。」


 ……普通、依頼だ。

 だが、今回聞かれていることはそういうわけではないのだろう。

 特に殺す理由はないが、殺意を持って殺す。

 気にくわなかったからというのは動機になるからありえない。

 そして、インフォーマーの言いぶりからして今回の事件と結びつける必要がありそうだ。

 だとすれば……まさか!


「……気づいたようね。」


 アリスの驚きにインフォーマーはその事実に気づいたのだろう。

 フッと笑みを浮かべ、アリスの目を見つめる。


「もし、もし合っているのだとすれば……」


 恐ろしい結論が出かねない。

 この犯人は、あまりにも用意周到すぎる。

 毒の種類が変わっているのも、もしあれについて調べられれば確立は跳ね上がる!


「予行……演習……。」

「同感よ。」


 この事件の為に、似たような状況で特に接点が無くても殺すのならこれしかない。

 だが、まだ疑問は残る。


「なぜ、予行演習をするんだ?」

「きっと、毒殺後のパーティの状況を把握したかったんでしょうね。ただ、これ以上は私からも何とも言えないわ。憶測でこれ以上は言えないもの。」


 犯人は決めつけるわけにはいかないというポリシーをインフォーマーの喋り方から感じ取った。

 だが、それで十分だ。


「あたりがついてきた。ローレルの元へ行ってみるよ。」

「あら、もう行くのね。」

「あぁ。論文とSV12号について聞いてみるよ。」

「気を付けていってらっしゃい。ベルクート。」

「もちろんだ。」


























 私が王城に入る前に、奇妙な現場に遭遇した。


「やっぱ次の国王はヴェリル王子だよな!」

「えぇそうね。ローレル王子では不安ですもの。」


 どういうことだ?


