09.二十分の中休み
みんな、足が速い。
さて、この世界を——彼女の言う“恋愛シミュレーション”と仮置きしよう。ハーレム計画を止める作戦を立てるため、私はこれまでの周回メモと市井の安い恋小説を並べた。すると見えてきた“ソフィアの好み”は驚くほど似通っていた。
たとえば——皆々、髪や瞳の色がはっきりしているとか、顔立ちはそれぞれ違うのに総じて整っているとか、性格はバラバラのくせに自由奔放という一点だけは妙に共通しているとか、そういう点だ。
(まあ、色は属性の影響もあるのよね。火は赤、水は青、土は黄、風は緑。黒や茶は普通色)
そんな中で、ソフィアの桜色も珍しく、入学直後から目を引いていた。亜麻色寄りと言えなくもないけれど、実際は花弁みたいな白味が強いし。
それより今、取り上げたいのは自由奔放さの方。
「休み時間は二十分。なのに、なんで皆、裏庭・植物園・図書館・鍛錬場に散るのよ!? 分身でもいるの!?」
女子トイレの鏡前、ソフィアが肩で息をしていた。人がいないのを確かめ、私に詰め寄る。
入学から数日。彼女は攻略対象に接触しようと奔走中だが、授業終わりの鐘ごとに男達は各々の定位置へ散ってしまう。今の目当ては四人だけでも追うのは骨だろう。
「今のところ、個室で二人きりはアレスとブルーノ一回ずつ。……一人ずつ狙い撃つべきかしら」
「好きにしたら?」
うなずくと、彼女はむっと顔をしかめた。
「他人事みたいに言わないで。大変なのはあなたが“親友ポジ”を放棄したからよ。ゲームなら“今どこ”ってあなたが教えてくれたの。転移石でもあればって思うけど、ないし」
「ああ、そういえば私、よく噂を拾っては『〇〇君は植物園らしい』『〇〇様、この時間は訓練室』って渡してたわね。……今は大変ね」
「まったくその通りよ!」
「……もし一人だけに絞るなら協力はするけど」
「私が狙うのはハーレムだってば」
「じゃあ、まだ手伝わない。それじゃあね」
詰め寄る手をそっと外して距離をとり、その場を離れた。
ソフィアは追って来ようとしたが、廊下の人目に気付き、悔しげに足を止めた。
「……なによ」
背に小さく聞こえたが、もう構っている暇はない。
私は角を曲がり、視線を断った。
(自分を頼ってくる相手を突っぱねるの、可哀想、と思わないでもない。でも——)
ハーレムエンドだけは、私が止める。
ただ……
「展開が早い……一月も経たずに、一対一が出始めるなんて」
彼女が能動的に動き回っているせいか、あるいはそういうシナリオなのか。
なんにせよ悠長にはしていられない。男性側の自由奔放さに任せて「接点なし」を眺めているだけでは、間に合わない。
「……こちらも巻きでいこう」
そう呟き、ポケットの転移石を指先で握りしめた。
持ってるんかい!
次回【片目隠れ眼鏡男子の静域】




