60.冬。大階段の飾り付け
アン視点です。 一息。
文化祭が終わると、風は一気に冷たくなった。
色とりどりの落ち葉みたいに賑やかでほんの少し雑然としていた廊下の気配が、細く冷たい灰色の空気に締まりだすと、学園はあっというまに冬の期末試験期間に突入。
私は自分でまとめた試験の傾向対策資料を、ブルーノたちとの勉強会の中で共有すると同時に……ソフィアにも一束、渡しておいた。
「あくまでも傾向としてまとめてるだけだから、過信はしないで」そう言って。ソフィアは指の端で受け取り、下を向いて小さく頷いた。
——みんなの結果が出る頃には、すっかり学園全体が冬の衣装へ変わった。
緑と赤のカラーへ。
特に、主階段はほぼ仕上がっていた。常緑のリースとガーランド、鈴、松ぼっくり。手すりは磨かれ、絨毯は赤へ。金の星型の炎灯が壁に沿って灯っている。
その中で私はというと、階段の布の結び目をひとつ締め直し、撚れを整えていた。
——ただの手伝いに見えるように。
生徒たちが後ろを笑い声を残して通り過ぎる。
マフラーやブランケットがふわりと視界の端を撫でていく。
そのうち、きゃはは、と一際高い笑い声と共にひと組すれ違ったとき、甘くてわずかに苦い香りが鼻に残った。
(柑橘と、クローブ?)
けれど、振り返った時には、その集団はもういなかった。
「アンジェリクさん、そっちは終わったかい?」
脚立を畳みながら、腕に常緑の枝を抱えた庭師さんが声をかけてきた。
この時期は庭だけじゃなく、校舎の飾りも担当だ。
(まあ、だから私の「手伝います!」も通ったんだけどね……)
「はい。固定まで確認済みです。……あの、ここ、香りが少し強いですね」
「人が多いからね。あと、大鏡の前でみんな足がちょっと止まるから」
私は小さく笑う。
「でも濃すぎると酔う子も出るよね。
風、少し通そうか」
そう言って、上階の窓を半幅だけ開く。
冷たい空気が細く落ちて、リースのリボンと鈴がかすかに揺れた。
階段周りが、すぅ、と呼吸しはじめるのがわかった。
「助かります」
「こちらこそ——人の流れ、きれいに行くといいね」
「ええ。……本当に」
庭師さんと並んで踊り場を見下ろす。
(ここまで何も起きなかった)
——それでも。
過去のざわめきと石の冷たさ、赤が、一瞬だけ頭をよぎる。
最後にもう一度だけ手すりの高さと結びの位置を確かめた。
階段は美しい顔で、ただ静かに息をしていた。今は、まだ。
ここからは、(一年目は)もうそんなに長くないです…!一気に駆け抜けます
次回【聖夜前階段にて発生。〜ソフィア視点〜】




