1話 お嬢様、目覚める
激しい頭痛と吐き気で数日寝込んでいた齢十五歳の公爵令嬢、エリシア・フォン・レイヴェルトは、ある昼下がり、ガバッと目を開けて叫んだ。
「ああああああああーーーーーーー!!!! 私! 死んだ!!!!!」
ついに狂ったかと思われても仕方のない言動だが、これには理由がある。
彼女は突如として前世の記憶を思い出し、自分が転生したことを理解したのだった。
エリシアの最期は、とても間抜けなものだった。
高校生だった彼女は暗躍ものに憧れ、学校の主要人物の弱みを握ってやろうと、根気で習得したピッキングスキルを使い、早朝の生徒会室に侵入した。そして、隠密行動をしているとは思えないほどのガサツさで生徒会の資料を漁り、ついにラブレターを発見する。
喜びの歓声を上げようとした、その瞬間――生徒会室の扉が開いた。
焦った彼女は、生徒会室の窓に掛かったカーテンに隠れようとした結果、空いていた窓から落下した。そして、死亡した。
窓の柵が思ったより低かったのか、勢いよく突進しすぎたのか、彼女が落下した理由は今となっては分からない。もっとも、そんなことはどうでもいいのだが。
落下を認識した彼女は、こう思った。
(やっぱり暗躍には相棒が必要だよね)
最期に考えることではないだろう。
もっとほら、親への感謝とか、自分の軽率さへの反省とか……そういうものがあるはずだ。
しかし、悲しきかな。彼女はそういう人間だった。
自身の最期を思い出したエリシアは、
(よし、今回は絶対に相棒を作ろう)
と決心した。
もはや彼女の中で「暗躍する」ことは決定事項である。もっとも、暗躍できるとは限らないのだが。
(よーし! 前世では捜査中に無念にも死んだからには、私を守ってくれる強い相棒を探すぞ!私は頭脳担当だからね)
捜査中でもなければ、無念でもないし、頭脳担当でもない。
が、ともかく彼女はそう思っているらしい。
しばらく自分の前世の捜査の過酷さに思いを馳せていた彼女はようやく、転生によって自分の外見や境遇が変わった可能性に気づいた。彼女は、無駄に豪華な装飾が施された部屋の天蓋付きベッドからのそのそと抜け出し、
「さむっ」
と呟きながら鏡を覗き込んだ。
艶やかに腰まで伸びる銀髪。
深海を思わせる青い瞳。
十五歳という年相応のプロポーション。
(わっ! 前世より五割増しで可愛くなってる!)
中身とは裏腹に、実際には五十倍ほど可愛くなっている彼女は、この国――ブルートゥ王国でも有数の美少女である。
次にエリシアは、自分の可愛さに見惚れつつ、記憶の奥から自身の境遇をほじくり出した。
(レイヴェルト侯爵令嬢。シュベルお兄様は隣国へ留学中。
王子様は二人いて……第二王子は私の……婚約者!?
暗躍に最適なポジションじゃん!)
そう、彼女はこの国でも比較的重要な立場にいる。
こんな暗躍に目がないポンコツに務まる地位ではない。
「お姉ちゃん、ちょっとあそこで暗躍できるから、おじちゃんについておいでよ」
などと言われてホイホイついて行ってしまうようではお話しにならない。彼女の暗躍への熱意に気がついた者にとって、誘拐し放題ではないか。
自分の地位の高さによるデメリットに気がつけないまま、今までのエリシアの記憶を整理していた彼女は、ついにこの国にも奴隷制度があり、貴族が奴隷を所持することが一般的であると気づいた。
(これだ! 強くて優しい相棒をゲットするぞ!)
彼女は決意を込めて、
「やーー!」
と叫んで拳を突き上げた。銀髪美少女には相応しくない動作だったが、声が無駄に可愛いため、和んだ絵面だった。
だが、和むような絵面だろうとなんだろうと奇行には違いない。人に見られれば精神を心配されてしまうだろう。何しろ、記憶を取り戻す前のエリシアは非常にデリケートだったので、一万歩譲ったとしてもこんなことをするような令嬢ではなかったのだ。
だが、幸いなことに、彼女の奇行は誰にも目撃されずに済んだ。記憶を取り戻す前のエリシアが、侍女が部屋に常駐することを嫌がったため、公爵令嬢としては異例なことに、侍女がいなかったからだ。
しかし、目覚めた瞬間の叫び声と今の決意の叫び声に、さすがに心配になった侍女は慌てて部屋へ駆け込んだ。
そこですっかり元気になったエリシアを見て仰天した侍女は、急いでエリシアの父と母、そして執事のセバスチャンへ報告。
娘が大好きな三人は、すぐさまエリシアの部屋へと駆けつけた。
部屋に入るなり、開口一番。
「奴隷が欲しい!」
そう言われた三人が、医者を呼ぶべきか本気で相談したのは、また別の話。
ここまで読んで戴きありがとうございました!
エリシアいいぞ! もっとやれ!
エリシアパパとママどんまい! 応援してるぞ!
と思ってくださいましたら、
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