3-序幕.春の嵐の前口上
風と雨粒がバチバチと窓を叩いている。
勉強机に向かっていた栗皮色のボブヘアの少女は、ほんの少し右に顔を向けて、窓を見た。切りそろえた短い前髪の下で、落ち着いた色の瞳がきゅっと細くなる。
白い桜の木々が、風にあおられて激しく揺すられている。大粒の雨が何度もガラスにぶつかっては、向こうの景色を歪ませる。
「もう少しで満開だったのに——入学式の前に散ってしまうわね」
——今年は。と言葉が落ちたところで、彼女は腕を組み、一瞬だけまぶたを伏せた。
細い指にはペンだこが薄く残り、袖口は一折り。立ち上がって窓辺に近づくと、制服の裾がふわりと揺れて、控えめな石鹸の香りがかすかに立つ。
ガラスに映る横顔は、少女そのものなのに、視線の動きだけ大人びて静かだ。
先ほどまで座っていた勉強机。上には一本のペンと三冊のノートが散らばっている。閉じた二冊はこれまでに終えた“物語”。残る一冊だけが開いたまま置かれ、余白の多い見開きの上段には太い字で【課題】とある。
「春の嵐——か」
雨脚はまだ遠ざかりそうにない。灰色の空は桜色を押し潰すように見える。窓枠にそっと触れた指を離し、背筋を伸ばした。
——土砂降りの夜。
礼拝堂の裏、稲光に切り取られた崖下の赤。息を失った親友の胸のナイフ。近づこうとした彼女を止めた誰かの腕に、立てた指の力。天に怒り、返り討ちのように受けた雷——それが繰り返す学園生活の始まりになった。
そして、知っている。この三年目の終わりには、あの夜がまた必ず来ることを。
少女——アンジェリク・マークスは、組んだ腕の中で小さく拳を握りしめた。
次回【雨の始業式と群像】