 一般庶民だろうか、夫人と男性が妙な噂について話していた。

 私はその話を聞くため、すこし聞き耳を立てて見た。

 そんな至近距離に居た訳ではない。


 そもそも私は獣人だ。

 耳はいい。


「噂によると、ヴェリル王子はローレル王子が死なないように最善の治療を施したそうよ。」

「その話について詳しく。」


 私はすぐその話に食いついた。

 たとえ不確定な情報であっても、これが事件につながらないと決めつけるのはよろしいとはいえない。

 たとえどんなに信用できない情報でも、聞く価値はある筈だ。


「……アンタは?」

「ベルクートだ。」

「ベルクートさんね。実はローレル王子は自分を殺そうとした犯罪人を庇ってるそうなのよ。」

「その犯罪人ってのは?」

「ここだけの話。また別の噂なんだけどね?ヴィンセント公爵家のご令嬢だそうなのよ。長女の、アレスティナ。彼女がやったって噂よ?」


 これが俗にいう井戸端会議という奴なのだろうか。

 本当に噂程度に聞いたことがあるが、あるんだな。こういうの。


「それでね?どうやら養女のアリスって子がアレスティナの無実を証明しようと躍起になってるそうなのよ。」

「けど、それはヴェリル王子は無駄なことだと言ってたな。事実は曲げられないんだって。」

「その事実が本当なのか、その情報の信頼性をアリスは再検証しようとしてるんじゃないか?」

「どっちにせよ無駄だとは思うけどねぇ。」


 無駄かどうかは、終えてみないと分からないものだし、それを決めるのは私だ。


「すみません。私はこれから用事があるので、先に失礼しますね。」

「えぇ。分かったわ。」



























































「お初にお目にかかります。ローレル第二王子。アリス・ヴァレンティナ・フォン・ヴィンセント公爵令嬢です。」

「始めましてアリス。君の話はアレスティナから聞いているよ。君は砕けた口調の方がいいと聞くからね。口調は君のいつも通りでいいよ。」

「承知した。」


 まずは、どの話から切り出すべきか。


「今回の事件、使用された毒については聞いているのか?」

「残念だけど、聞いていないんだ。」


 ……なるほど。

 と、なれば。


「姉がなぜ疑われたのかは?」

「ワイングラスとワインの瓶の中に毒が入っていたのは聞いているよ。」

「なるほど。それでは、その毒の名前がテトロドトキシンだということは知らないのですね?」

「それは本当かい?!」


 ローレルはひどく驚いた様子でその話に食いついた。

 やはり知らなかったか。

 ローレルには聞きたいことが山ほどある。

 まず、一つづつ順番に潰していこう。


「ローレル王子。アンタに聞きたいことがある。」

「……なんだい?」

「私はテトロドトキシンはアンタの論文を制作する際の実権で使われたものだと踏んでいる。アンタ、テトロドトキシンを持ってたんじゃないのか?」


 若干の間。

 しかし、嘘だというのはあまり考えられない。


「持っていたよ。それに、さっき毒物を調べたらビンが一つまるっとなかったんだよ。テトロドトキシンのが。」


 ビンゴ。

 凶器の出所が分かったぞ。


「それとだ。半年前、何の実験をしていた?」


 半年前。AB52号事件だ。

 あの時に、もし……


「スズラン毒だね。」


 大ビンゴだ。

 確かにAB52号とSV13号には接点がある。

 菓子にスズラン毒を混ぜたものと見て間違いなさそうだ。


「それじゃあ、SV12号事件について教えてもらいたい。」

「……SV12号?」

「あぁ。一つ前の王族関連事件だ。」

「……まさか、レイネル兄さんの事件か?」

「あぁ。それがSV12号だ。」


 やはりレイネル・ヴァンデルントは兄だったか。

 だとすれば。


「ローレル王子。貴方は元々第三王子だったと?」

「……あぁ。レイネル兄さんはすごかった。頭がキレて、社交的で。他の人を気に掛ける気遣いができる人だ。」


 その話を聞くと、相当優秀な人物だったのだろう。


「レイネル王子が今も生きているのなら、どうなっていたことだろうな。」

「レイネル兄さんは死んじゃいないさ。」

「……え?」


 どういうことだ?

 資料には殺害事件だと……


「レイネル兄さんは呪いで永遠に眠らされているんだ。この呪いが解呪できなければ目を覚ますことはない。」

「呪い……。」

「えぇ。レイネル兄さんの事件はとてもシンプルです。朝起きると呪いに掛けられ、目を覚まさない兄さんが居たんです。」


 脳死に近いな。


「今はなんとか魔力で命を繋いでいますが、そう長くはない。だからこそ、この論文を研究しているんです。」

「毒の論文をか?」

「いえ、僕の論文は毒と薬の境界線について調べるものだよ。だから毒と薬をそれぞれ研究しているんだ。」

「だが、王位を争うほどの実力は無いから争いから落ちたと。」

「そうだね。」


 呪いとなってしまうと犯人の確定はまず無理だろうな。


「アリス。君に頼みがある。」

「なんだ?」

「アレスティナの下に言ってやってほしいんだ。」

「最初に向かった。だが、とても会話できるような様子ではなかったぞ。」

「それでもだ。君にしか頼めないんだよ。」


 ローレルは、私をさっさと自分から遠ざけようとしているように見える。

 ……まだ、出せる情報があるのか?

