表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親友ポジのタイムリーパーは、転生ヒロインのハーレムを阻止したい 〜台本を閉じる方法〜  作者: 月乃ふくや
文化祭準備編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/75

52.青い風を吸う場所

生垣でちょっと一息する庭師さんとアンの休憩回。

空は多分、青いです。



 サーチェスの足音が遠ざかり、廊下にひとり取り残される。

 肩のこわばりを微かに感じた。


(……ちょっと、息が詰まったな)


 ——こういう時は、風の通る場所がいい。


 図面を抱え直して、私は中庭の迷路へ向かった。






 生垣の縁は日陰が一定に落ちていて、風の匂いがいつも少し青い。


 今、迷路は文化祭用の“遊び場”に変身中だった。——「来場者向けに」というソフィアの提案だ。安全設計で必要なものは他と同じように私が用意したけど。


 庭師さんが脚立の上で剪定ばさみを軽く入れ、枝のあいだへ小さな灯籠を吊っていた。

 光石を籠に入れて布をかぶせ、葉には直接当てない、やわらかな灯り。


「やぁ、アンジェリクさん」


 気づいた庭師さんが脚立から降りてくる。


「お邪魔してます。……通りがかりに、空気だけ吸いに」


「吸って吸って。ここは吸い放題」


 冗談みたいに言って、「いる?」と水筒の蓋を差し出してくれる。私は素直に受け取る。ぬるいけど、喉に優しい。


「迷路の調整、忙しいのにありがとうございます」


「いえいえ。そちらこそ委員、大変じゃない?」


 庭師さんの視線が、私の腕の丸めた図面に落ちる。

 苦笑しながら返す。


「ええ、まあ。歩いて、拾って、お願いして、また歩いて……」


「いい仕事だよ。“直したこと”は誰かが見つける。“直さずに済んだこと”は誰も気づかない。でも、どっちも効いてる」


 私は頷いた。張りつめていた胸の奥が、少しだけ解けた気がする。


「ちなみに、この角は植え足しておくね。走るとぶつかるから、角度を柔らかくする」


「気づけませんでした」


 目を丸くして返すと、くすくす笑う庭師さん。


「そりゃあ、木に関しては僕の仕事だからね」


「……自己申告、大事ですね。庭師さんの“技”をひとつ知れました」


「そうそう、自己申告。技ってほどのものじゃないけどね」


 おかしそうに目尻を緩めたまま、庭師さんは最後に膝丈の柱へ小さな監視具(レンガ型)を仕込む。目立たない苔色の覆い。


「これは君のおかげで増えた“手”。これで迷子の“滞ってる空気”が拾える」


 おかげ、という言葉が素直に胸に入る。


「助かります」


「こちらこそ。こういうのひとつあるだけで、親の安心感が違う」


 私は袖の内側で、革の受信ブレスを一度撫でた。


 灯りがひとつ、ふたつ増えるごとに、迷路の息づかいが少しだけ祭り顔になる。ふんわりした灯りが目に優しい。

 

 ほっと息が漏れた。


「毎日ここに来たいです」


「毎日おいで。代わりに、剪定くずは持ってってね」


「検討します」


「“検討します”って便利な言葉だ」


 ふたりで笑った。


「じゃあ戻ります。ありがとうございました」


「うん。お疲れ様。——よく歩く人の道は、よく眠れる道になるよ」


 背中で、はさみの軽い音がまた始まる。私は息をひとつ吸い、校舎のざわめきへ戻った。



 


次回【文化祭前日・作品が揃う】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