05.親友ポジ、ハーレムを否定する
はい、はっきり拒否いたしました。
『協力なんてできません──いえ、できないわ』
胸の奥で、なにかがカチリとハマった音がした。
あの大胆宣言のあと。押し切られそうになりながらも、私ははっきりとそう告げた。
彼女の言うハーレムエンドに協力はしない、と。
「どうしてよ。私がハーレム作ったってあなたは困らないでしょ」
「困るわ。この国にはハーレム制度がない。どう処理するつもり?」
「細かいことは知らないけど、きっと、なんとかなるわ」
「その軽さが心配なのよ……」
ため息をつく。
「荊の道よ。あなたの言う“ゲーム”みたいに、虚構で楽しんで済む話じゃないの」
「一応わかってるつもりよ」
「本当に? あなたの身に“いろいろ”降りかかるのよ。ここで、どんな目に遭ってきたか知ってるんでしょ?」
「え?──ああ、そういえば、バッドエンドでは、ライバルに突き落とされたり、不審者に襲われて死んでたこともあったっけ」
さらり。私の真剣さは届かない。
赤髪・俺様の侯爵子息。
青髪眼鏡の王宮魔導士志望。
黄色い髪、代々騎士の家系の堅物。
緑髪、心を開かない魔法生物の教師で担任。
橙髪、この国の王太子で、物腰柔らかな先輩。
紫髪、妖精の子孫の噂と女遊びの噂が絶えない先輩。
──攻略したいのは、これだけ。協力がなくちゃ無理、と彼女は言う。
さらに彼女は続けた。
自分がエンディングを迎えればシナリオは終わり、私はリープから抜け出せるかも、と。プレイヤーはもういないのだから、と。
(本当にそうなら嬉しい)
でも、私は“ハーレムが正しいか、可能か”を、もう一度考えてほしい。
物語なら、倫理も方法も曖昧にして“幸せなハーレム”が成立することもある。
けれど現実は違う。
貴族、王太子、騎士、王宮魔導士、教師、妖精の血筋──全員を同時に独占して、世間が黙っている?
民衆の批判は必至だし、“魔女の術”だと決めつけられて、中心のソフィアは魔女呼ばわりされるだろう。
……火刑台。私の脳裏に最悪が灯る。
それに、そんな状態でまともに国政が行える?
私は、無理だと思う。
だから、たとえ彼女がハーレムで終わり、私が解放されたとしても──そんな不可解な団体に国を任せたくないし、そんな国で暮らしたくない。
ちなみに、先日大聖堂で式を挙げたのは橙髪の王太子だった。
穏やかで紳士、恋は鉄壁で時間がかかったが、卒業後三日で挙式──(ほかの恋人たちも同時期に挙げた)
“シナリオの仕様”か、それとも恋の緩みでそうなったのかは、今は判断がつかない。
ただ、彼は彼女を大切にしてくれそうだった。
もう一度、彼じゃだめなのか。
いや、他の誰でもいい。なぜよりにもよってハーレム一択なの。現実が見えない?
「……もしかして、ハッピーエンドの具体像、何か見えてる?」
「うん、私、ネタバレ平気派なの」
「はい?」
「誰もクリアしてなかったけど、形式上は王太子と結婚して“後宮を増築”して皆と暮らすのがハッピーって噂。もしくは“誰にも邪魔されない森で慎ましく暮らし、皆が通ってくる”。どっちでも私はいいんだけど」
「……どこがハッピー……?」
税で後宮増築──民衆が許すはずがない。
私の脳裏に、怒れる群衆と火に囲まれるソフィア図がもう一度浮かんだ。
「……もう一度言うわね。この国にハーレム制度はない。誰も認めない。あなたは“魔女”と呼ばれ、最悪、火刑」
沈黙。そのあとに。
「──それでも、私は見る。隠しルートを」
げっそりした。
「もちろん、ハーレムなしで終わるノーマルもあるはずよ。でも、どうせなら私はハーレムエンドが見たい!」
「だから、“見たい”だけで人生を懸けないで!」
伝わらない。堂々と胸を張る彼女に、私は言葉を失った。
だから、やめた。諭すのを。
今の彼女には、前世で掴み損ねた夢しか見えていない。
なら、聖典を説くより、現実の被害を減らす方が早い。
「……ほんと世話がかかる」
ため息まじりに、ぼそりとつぶやいた。
次回【判定鏡】