 考えろ。

 何かあり得る。


「……それなら、ある資料が欲しい。」

「資料?」

「論文と実験内容に関するデータだ。……ところで、今は何の実験をしているんだ?」

「あぁ。実験室にあるけど、トリカブトを。もう毒は抽出済みだから後は実験だけだね。」

「……承知した。」


 私は急いで論文と資料を受け取り、感謝すると告げてその場を去った。























「……あれ?おかしいな。テトロドトキシンのコピーデータが足りない。どういうことだ……?」


 確かに前まではあったはず。

 あのデータには致死量のデータとか、毒の効果とかが書かれていたんだが。


「また書き直しかぁ。」


 面倒くさいものだ。

 だが、やらなければならないから嫌なのである。







































 チラッと聞こえたな。

 テトロドトキシンの資料データがワンセット無いっていう話が。


「やはり、可能性は高いか。……聞いてるんだろ?インフォーマー。」


 返事はない。

 あいつの能力の応用ならこっちに声を届けることもできると思ったんだが、音を聞き取る事専門のようだな。


「詳しいことは今夜だ。また落ち合おう。」



 もし私の仮説があっていて、犯人が想定通りの人物なのであれば。

 次のターゲットも自ずと見える。



 雑な考察だが、きっと正しいと思う。


「だとすれば、相当な策士だし、相当えぐい。」


















































「もう誰かいる。」


 人影が一人見えた。

 こえが聞こえる。

 耳をすましてみるか。



「これか。トリカブト。」


 マスクでもしているのだろう。音が反響しているが、この感じ……男か。

 ビンを取る音。

 立ち去ろうとする靴をくるりと回転させる音。

 間違いない。

 犯人ではないかもしれないが、犯人に直接つながる人間だ。



 私は太ももにある箱にカツンと指を弾き、立ち上がる。

 腰にある箱から、マスクを取り出し、取り付ける。

 意味はないかもしれないが、ないよりかはマシなのでね。


「そこでストップだ。」


 私はその男の目の前に立ちはだかる。

 男はひどく驚いた表情で私を見つめる。

 しかし、その表情とは裏腹に、物騒な道具を向けてきた。


「おいおいなんだそりゃあ。物騒じゃないか。」

「アリス公爵令嬢だったか。残念だが、これを見られたんじゃもうどうしようもない。死んでくれ。」


 その鉄の奇妙なからくりのようなものから破裂音が鳴り響く。

 その音は妙に反響していた。

 まるで、音がハモったかのように。

 そして、やまびこのように単調な破裂音がもう一度鳴り響く。


「かっ……」


 どさりという音と共にその男は倒れた。

 死にはしていない。

 致命傷になりにくい所を狙ったからな。


 この感じ、監視魔法でも仕掛けられてるのか?

 そんな雰囲気がする。

 なら、言うことは一つだ。


「魔術の操作ってのは面倒くさいもんだ。」






























































 あれから私はトリカブトを持ち去り、アレスティナの居るリメスの屋敷まで来ていた。

 もう懐中時計は18時を指し示していた。

 今日はあまりにもやる事と出来事が多かった。


「……今度は誰も居ないのか?」


 居ないなら居ないで別に構わない。

 ただ、警戒しておく必要はありそうだ。



 そのまま私は前よりか気持ち綺麗になっている屋敷の中へと入って行った。


「姉さん。居るか?」


 一瞬の静寂。

 その静寂を突き破って一人の女性が姿を現した。


「……昨日ぶりね。アリス。」

「あぁ。日が暮れるまでに聞いておきたいことがある。」

「……なにかしら。できれば答えたくは無いんだけど。」

「事件について調べたんだ。」

「!」


 私は簡潔に説明した。


 この事件はテトロドトキシン、それもローレルが研究していたであろう試薬を用いて実行された物であるということ。

 テトロドトキシンのみデータが持ち去られており、何者かがそれを必要としたということ。

 そして、ワイングラスとワインからテトロドトキシンが検出されたということ。


「なるほど。そういうことだったのね。」

「この事件、あまりにも不明な点が多すぎる。そして、仮説と事実を組み合わせた結果、容疑者は3名まで絞り込めた。」

「3名?」

「ルーチェ、ヴェリル、カーティスの3名だ。」


 この3人のうち、誰かが犯人となる。

 カーティスは知らないが、ヴェリルとルーチェは結構怪しい。

 比較的自由にアクセスができたということになるからな。

 ヴェリルは噂によると比較的善人という印象がある。

 どこまでが真実かは分からないが。


「……きっと。ヴェリルだと思う。」

「ヴェリル第一王子か。」


 私はルーチェのあの謎の行動力を警戒していたが、姉貴はヴェリルか。

 ルーチェの行動力も犯人がヴェリルだと仮定すると説明することも可能だろう。


 まず、ルーチェが私に手を貸したのは姉貴の無実を証明するため。

 姉貴とはきっと本当に仲の良い友人なのだろう。

 だからこそ調べていると私が調査を開始したことを耳にして私に調査資料などを提供した。

 それに、付き人がヴェリルに告げ口する可能性を考慮して単独行動。

 おかしいシナリオではない。


 ルーチェが犯人と仮定していた時のルーチェの底知れなさがヴェリルが犯人だと仮定した途端、非常にシンプルにまとまる。


「確かに、ありえなくはない。姉貴はなんでヴェリル第一王子が犯人だと?」

「状況証拠がって言ってたのがね。」


 ……待てよ。


 私はSV13号の捜査監督者の欄を探した。

 そこに書いていたのは。


〘捜査監督者:ヴェリル・ヴァンデルント〙


「全貌が見えてきたな。姉さん。助かった。それじゃ最後に聞かせてくれ。」

「なにかしら。」

「ワイングラスは誰が用意したんだ?」

「確かレスター侯爵よ。」


 レスター侯爵?

