59.文化祭終わり・表彰式の日/ささやかな上昇
祭りの結果(アン視点)と
ささやかな上昇(ソフィア視点)でお送りします
【表彰式の日 〜アンside〜】
文化祭が終わった翌朝の講堂。黒布が払われ、銀文字の楯が並ぶ。会場は在校生だけ。
拍手は控えめでも、耳の奥に残る響きがある。
「——では、品評結果を。
優秀賞《上級部門》:ブルーノ・オーシャン『温室用微細霧化器』」
後列で、ブルーノが無言で立つ。眼鏡の奥の目が、いつもよりわずかに明るい。
講評は短く「出力と粒径の安定、過湿回避の安全設計。実運用に乗る」。うん、至極まっとうな評価だ。
「敢闘賞《一年・応用部門》:サシャ・フランシス『香泡機』」
サシャの肩が跳ね、会場がふっと和む。
講評「安全・清潔・楽しいの三立。子どもの手でも安心なアイデアと設計」。
涙目で何度もお辞儀をするサシャに、隣の子たちまで頬を緩めた。
「佳作《一年・総合部門》:ソフィア・テレーゼ『共鳴宝珠』」
小さくざわめき、すぐ静まる。講評は「美しい発想と調律。使用者の常時介入が要る点は難、しかし一年として特筆すべき完成度」。
——最終日に倒れた事情で採点は甘くはならない。それでも“佳作”は十分な箔だ。
(……良かったわね)
最後に文化祭全体への評として安全導線の配慮の高さが挙げられ、三年生の文化祭委員長が代表として壇上で礼を返した。
表彰後、渡り廊下の端で、三年の貴族筋がローゼリアに顔を寄せ、「あのレースの耐火手袋、注文は可能でして?」と小声。
ローゼリアは完璧な微笑で「研究版ですので数量は限られますが、ご相談は承れますわ」。表情が誇らしげ。
それを、ちょうど私の斜め後ろくらいを歩いていたアレスが通りすがりながら目を細めて見るのを、さらに隣のサーチェスが横目で見ていた。「うるせぇ」「何も言ってない」
(……おもしろい人たち)
その夕刻、父から短い便箋が届いた。
『上々だ。派手さはなくとも“安全が捌けた”と覚えさせれば仕事は付いてくる。ナイス娘』
文面から、グッと立てた親指が見える。私は笑みを飲み、便箋を引き出しにしまった。
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【ささやかな上昇〜ソフィアside〜】
佳作の小楯は手に持つと軽いのに、胸のあたりだけ妙に重かった。
エルヴィスが近づき、穏やかに微笑む。
「おめでとう。佳作は“期待票”だよ。次は、使用者の負担を減らせたら、きっと届く」
「……ありがとうございます」
フィンは軽く言う。
「僕はそれも含めて好きだよ。負けん気が出てるソフィアちゃんらしくて」
ほんの少し息を詰めた。“私”が見抜かれてる。
サーチェスは、少し離れて一言だけ。
「人の流れの見回り、助かった。委員の役、よくやってくれた。ありがとう」
目が一瞬だけ柔らかく、それでも騎士の距離で去っていく。
アレスは、真正面から。
「倒れるな。次は、倒れずに勝て」
アレスが離れると、ローゼリアが小さく笑った。
「——ああいう言い方しかなさらない方ですの」
そう言って、私の手をそっと包む。
「どうかご自愛を」
先生たちに囲まれて話していたブルーノとサシャも、こちらに気づく。
「宝珠、美しかった。また今度、中身の設計を詳しく聞かせてほしい」
「頑張ったよねえ、みんな!」
二人とも、目が一段階明るい。
(少しだけ、“上がった”みたい)
盾を持った手と包まれた手を見下ろす。色の薄い手のひら。青い血管がまだ細く浮いている。削れた体力は、もう少し。
これにて文化祭編終了です!
あとは、とりあえず一年目は、最後の大イベント(聖夜)を無事に超えるだけです
次回【聖夜の準備】




