2-13.帰路の馬車
撤収は、朝靄が上がりきる前に始まった。
列になって連結馬車(内装はバスみたい)にいっせいに乗り込んだあと、通路の一番前で、サーチェスが立ったまま乗り込んだ人数を数え直した。
「後ろは詰めて座れ。荷は頭上。通路に置かない」
簡潔な声に、みんながはーいと手を上げて返事をし、順に席へ。
私は真ん中のほう、通路側の席に座る。
やがて出発の笛が鳴り、ぎし、と車体が揺れた。タイヤが車体の下で石のある地面をごろごろと動き出す。
私から見て斜め前でサシャがハンカチに包んだ焼き菓子をこそっと広げた。
「分ける?——みんな、食べる?」
ブルーノの声で「端から回そう。欲しい人は挙手を」と聞こえてから、二、三の手があがる。
サシャが「了解」と頷き、小さめにちぎって紙にのせて渡す。右へ、左へ。「ありがと」「後ろへ」と分けられていった。
一方で、
「……こっちはいい。」
むすっとした声が斜め後ろからして、私は振り返る。
窓際のアレスが、顎に拳を当てて肘をついた姿勢のまま、もう片方の手で焼き菓子を返していた。
隣のローゼリアは、まつ毛を伏せてほとんど眠りかけていた。夜は寝ていたと思ったけど、さすがに慣れないテントで眠りが浅かったのかもしれない。髪先が揺れては、アレスの袖に触れる。
「今のは……?」
うとうと声のローゼリア。
「……寝てろ。着いたら起こす」
アレスの短い声に、最後はもう半分夢の中みたいな小さな声で「ええ…」と返していた。
ディーン先生は最前列。後ろ向きの補助席に座って、頬杖で居眠りかと思えば、視線は窓の外の斜面を追っている。
崩れやすそうな地の色に差しかかるたび、前の御者へ短く指で合図しては、わずかに車体が速度を落とした。
ふと後ろの背もたれ越しに、アンの声がした。
「ソフィア、毛布、使う?」
「大丈夫。……そっちは?」
「ううん、私は平気」
そう言うアンの声も少し眠たそうなことに気づいた。けど、あえて深くは聞かない。
(この合宿中、気を張っていたのは私だけじゃないはずだものね)
私は少し考えてから、通路の反対側へ身を乗り出し、窓からのすきま風で肩をすぼめていた子に、そっと外套の端をかけた。
車輪が大きな段差を越えるとき、どん、と座面が一度だけ跳ねた。
揺れに合わせて、前列の荷棚の鞄がずるりと動いたのをみて、慌てて止めた。
「危ない」
片手で棚の縁を押さえ、鞄の持ち手とひもを短く結び直した。
顔を上げるとサーチェスと目が合った。
頷きひとつと「助かる」。私も同じように会釈で返した。
車窓の外、林が切れて、川が見えた。
昨日、霧が濃く、道が途切れかけた辺りが遠くに見える——。
(本当に、大事にならなくて良かったわ)
学園の尖塔が、遠くに立った。
昼までには寮の前につくはずだ。
今はただ、ちょうどいい疲れを背もたれに預ける。揺れに合わせて、みんなのまぶたが落ちていく。私もそっと目を閉じた。
次回【生徒会室へ報告に】