 誰だ?

 そいつに関しては一度もこの事件で聞いたことがない。

 少しばかり情報を洗ってみるか。


「それじゃあ、一度帰って情報を洗ってみるよ。」

「……気を付けてね。」

「もちろん。」



 私は踵を返し、その屋敷の戸を開ける。



「……えらくぞろぞろと居るじゃないか。」


 そこには十数人は居るだろうか。

 兵士たちが武器を構えていた。


 私がここに来るのも織り込み済みってワケか?


「ルーチェが分かったんだ。アンタが気づかないわけはないか。なぁ。」


 私はその中心に立っていた男を睨み付ける。


 やろうと思えばここにいる兵士をひねり潰すことくらい容易だが、とくにこいつは法の力で叩き潰したい。


「ヴェリルさんよ。」


 私のその言葉に対してヴェリルはハッと鼻で笑い、私に対して冷めた目で見つめる。


「やはり野犬はダメですね。噛みついてはならないものに噛みついてしまう。躾がなっていない。」

「そういうアンタは一人王様気取りってか?」


 私は懐から一つの瓶を取り出す。

 その瓶のラベルには〘試薬:トリカブト〙とハッキリと記されていた。


「こんな物騒なもので誰を殺そうとしていた。」

「貴女も馬鹿ではないのでしょう?それくらい自分で考えたらどうです。」

「生憎私は一度もまともな教育を受けたことが無いのでね。案外わからないんだ。」

「低能と偽っても無駄です。たったあれだけの情報で私までたどり着いたのですから、日の元に戻れると思わないことですね。」


 このまま捕まったのなら、おそらく私はアレスティナよりもひどい場所へ放り込まれるのだろう。


 面白い。

 殺せるものなら殺してみると良い。

 拘束し続けられるものなら拘束すればいい。


「アンタがどれだけそう言おうとも私は徹底交戦させてもらうぞ。」

「この状況でそれを言いますか。」

「あぁ。できるさ。だが、今回は何もしないでおいてやる。」


 私は腰のロングソードとナイフを地面に放り捨てる。

 そのまま両手を上げ、無抵抗であることを示す。


「そう言う割には物分かりがいいですね。……拘束しなさい。」


 私はロープで両手を縛られ、連行されていくのだった。



















































「意外だな。」


 開けられない大腿部の箱以外は持っていかれたが、それは問題じゃない。

 開けられないのなら意味がないと着けたままにした彼らを少し疑っただけだ。


「インフォーマー。来てるんだろう?」


 すると一人、看守だろうか。一人がその牢の前で止まった。


「あら、久しぶりね。ベルクート。」

「バカ言え。一日ぶりだろうが。」

「ホント、びっくりしたわよ。バーで来るかなと待っていればここにいるだなんて。」

「あぁ。ま、すこしな。にしても、どうやってここに来たんだ?」

「私だけじゃなくてスパローとスワローも来てるわよ。」


 あの兄妹か。

 何しに来たんだ?


「あの兄妹は私をここに送り届けるために潜入の手伝いをしてくれてるのよ。」


 確かにインフォーマーがここまでするなんてまず見たことがない。


「ベルクートだけ特別よ。」

「なんだ特別って。」

「それはこっちだけの話よ。」


 ……意味が分からん。


「そうだ。レスター侯爵について知らないか?」

「あぁ。レスター侯爵ね。あの人はローレル派の上級貴族ね。今回の事件には関係なさそうよ?確かにグラスはレスター侯爵の発注品だけど、その検品をしたのはヴェリルよ?」

「……あぁ。そういうこと。」

「えぇ。そういうこと。」


 検品中にグラスに毒を仕込んだな。


「あとは次の標的を考えれば分かると思うわ。」


 次の標的……か。

 そうだな。例えば、例えばだ。

 もし、ヴェリルの目的があれだとすれば。


「あぁ、シンプルだな。」


 状況はシンプルで、時間がない。

 非常に危険だ。


「急いで脱獄するぞ。」



































































「なんですって?」


 私はその話に耳を疑った。


「先ほど、アリス・ヴァレンティナ・フォン・ヴィンセントが脱獄したとの話が……!」


 一体、どうやったというのだ。

 通常の手段では鍵を開けられないはずだ。

 それも、非常に複雑な鍵が用いられている。

 丸腰でどうやって開けたというのだ。

 看守に内通者でもいたのか?

