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親友ポジのタイムリーパーは、転生ヒロインのハーレムを阻止したい 〜台本を閉じる方法〜  作者: 月乃ふくや
二年目〜ソフィアside〜

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2-20.事故 消灯 〜アンside〜



 塔の周りの垂れ房へ火が触れた。


(いけない——移る)


 息を飲み、半歩踏み出しかけた、その時だった。


「下がれ!」


 塔の近くで誘導に立っていたサーチェスが声を張り上げた。列の人を肩で押し戻すと、マントで火の移った房を叩き落として踏み消す。


 だが塔の上の火は、バチッ、バチッと赤く点いたまま。


 群衆の中にざわめきが広がった。


 そして、続いて——塔の口から炎が噴き上がった。


 熱の舌が群衆へ降り、小さな悲鳴があがった。


「水、待って!」ブルーノが、構えようとしたサシャの腕を抑えて言う。「いま一気に掛けると蒸気が弾ける。霧で温度だけ落とす」


「了解っ!」


 サシャが両掌を合わせて水脈を解き、ブルーノが霧を細かく整えると、炎に触れない“冷たい霧”が外側の空気を撫で冷やし、熱が少し落ちる。


 同時に、


「チッ、嫌な上がり方だ」


 そうアレスが舌打ちし、ローゼリアを後ろ手に、もう片方の手を払った。群衆に落ちかける火の舌先を、アレスの火が寸前で削り取る。

 

 そこへ、駆け込むような二人の影。


「奉灯列、みんな三歩ずつ下がって止まれ!」


 エルヴィス殿下の声だ。パニックになりにくい具体的な指示が飛び、列ごとざっと空気が引いた。


(みんな……ありがたい。けど、まだだわ)


 ソフィアも後ろから現れたのを見ながら、私は短く息を吸った。


(っ……もっと、火の逃げ道を作らないと)


 ブルーノたちの霧をそのまま拝借し、塔の口周りに氷の筒を形作った。炎は上へ抜ける道を得ると荒れにくい。


 ぼっと、炎が上を目指した。


(よし? ——ああ、でも)


 ——まだ灰が混じる。


 そう思った時、塔が二度目のドン!を鳴らした。さっきより強い。振動が地面を伝わって、足の裏が揺れた。


 炎が爆ぜ、氷筒を割って火の粉が四方に散った。


 その一つが、列から少しはみ出ていた子どもの頭上へ向かった——瞬間、ソフィアが手をかざす。

 

「危ない!」


 水と聖をまとった手で、火の粉を払った。

 そして、そのまま、子どもの肩を抱いて半歩さげる。


 その姿を見て、一瞬、ほっとした。


 けれど、その直後に、急な突風が吹いた。


 彼女たちのそばの篝火台が悲鳴をあげるように軋み、鎖がちぎれてソフィアの背へ一直線に傾いた——




✳︎


 ソフィアの背中に篝火が向かう——振り返るのも、避けるのも間に合わない——ソフィアがぎゅっと子どもを抱いた。


 ——夏の市で、祈りの紙から消された“ソフィア”の名が脳に差した。

 

「——っ!」


 考える間もなく、動く。


 右手で気流を指先でつまむように圧して落下の向きを外し、同時に、左手の指を地へ落として足元から霜を走らせ、倒れ切る直前で台座を凍らせ止めた。


「はぁ……っ」


 火は芝から離れたところで、霧に息を奪われるように静かに消えた。


 ……雪像のようになった篝火台を前に、ぽつり、ぽつりと群衆から言葉が解けだす。


「あ、危なかった……!」

「今のなんだ……風? 氷?」

「ソフィアさん?」


 ざわめきが波のように広がる。


 ソフィアは驚いたように周りを見ようとしていたが、子どもが泣き出してしまいそれどころじゃなくなる。


「大丈夫。怖くないわ」


 その背で、殿下の声。


「“効かせた誓い”の束を塔から離すんだ!」


 まだ塔は燃えている。


 一瞬、ざわめき。


 ローゼリアが「おい!」と呼ぶアレスの後ろから走り、囁き屋の台を塔から遠ざけ、周囲に向けて通る声で言った。


「深呼吸を! そして短い言葉をひとつずつ——“誰かを縛る”のでなく、“自分が守れる”言葉を」


 殿下がひとつ頷く。次いで、騎士隊へ目線。


「サーチェス、へりを!」


「は!」


 サーチェスが地面に片膝と両の掌をつけ、塔と列の間に、土壁を走らせた。


 そのうち、列にいる人たちの口から澄んだ誓いの言葉が並び出す。灰がごふっと吐き出されると同時に、炎が急に戸惑いだし、細くなりはじめる。


 その間も、場は止まらない。

 アレスが逆火で削り、ブルーノとサシャが霧を整え、私は氷筒を作り直す。

 

 口を段階的に狭める。


 最後、収束する手前で、もう一度だけ火が唸った——その刹那、塔の端で何かが瞬いて見えたと思うと、風がふっと合い、揺らぎがすっと収まった。


 ——やがて、塔は長く静かになった。


 灰がすべて吐き出され煙が薄まり、夜の空に、星が戻った。


「……持ち堪えた」


 力を抜いて、そのまま木の根元に腰を下ろす。汗を拭いながら凝らした視線の先で、ソフィアが子どもの額に小さな聖を落として、笑っているのを見た。子どもも笑っている。


 私もひとりほっと息を吐いて笑う。

 

 広場には安堵が流れ、炎は静かな誓いだけを残した柱になった。





次【消灯と小さな余韻】



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