0話 これはとあるお嬢様による、盛大な勘違いのお話
「レイヴェルト嬢、今、なんて言いました?」
長い黒髪の青年は、緊張の面持ちで銀髪の少女を見つめた。場には長い黒髪の青年と銀髪の少女、そして少女の従者である黒髪の青年の三人がいる。誰かがゴクリ、と唾を飲み込んだ。
「もう一度言って差し上げますわね。わたくし、あなたの狙いはわかっているんですわ」
(そう!私の婚約者を(恋愛的な話として)狙っていることなどね!わかってるんですよ!まあ男性同士って言うのもハードルがあるし、相手の気持ちを尊重しないといけないけどね!)
銀髪の少女は、心の中でドヤ顔をした。もちろん、表向きには真顔である。大事な話をするのにドヤ顔をしているようでは、相手も素直に話してくれないからね、と銀髪の少女は思った。
「狙い……レイヴェルト嬢、君は、俺のことをどこまで知っているんですか?」
(俺が隣国のスパイなことはバレていると見た方が良さそうだ。だが、暗殺計画がバレていなければ……)
黒い長髪の青年の目つきが鋭くなる。
(暗殺計画がバレてしまえば、彼女のことを生かしておくことはできない。仲良くしていた分申し訳ないが、元々俺はスパイだ。そこまで感傷に浸る必要はない)
「そう……例えば、あなたの(恋愛的な意味での)狙いがわたくしの婚約者であることとかですかしらね?」
銀髪の少女はコトリと首を傾げながら言った。
(決まったーーー!!今の、めっちゃ暗躍してる人感あるよね!!)
「そうか、ならレイヴェルト嬢を生かしておくことはできません。すみませんが事故に遭ったとでも思ってください」
そう言って長い黒髪の青年が懐からナイフを取り出した。一気に少女との距離を詰め、首を一閃しようとする。
「アルっ!」
少女が従者の名前を呼んだ。従者は素早く動き、長い黒髪の青年を取り押さえる。
(うんうん。過激だけど深い愛情。多様性に対して不寛容なこの世界じゃ、こんなふうに愛が歪になっても仕方ないか!私がいたら絶対に彼と付き合えないもんね。でも!私が最後まで伝えなかったのも悪いか!)
少女は納得した。
「話は最後まで聞くものよ?」
少女は地面に組み伏せられた青年に向かって一歩近づく。
「うっ。くそっ。なんだよ、失敗した俺のことは一思いに殺してくれ。それともなんだ?拷問でもする気か?」
敬語が取れた長い黒髪の少年が少女を睨みつける。
(随分と思いを拗らせているのね)
「だから最後まで聞きなさいよ。いい?わたくし、あなた(の恋)を応援しているんですわ」
「は?俺(の暗殺計画)を応援してる?正気か?」
「ええ、言ってるじゃない」
少女は微笑んだ。
「わたくし、婚約者のことを(結婚相手としての意味で)愛せる気がしないのよ」
「それだけの理由で(暗殺を)応援するのか?!」
「それだけ?ええ、まあそうね、そういうことにしてくれていいわ」
(それだけ?恋敵じゃありませんよアピールが一番大事じゃない?)
と思ったものの、とりあえず、銀髪の少女は同意した。
(なるほど、他にも理由はあるようだな)
と長い黒髪の青年は納得した。
「そうか、レイヴェルト嬢......つまり君は、俺の協力者、と言うことでいいんですか?」
長い黒髪の青年が恐る恐る尋ねた。落ち着いたのか、敬語に戻っている。
「ええ」
少女が頷く。
「そうですか、助かりました、ありがとうございます。仲間にも伝えておきます」
「助かるわ」
(仲間?LGBTQの隠れた団体みたいなのがあるのかな?)
二人の会話は、最後まで噛み合わなかった。
これは、暗躍したい少女が異世界に転生し、最強の相棒と共に、盛大な勘違いを重ねながら異世界をかき乱していく物語である。