 いや。鍵は私しか持っていない。

 ここに鍵だってある。

 どうやったというのだ。


「鍵穴に穴が開いていたそうです。」


 穴?

 鍵には普通、穴が開いているものだろう。


「えぇ。鍵が貫かれて破壊されていたそうです。」


 鍵を破壊だと?

 殴って壊したわけではないだろう。

 あの年齢の獣人が破壊できるような軟弱な錠前ではない。


「計画は?」

「予定通りに。」


 それでは向かうとしよう。

 これからは、私の時代だ。

 不安要素(アリス)はどうとでもなるだろう。

 アレスティナを引き出しに出せば止まるだろう。

 私の命令一つで彼女の首は簡単に飛ぶということを思い知らせてやろう。













































 ヴェリルはセドリック国王の下へやってくると、一本のワインを見せ、セドリックのグラスにワインを注いだ。


「父上。」

「どうした?ヴェリルよ。」


 ヴェリルは笑みを浮かべながらセドリックの問いに対して一言告げた。


「いい夜を。」

「あぁ。いい夜を。」


 食卓を囲み、正面に互いが座っているその静寂。

 国王がワイングラスを口へ運ぼうとしたその瞬間のことだった。


「ストップだセドリック国王。」


 一人、飛び込んでくる少女が居た。


「君は……」


 セドリックは飛び込んできた少女、アリスの方へ体を向ける。

 警戒の念をこもった目でアリスを見つめる。


 あぁ、そういえばセドリックと私が貴族令嬢として()対面したことは無かったはずだな。

 ここはひとつ、自己紹介をするか。


「始めまして。私の名前はアリス・ヴァレンティナ・フォン・ヴィンセント。」

「アリス・ヴァレンティナ・フォン・ヴィンセント……?」


 どこかで引っかかったような雰囲気だ。


「あぁ、アリス・ヴァレンティナ!君か!ヴィンセントの養女になったのは!」

「久しぶりだな。元気そうで何よりだ。」


 ……なにが、何が起こっている。


 ヴェリルは呆気にとられ、今起きている状況が理解できていなかった。

 自らの父ならば不審人物であるアリスを即刻取り押さえ、牢に叩き込めと命じるだろうと考えていたからだ。



「父上、この不届き者を知っておられるのですか?」

「そうか。お前は会ったことが無かったな。アリスは凄腕の傭兵だよ。」

「元、だがな。」

「私の護衛も何度か頼んだことがある。」

「何年前の話だ。」

「私は何度も勧誘したんだがね。」


 流石にそういう特別枠で傭兵が居座り続けるのは国としてもよくはないだろう。

 だから断った。


「さて、セドリック。本題に戻ろう。」

「本題?」

「そのワインは飲まない方が良いという話だ。」


 あぁ、そういえばと言いながらワインをテーブルに置く。


「そのワインには十中八九猛毒のトリカブトが入っている。」

「……君がそう言うということは、警戒の余地があるということだね。いいだろう。このワインは責任をもって始末させておこう。」


 セドリックは召使いに指示し、ワインを下げさせる。


「一体誰がそんな猛毒を仕込んだのだ?アリス、君は知っているのかい?」


 白々しい。

 犯人はお前だろうに。


 半ば呆れた目で私はヴェリルを見つめると、ヴェリルは妙なことはしゃべるなとでも言わんばかりの目で私を見つめていた。


 ……私が黙る理由がないわけだが。

 喋る理由なら十分にあるワケだが。


 だが、ここは一つ乗ってみるとしよう。


「まだ調べている最中ですね。ただ、SV13号のワインに毒が仕込まれているのは貴方も信頼しているその隣にいるヴェリル第一王子から聞きましてね。それと同じでこのワインにも毒物が仕込まれているのではないかと考察したんですよ。」

