55.文化祭Ⅱ 歪み 〜ソフィアside〜
——箱が、壊されていた。
文化祭2日目が終わった夕方。魔道具の状態確認をしようと思って教室に戻った私は、それを見た。
蹴られたのか、欠けて枠の一部が割れた木箱が、床に転がっている。
(——私の共鳴宝珠)
そっと近づいて箱を持ち上げると、パラ…、と木屑が落ちた。
そして、軽さにハッとした。
「中身……! 魔石、ない。抜かれてる」
割れた隙間から中を覗くけど、空っぽ。軽く振っても音がしない。どこ!?と慌てて周りを探して——魔力を流してみて、ようやく見つけた。
「ごみ箱……捨てたのね」
全部、そこへ放り込まれていた。しかも、どれもご丁寧に砕かれた状態で。
(っ……集めても、このままじゃ使えない)
つい親指が口元に向かう。爪が歯に触れそうになって——『やめて、みっともない』——前世で言われた声が脳裏をかすめ、私は自分の指を握った。
噛まない。腕を降ろす。
(余裕はない。直せるところから直す)
私はすぐに校舎を出て石畳の上、撤収しかけの《道具診療所》のテントへ向かった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
リックが箱を畳んでいた。私の顔を見るなり、彼は目を細めた。
「木枠、割れた。ある?」
「……わがままで言ってる顔じゃねぇな。——もう締めちまったけど、端材で良けりゃ持ってけ」
差し出された束を抱える。私は一瞬だけ迷って、喉を鳴らした。
「……さすがに魔石は、余ってないわよね。全種類とか」
「ぜっ……さすがに今日はねぇな。明日なら……」
「いいわ。ありがとう」
背を向ける。彼が「おい」と呼んだけど、もう遠ざかっていた。
教室に戻り、私は黙々と木枠を付け直して削り、水晶窓を磨き直した。
魔石は、最初から。掌を合わせ、三拍で小さく“生む”。
光、風、水、土、火、氷、雷、闇。豆粒大。白濁なし。ひびなし。
息が乱れたら止めて、再開する。重ね塗りは最低限。——とりあえず一日もてばいい。
何度も繰り返してきたおかげもあって、即席一発でも、なんとか形にはできるようになっていた。
指の震えは、気力でねじ伏せる。
(やれる。私ならやれる)
夜の教室。音叉みたいに短い澄んだ音が、何度も立った。
次回【明日は文化祭最終日】




