44.第一回文化祭実行委員会 〜ローゼリアside〜
貴族社会が狭めなのと、フィンが社交的なので、ローゼリアはフィンと面識あります(アレスもそうだったしね)
きっちり自分で立てるようになったローゼリアです
「では、第一回顔合わせを始めよう」
生徒会室。窓辺にオレンジの光、机の上には白い紙束。議長席のエルヴィス殿下が柔らかく告げると、隣のフィン様がひらひらと手を振られます。
「一年の子たち、よろしくね。怖くないよ、僕たち」
(相変わらず場を柔らかくするのがお上手ですわね)
わたくしはロの字型のテーブルについた面々を見ます。一年生からは、アレス様、オーシャン様、わたくし。そして、ソフィア・テレーゼ様。その後の生徒会からの説明は粛々と、けれど比較的和やかに進みました。
文化祭の骨格は毎年同じ——演武、演奏、模擬店、教室展示。そして、委員の役割は各企画の“つながり”に目を置くこと、と殿下は仰った。
「個々の発表が輝くには、道が要る。人の流れ、物の流れ、視線の流れ。委員は、その『道』を作ってほしい」
配られた用紙には、教室展示の配置素案と、魔道具の安全確認の手順が綴られている。
(“魔道具”——)
その文字を目でなぞるのと同時に、わたくしは制服のポケットの上に手を添えていました。
中にはアンから貰った無骨な耐火手袋。“怖いままでもいい”——あの言葉も含めて、私のお守りですわ。
委員は準備や当日の見回りなども仕事ですが、一生徒として、こちらの制作もおろそかにはできません。
上級生で早い人では、春から準備をされる方もおられるのだとか。一年生で難しいものを求められることはありませんが……。できれば、きちんと。
(またアンに相談してみようかしら)
会議が終わり、みなさん生徒会室を出て行かれます。わたくしも、と立ち上がる間に、ソフィア様がアレス様とオーシャン様に「よろしくね」と声をかけておられるのが見えました。
おふたりも、「ああ」とお返事。
以前までであればあのやりとりでさえ、わたくしの心はすぐに荒れていたものですが。
今は不思議と気にならなくなっている自分に、胸を撫で下ろしました。
わたくしも大概、単純ですわね。
「ソフィア様、わたくしも」
一歩、自分から歩み寄りました。
「共に、良いものにいたしましょうね」
ソフィア様はほんの少し緊張したように肩を上げられましたが、すぐににっこりと笑って。
「はい!よろしくお願いしますね、ローゼリア様も!」
“も”の置き方に、ほんの針先ほどの違和を覚えましたが、私が近づいた時に、アレス様が半歩、私のほうに寄ってくださったことが嬉しくて、やっぱり、気になりませんでしたわ。
それからほどなくして「じゃあまた」と急足で出ていったソフィア様のあとで、アレス様とオーシャン様と一緒に生徒会室を出ました(お二人は睨み合っていましたが)。
すると部屋の外の廊下に、壁に背をもたれさせながら立っていたアンがいました。わたくしに気づいてスッと姿勢を正し、歩み寄ってきます。
「アン、まさか待っててくださったの?」
「ええ。少しお話があって」
アンは私の前に立ち、後ろのアレス様とブルーノ様にも会釈した後、わたくしの目をまっすぐに見てきました。
そのまっすぐな姿勢はいつもと同じ。ですが、少し改まったような気配がありました。
そして、まっすぐにわたくしを見て——
「“スカーレット様”にお願いがあるんです」
彼女は、わたくしの名前ではなく、家名を呼びましたわ。
「おい」
私より反応が速かったのはアレス様でした。アンと私の間に立たれます。
「貴様、なにか企んでいるなら容赦しないと——」
怖い顔。ですが、わたくしはアレス様の腕にそっと手を添え、横に並びました。
「アレス様、大丈夫ですわ。——アン、あなたには恩があります。わたくしに返せることでしたら喜んでしますのよ」
そう言うと、アンの茶色の瞳が大きく開いたあと、ふっと緩みました。
そして、それだけで、彼女の誠実さは変わっていないとわたくしにはわかりましたわ——
(お嬢様口調の一人称視点、難し…っ)
次回【購買横・ある二人の最悪な初対面(リック視点)】でお届けします