「……ヴェリルから?」


 違和感を感じたか。

 その違和感をうまく使えさえすればこの盤面、一気にひっくり返せる。


「ヴェリル、さっき誰が仕込んだのだと聞いていなかったか?お前がアリスに伝えたのなら犯人を知っていたのではないのか?」

「私も犯人は知らないのですよ。誰かがワインに入れていたのですよ。ただ、顔は見えなかったのです。」


 さすがに逃げに入るか。面倒だ。


「そういえば、なぜ姉様がリメスの屋敷に叩き込まれたのか、教えていただいていませんね。ヴェリル殿下?」

「本来王族を手に掛けるのだ。即刻死刑に処すのが当たり前だというものだ。だが。」

「私はそれを望まない。無論、ローレルもだ。」


 あぁ。だから姉貴は今も生きながらえている。


「ローレルが無実だと証言するのなら実際無実なんじゃないのか?被害者がそう言っているんだ。」


 私のその問いにヴェリルは鼻で笑って言い返した。

 そんなことも分からないのかとでも言わんばかりに。


「まさか、貴女がそこまで頭が回らないとは。シンプルですよ。彼女以外に犯行はできなかった。ローレルはそれを知らないし分からないのです。」

「……それは果たして正式な裁判を経た結果の結論なのか?」


 場が静まり返る。


 そうだ。

 王族の命にかかわるもので裁判が行われないのは通常考え難い。

 だが、既に刑が執行されているということは。


「まともな裁判を行わずに刑を確定させたんじゃないのか?ヴェリル殿下。」


 こいつ、野犬ではなく、法の番犬だったのか?


 ヴェリルは思わず、アリスの物言いに面を食ってしまっていた。


 そんなまさか。

 そんなわけがない。

 元傭兵の野犬がべり番犬のふりをして楽しんでいるだけにすぎないだろう。

  アレスティナも面倒だが、こいつの方が危険だ。

 それなら、とっととより危険なこの野犬の首を落として狩った方が早い。


「だが、犯行そのものに関して言えば君にだって可能なはずだよ?アリス・ヴァレンティナ・フォン・ヴィンセント令嬢?」

「……なんだって?」

「シンプルさ。アレスティナ嬢の用意したワインに君が毒を入れるだけでこの事件、成立する。」

「それは、勝手に裁定したということを認めるということでいいのか?」

「そういうことになるかもしれないな。」


 歯切れが悪い。

 あくまでもはっきりとは認めるつもりではないか。


「さて、君はどう反論するつもりだい?ワインに毒を入れられた可能性に関しては。」


 反論が来たぞ。

 だが、事実私はそんなことをしてはいない。

 ……事実を言うだけで往なせればいいが。


「私がなぜそんなことをしなければならない。」

「動機か?それならばいくらでも考えようがある。たとえばローレルという存在が気にくわなかったとか、それこそ依頼だったとかね?」


 なるほど。そう来たか。

 確かに依頼なら動機が無くてもやるだろう。

 だが。


「私は身内に犯罪の片棒を担がせるほど腐ってはいない。やるなら手を汚すのは私だけだ。」

「今回は別だったかもしれない。」

「可能性の話をしてどうする。ここはもはや疑似的な裁判所だ。事実の話をしている。可能性、タラレバを持ち出しても、私がやっていないという事実がある。そもそもテトロドトキシンをどこで手に入れる?私が毒殺するならとっととアマトキシンやトリカブトを自分で作って使用するな。」


