08.〜回想〜最初のタイムリープ『雷の夜』
※少し残酷描写あります
初めてのタイムリープは、鮮明だ。
ほかも覚えているけれど、最初がいちばん衝撃だったから。
卒業式を間近に控えたある日。
朝から雨と雷で視界は悪く、私は寮の片付けをしていた。
気づけば夕方の五時。食堂へ行こうとして、ついでにソフィアを誘おうと隣室を叩く。返答はない。
(出かけてるのかしら)深く考えず、私はひとり夕食をとった。
──できればこの時、何かを察していれば。そういう思いは今も残る。
しばらく食堂で過ごしても彼女は戻らず、夜になっても部屋に灯りはつかない。
さすがに管理人へ連絡。騒ぎは抑えられ、教師を含む静かな捜索が始まった。彼女と親しい男性たちも加わる。私も無理を押して混ぜてもらった。
──長い時間ののち、彼女は見つかった。
土砂降り。学園の礼拝堂の裏、崖下で。
「──ソフィア?」
近づいた一瞬、目に焼きついたのは一面の赤。
桜色の髪は染まり、踏みつけられた花びらみたいに汚れた色。
乱れた髪で目は見えない。半開きの口、歪んだ首。息は、ない。
「な、に、どうして……」
「──君、だめだ!」
ふらつきながら近づこうとした私を、誰かが後ろから抱きすくめる。女の私には残酷だ、と判断したのだろう。雨と土と草の匂い。
泣き叫び、腕から逃れようとする私の横を、ソフィアと親しかった男性達が通り抜け、人形のような彼女へ駆け寄る。
名前を叫び、揺すっても応えない。抱き起こされた胸には尖った銀のナイフ。事故ではない──それだけで十分だった。
「嘘……!」
脚から力が抜け、膝が泥に沈む。支えるように付いてきた腕に、無意識で爪を立てた。
静まる場で、私だけが叫んだ。
「嘘! 嫌! 嫌だ! こんなの嘘! どうして……!」
雨に濡れる友の死体が信じられず、叫び続ける。
変わらない。彼女は死んでいる。
その時、私の叫びをかき消す雷鳴。
月のない空。稲光だけが暗雲を裂く。天も怒り悲しんでいるみたいだ。
唇を噛む。
──少しでも早く異変に気づいていれば。
──大雨の外出を止めていれば。
すべて遅かった。
どうしようもない後悔が押し寄せる。
(なによ。天まで怒るなら──どうして誰も、彼女を助けてくれなかったのよ!)
「恨むわよ、神様──!」
天を睨んだ、その瞬間。
轟音。閃光。直撃。
意識が飛び、視界が真っ白に弾ける。
そして次の瞬間──
私は、春の青空の下、「聖アドリフィス学園」と刻まれたアーチ門の前に立っていた。
次回【アン動く】




