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3話 お嬢様、夢を語る


「では、あなたが買われた理由を説明するわ!」


 奴隷商から帰宅後、メイドに全身をゴシゴシ洗われ、さらにセバスチャンによる怒涛の執事講習を受けたアルベルトに向かって、エリシアは鼻高々に宣言した。


(もう……執事にしたいって言ったら、ママったら目をひん剥いて倒れそうになるし、アルベルトとちゃんと対面するまで一週間もかかったんだから!)


 ぷんぷんしているエリシアだが、一週間ですべてを詰め込むのは容易ではない。

 セバスチャンとアルベルトは、かなり頑張ったのだ。とても。


 しかも、娘が男性奴隷を買ったという事実が醜聞として広まらないよう、エリシアママはお茶会で、エリシアパパは王宮で奔走していた。その結果、アルベルトは対外的にはエリシアの奴隷ではなく、専属執事という扱いになった。

 みんな頑張ったのである。とても。


 ――頑張っていなかったのは、エリシアだけだった。




「でもその前に……あなた、さては転生者ね!私の目は誤魔化せないわ!」


 私が見破ったことに驚き、慧眼にひれ伏すがいいわ!ーーそう息巻いていたエリシアだったが、


「そうっすね」


 と気だるげに答えたアルベルトを見て、はて、想像と違うな、と首を傾げた。


「で、俺、敬語じゃなくていい?」


 想像の百倍違う反応に、エリシアの思考はショートした。

 エリシアはもっとこう、お嬢様すげー! 一生ついていきます!を、上品にした感じのを想像していたのである。


「おーい。大丈夫?え、敬語じゃなきゃ嫌だった??」


 アルベルトはエリシアが頭から煙を出してボケーっとしているのに驚き、エリシアの目の前で手を振ったり、エリシアを揺さぶってみたりした。


「はっ! 夢を見ていましたわ!」


「いや、夢じゃねーよ?」


「いやーーーー!!!!!!!」


 エリシアの絶叫に、侍女が何事かと部屋に駆け込んでくる。

 エリシアとアルベルトは愛想笑いを浮かべて、大丈夫っす、と侍女を追い払った。


「……え? そんな感じだったの? アルベルト」


 ショックから立ち直れず、お嬢様メッキが剥がれ、口を尖らせたエリシアが問いかけた。


「てか、お前もそんな感じだったのかよ」


 お嬢様言葉が取れ、いじけてソファに体育座りをしているエリシアにアルベルトはショックを受けた。


 ちょくちょく上品でない言葉を使うエリシアに、

(無理してお嬢様言葉使ってんな)

とは思っていたアルベルトだったが、ここまでとは思っておらず、

(なんか思ってたんと違う)

と思った。


 お互い様である。



「うん。頑張ってお嬢様っぽくしてたし」


  私、拗ねてます。という雰囲気をこれでもかと醸し出したエリシアは答えた。


「そっか。で、お前どうやって死んだの?」


 空気の読めないアルベルトは、エリシアの醸し出した雰囲気を無視した。



「私はね……殉職したの」


(警察か何かか? 俺より年上そうだな)


 完全な誤解である。

 エリシアの言い方が大袈裟なだけだ。


「私はね、学校の闇を捉えて暗躍してやろうと思って潜入した先で死んだの」


(学校にも闇があるんだな……ん? 暗躍??)


 アルベルトは疑問を覚えた。

 エリシアは自分の最期の話をした。そして、名誉ある死だったな、と言って話を締め括った。



「いや全然そんなことねーよ?!ってかイタズラで入って勝手に死んでるのは殉職って言わねーよ!職についてすらいねーじゃねーか!学校にもめっちゃ迷惑かけてるし!」


「人の最期のことそんなふうに言うなし!じゃあアルベルトはどうして死んだの!!」


「俺は無念の死だった。お前と違って!」


「はいはい」


 エリシアはアルベルトの発言を流した。

 アルベルトは少しイラッとした。


「俺TUEEに憧れた俺は、高校の登校時間前と放課後に、毎日滝行し、山を登り、クマと戦い、戦闘力を磨いてたんだよ」


 エリシアは、こいつバカなん?現代日本でそれして何になるの?と思った。ブーメランである。


「ある日、いつも通り早朝に滝行していたら、上から岩が落ちてきた。それに頭を打って死んだ。泣けるよなぁ」


 しみじみ語るアルベルトに、エリシアは一ミリも共感できなかった。

 同類なのに。


「へー。アホらし」


「は!?お前の方がアホだろ!学校の窓から落ちるって何だよ!」


 アルベルトがヒートアップする。

 どっちもどっちである。


「……まあいいや。

 とりあえず私の目標を話すから、聞いて」


 アルベルトは黙った。

 これ以上揉めると話が進まないと悟ったのだろう。意外と優しい。


「私の目標はズバリ!

 暗躍すること!」


 エリシアは誇らしげに言った。


「第二王子の婚約者の公爵令嬢って、暗躍にピッタリじゃん?」


 アルベルトは、絶対こいつ暗躍向いてねーよ、と思った。


「で、アルベルト。......長いからアルって呼ぶね。

 アルは、私の暗躍の相棒になるの!」


 アルベルトは黙った。

 そして、つまり、俺は何をすればいいんだ? と思った。




「それって、俺TUEE目指せる?」


 残念ながら、アルベルトもバカだった。俺TUEEできれば何でもいいや、という精神だったのである。


「うん! 目指せる!」


 エリシアは無責任に断言した。


「じゃあ、やってもいいよ」


 アルベルトも無責任に請け負った。

 というか、そもそも拒否権はない。彼は奴隷なのだから。

 エリシアは、アルベルトが同意したことに満足し、先ほど自分の死因を悪く言ったことは広い心で水に流してあげよう、そして自分の理想とは違うがアルベルトを相棒にしてあげよう、と思った。


「でもね、ルールがあるから聞いて。まず、アルは普段は執事っぽくするの。でも、裏の顔は別!私と一緒に情報収集をして敵の弱みを握るの……」




 こうして、暗躍したいポンコツと、俺TUEEしたいバカのコンビが誕生した。

 この二人によって、この国、ブルートゥ王国は少しずつ変わっていく――

 はずなのだが。

 こんなのに影響されてしまうブルートゥ王国、本当に大丈夫だろうか……。

ここまで読んで戴きありがとうございました!


エリシアいいぞ! もっとやれ!

アルベルト頑張れ! 応援してるぞ!


と思ってくださいましたら、

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