 丁寧に、一つづつ嘘のベールを剥ぐ。

 そこにあるのは、純然たる真実だ。

 真実が顔を見せるまで私はやめない。



「……アリス。一つ聞きたいことがある。」

「どうした?セドリック。」

「君は、目星がついているのか?犯人に。」

「………。」


 ついている。

 ついているどころではない。

 だが、ここで言えばきっと、その犯人は言葉巧みに逃げる。

 だから。


「今は言えない。」

「それは。なぜ?」

「諸事情だ。これ以上は言えない。」

「……分かった。君を信じるよ。」


 どうやって切り込む。

 あと一撃で切り込めそうなのに、斬り込めない。

 とどめの一撃を刺せない。

 毎度、この論争では受けの姿勢をとってしまっている。

 だが、攻撃してはダメだ。

 カウンターでねじ伏せなくては。


「それなら問うてもいいか?アリス。君の思う犯人は誰だい?」


 ヴェリル、一世一代の賭けであった。

 ここで自分だと言われたとしてもそれ相応の逃げ道を一応考えた上での賭け。

 アリスが答えなければ、ヴェリルはそれを武器にアリスが犯人だと、ひいてはそれに共犯したアレスティナも同罪とする腹づもりであった。


「そうだな……。それでは、ひとつ。私の考察を聞いていただこうか。」

「……なんだって?」


 私は告げる。

 事実と、考察を交えて。



「私が操作をスタートさせたのは非常にシンプル。姉様がリメスの屋敷に幽閉されたという通達を聞いたからだ。

 そして、私は今回の事件、SV13号以外の3つの事件を探した。

 AS50号。これは義父が18年前に襲われた事件だ。

 これには非常に不可解な点がある。

 その犯人の情報はつかめ、新たな謎が出てきたはいいが、今回の事件に繋がりはあまり見いだせなかった。

 次に半年前に起きたAB52号。ラズレート伯爵殺害事件だ。これは非常に大きいヒントが得られた。

 このラズレート伯爵に用いられたのはスズラン毒。

 実は半年前、ローレルは論文の為にスズラン毒の研究実験をしており、この実験に参加していればスズラン毒の抽出方法くらい簡単に知れただろう。

 また、この事件は今回の事件の為の予行演習だと考えられる。事件捜査がどのように進むのか、周りの人間はどう動くのかについてのな。

 そしてSV12号。これは記憶に新しいんだろう。前第一王子半殺害事件だ。

 この事件では呪殺まではいかなかったが前第一王子は昏睡状態になった。

 このAB52号とSV12号の犯人は同一だと考えられる。

 というより、それぞれがSV13号の犯人と同一だと考える方が正しい。

 そして、この3つの事件で得をするのはどういう人間かを逆算して考えた。

 出た結論は、王位継承者且つローレルの研究に参与していた人物だと考えられる。

 ルーチェ王女。彼女の可能性は非常に高いが、そもそもこの3つの事件を教えてくれたのは彼女だ。

 もし彼女が犯人ならこの条件までたどり着く情報を私に渡すのはおかしいと言える。

 つまりここで除外だ。

 ローレル第二王子。彼が犯人だと今回の事件、なぜ自らに毒を盛ったのか意味が分からない。

 結果、出てくる答えはアンタだ。

 ヴェリル第一王子。」


 静寂が訪れる。

 なんとも静かだ。


「何を言い出すのかと思えば。バカじゃないのか。なぜ第一王子の私がそんなことをしなければならない。」

「世論を味方につけるため、姉様が怖かったというのが大きいんじゃないのか。」

「……へぇ?」

「アンタ、一度姉様に不正を暴かれたそうじゃないか。前に聞いたよ。そして、今回私も排除しようとした。私も脅威だと認定したんだろう。そして、もう一つの理由がある。」


 これは、あの時噂を聞いていなかったらたどり着けなかっただろう。


「アンタ、世論を味方につけようとしただろ。」


 世論は何よりもデカく、強い。

 世論を制したものが最強と言っても過言ではない。


「そうなのか?私は知らなくてね。」

「そして、次のターゲットは、国王だろう。この勢いに乗って国王を排除し、自らが国のトップに躍り出るのがお前の目的だ。」

「……ヴェリル?」

「………。」


 パチンッ!


 ヴェリルは指を鳴らす。

 すると、ぞろぞろとトリカブトを盗もうとした奴が持っていた例の武器よりかなり長いそれを持った兵士がぞろぞろと現れる。


「それは……鉄砲か!ヴェリル、お前……!」

「父上と野犬にはここで消えてもらう。少々手荒になってしまったが、大丈夫だ。ここには私たちしかいない。」


 傭兵に、銃か。


「いいだろう。」


 さんざん持っていかせなかった太ももの箱から“それ”を取り出す。




























































「アリス・ヴァレンティナ、交戦する。」


 “それ”のスライドを引き、薬室に弾丸が送り込まれる。


 散々隠していたM1911A2(ガバメント)、見せてやろうじゃないか。

 敵の数はだいたい10名。

 ……さっきも2発使ったからな。

 何とかギリギリってところか。

 

