2-14.生徒会室で、エルヴィスとフィンと
馬車は昼に寮前についた。荷解きのざわめきが寮に広がる。
今日の残りはもう自由時間だった。
寮で昼食をとったあと、また自分の部屋で休む子、談話室でお喋りを続ける子……と色々バラけるなか、私は自室で、机の上に紙を出した。
(今日のうちに、出しておきたい)
書き込むのは、数字の記録、起きたことの記録。
それが終わって気がつくと、放課後近い時間になっていた。出来上がった書類束だけ抱えて、私は校舎へ向かった。
(いるかしら)
生徒会室の前で息を整えてから、ノックした。
「どうぞ」
中から、落ち着いた声。
扉を開けると、二人——エルヴィスとフィン。
窓は半分だけ開いていて、薄い風が入っていた。机には付箋が短く列を作り、湯気の消えかけたカップが二つ。
「失礼します。合宿の報告と、消耗品の記録、それから——ロープの補修点です」
「受け取るよ」
束を差し出すと、エルヴィスが立ち上がって受け取った。親指に小さな絆創膏。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
横から声をくれたのはフィンだった。椅子から半身を起こし、目尻をやわらかくして笑う。
「おかえり、ソフィアちゃん。疲れてない?」
エルヴィスもふっと目を和らげた。
「おかえり、ソフィア。皆、無事で何よりだったね」
「はい。……ただいま戻りました。
みんな、よく動いて……助かりました」
首を伸ばしたフィンがエルヴィスの持った書類の一番上だけを指でトンと叩く。
「うん。霧の件、聞いてるよ。隊の判断が良かったって」
「はい。それで、岩角でロープが擦れた箇所ができたので、保護材を増備できれば……って」
私は付箋の挟まったページを指で示した。
「わかった」
エルヴィスが短く記し、顔を上げる。
「資材庫に余りがある。明朝、整備へ回すよ」
「ありがとうございます」
一礼して返した。エルヴィスがふと続ける。
「あと、来てくれたついでに連絡。明日から、生徒会は文化祭の準備期間に入ろうと思うから、他のみんなにもそう伝えてくれると助かる」
「わかりました。……それって、去年より少し早い……ですよね?」
雑用係としてうろうろしていた時期の生徒会室の気配を思い出しながら尋ねた。
「うん。今年は、フェイ・マーケットへの返礼祭……ランタンの祭りも重なるからね。分割して進めたい。それを明日の会議で決めたくて」
「なるほど。わかりました」
「ランタンのほうの準備進行は僕が引くよ」とフィンが言ったところで一つ咳。「……失礼。資材は薄紙と蜜蝋、それから芯石で足りるはず。」
「仮の資材表、すぐにまとめて共有しますね」
「助かる。ああ、でも」
フィンが軽く手を振る。笑ったまま、声は静かに。人差し指を唇の前で立ててウィンクした。
「今日はもう、合宿終わりなんだから、温かいものを飲んで、ちゃんと寝ること」
「っ……」
一瞬だけ言葉に詰まった。けれど
「……はい。今日は、甘えます」
思った以上に素直に返せた。
フィンもエルヴィスも小さく笑う。
「ん、約束ね」
「……ああ、そうだ——」
エルヴィスが机の端の箱から、薄い砂糖菓子の袋を二つ出してきて、私の手のひらに乗せる。
「君たちの留守中、また差し入れがたくさん来ていてね。もらってくれる?」
「いただきます」
包装の角が指に触れる。ちぎって、一つを口に。
ふわり、甘さが舌の上で溶ける。
(おいしい)
ほっと息が抜けたところで、視線をあげると、エルヴィスとフィンの二人が目を細めて私を見ているのに気づいた。
不意に、合宿の時にアレスから聞いた話を思い出した。
(——夜の鍛錬、見ていましたか?)
問いが、喉まで上がりかける。
それを、私はそっと胸に戻した。
(確かめなくてもいい)
いま、ここがあたたかい。それで足りる。
扉へ向き直ると、背中に、フィンとエルヴィスの穏やかな声がそれぞれ続いた。
「よく頑張ったね、ソフィアちゃん」
「無事でいてくれて、ありがとう」
きゅっと胸がすぼまる。頷きだけで受け取り、笑って振り返る。
「どういたしまして」
それはヒロインらしいまっすぐな笑み。だけど、私の感情そのままだった。
廊下に出る。後ろで扉が閉まる。
包みをポケットにしまって、私は寮へ戻った。
——次に待つのは、秋のイベント。生徒会としては先に動き出すんだろう。ただし、その前に学園の生徒として立ち向かうべき難敵と対峙する必要がある。……夏の期末試験だ。
次回【というわけで期末試験期間突入】