「……なんだ、その華奢な鉄砲は。」

「M1911A2、コルト・ガバメントだ。この距離ならその長物よりもこっちの方が使えるんだよ。」


 現在の装弾数は11発。

 A2だからこそできる。

 A1までだと裏技を使ったうえで最大8発だからな。


「それに、そのポンコツよりはるかにこっちの方が性能がいい。」


 所詮前装式の武器だ。

 一度撃てば再装填に相当な時間がかかる筈だ。

 それどころかこの狭い空間で1.5mくらいのサイズのライフルを振り回せるものか。

 だからこそのM1911A2だ。


「ポンコツだと?その華奢な鉄砲の方がまともに動作するとは思えないがな。」

「それなら。」


 一発を一人の兵士の肩に命中させる。

 兵士はライフルを落とし、肩を抑えて屈みこんだ。


「流石に鉄砲だな。この程度の鎧は貫通するか。」


 45ACP弾を舐めてもらっちゃ困る。

 ただの鉄球と20世紀の人間が創り出した弾丸が同格だとは思いたくはないものだ。



 1発撃ったのならかなりの再装填の時間が要するでしょう。

 あれほどコンパクトなら比較的早いかもしれませんが、火薬を積めて鉄球を入れるにはこの9人を一瞬で捌くことなど不可能でしょう。


「撃て。」

「頭を下げろセドリックッ!」


 ヴェリルの命令に答えて残りの9人がアリスとセドリックめがけて弾丸を放つ。

 アリスの指示によってセドリックもすぐ頭を下げる。


「叩き落とすッ!」


 宙を舞う9発の鉄球をアリスは音だけで完全に位置を把握し、撃ち落として見せた。


 ヴェリルの機体は見事外れ、傷一つない二人の姿に愕然とした。

 しかし、そのまま止まるヴェリルではない。

 撃たれないまま落としたライフルを拾い上げ、アリスへと向ける。


 意味が分からない。

 何だあの連射速度は。

 信じがたい。

 いつ再装填したのだ。

 構造からして確実に違う。

 あのコンパクトさでなんという射撃速度。

 そして、なんという命中精度、なんという練度………。

 格が、違う。

 だが、それであっても……!


「ここで、消えてもらわないと困るのですよ。」

「……あぁ、だろうな。」


 アリスもM1911A2(ガバメント)を向ける。


 最後の1発。

 先手は先に取らせてもらうぞ。


 発砲音。

 放たれた45ACP弾は鉄砲の銃身の中へ飛び込み、機関部を破壊してしまった。


「あ……が……ッ!」


 着弾時の衝撃というものはすさまじいだろう。

 ヴェリルは腕を抑え、膝をついた。


「一応、これで終わりだ。」


 私はマガジンキャッチボタンを押し、空になったマガジンを排出する。

 そして、予備のマガジンを挿入し、再びスライドを引く。


再装填(リロード)完了。さて、これでも歯向かうというのか?」


 私はヴェリルの頭に拳銃を突きつけ、一言告げた。


「法の裁きを受けろ。そこの兵士たちもだ。正当な判決を受けることだ。」



































































































 あれから、半年ほどだろうか。

 第一審が行われ、そこで下された判決は、無期懲役であった。

 そこで控訴が行われなかったため、それで刑は確定した。


 死刑まではいかなかった理由は、ヴェリルの魔力に利用価値があり、且つ今回立証されたのはSV13号及びSV14号だけであったからだ。

 どちらも未遂で終わっている上に今後に支障もなく、死刑を求める声がそれほど出回らなかったため、無期懲役とされたのだ。


 しかし、表舞台に出ることはもう二度とないだろうし、これからは延々と地下牢で過ごすことなるのだ。

 ひとり、仲間もなく、薄暗く、光の差さない場所に死ぬまで居るのだ。


 それが、刑なのである。

































































「アリス!」

「姉さん。よかった。出てこれたんだな。」

「もちろん。私は無実だったからね。ヴェリルが横領してた金も正規の手続きを踏んで本来あるべきところに戻ったわ。」

「あいつ、横領してたのか。」


 よく無期懲役で済んだな。ホントに。


「ま。これでのんびり過ごせるというものよ。」

「私もこれでゆったりのんびりと過ごせるよ。」


 アレスティナが紅茶を注ぎ、それを渡されたものだからのんびりと優雅に楽しむことにした。


「コーヒーばっか飲んでるが、紅茶もいいな。」

「でしょう?たまには他の飲み物も飲んでみるものよ?」

「ホントだな。」


 私は、取り戻した。


 平和な日常を。


 きっとこの平安は続いていくのだろう。

 何かが決定的に変わるその時まで。









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