43.秋へ、文化祭準備始動
ファイトです
文化祭でやることは毎年だいたい決まってる——中庭迷路前での吹奏楽部演奏、講堂での有志の劇やコーラス、コロシアムで学生騎士隊の演武、正門から校舎正面までの長い石畳で食品の模擬店。三日かけて行われる賑やかな行事。
けれど、何よりの目玉は、各教室で行われる生徒の“魔道具”と“研究”の展示だ。
学園の理念は『己を知り、他者へ還元する術を学ぶ』。教室展示はわかりやすく『人のため』の腕試しだ。ここでの“印象”は、そのまま学内世論と卒業後の評価に直結する。
そして、その委員に抜擢されることも名誉。
朝、掲示板の前は、生徒の群れでごったがえしていた。 湯気みたいなざわめきのなか、《ソフィア・テレーゼ》の文字にいくつもの指先が往復する。
「十一位だったよね」「なのに委員?」「生徒会の推薦らしいよ」——噂は、正解の手前で止まる。声からは好奇と疑念、どちらも取れる。
(そりゃ話題にはされるわよね。でも)
反対側では、ローゼリアが女生徒の中心にいる。
「ローゼリア様、委員選抜、おめでとうございます!」
「頑張ってくださいましね」
「ありがとうございます。ええ、精一杯努めますわ」
彼女はいつも通り澄まし顔。けれど、その奥に“根拠のある”自信がついている。過去周回ではあそこで他令嬢たちと悔しげに唇を歪ませていたけれど、立ち位置も本人の姿勢も、完全に変わった。
私は心のなかで「良し」と拳を握る。
別の端ではアレスがサーチェスを呼び止める。
「お前は入らなかったのか」
「騎士隊のほうで見回りがある。自動的に外されるそうだ」
「なるほどな」
短い会話。アレスが喧嘩腰でさえなければ幼馴染の彼らはあんな感じだ。
「ブルーノ君、頑張ってね!」
また別の端ではサシャがブルーノの背を軽く叩いてエールを送っている。
「委員って、仕事も展示物の制作も両方あって忙しそうだけど」
「ああ。でも、こういう活動の内申も、将来に関わるからね。どちらも全力を尽くすよ」
「ふふ、ブルーノ君らしい。私は何を作ろうかなぁ…」
そこまで見て、私は、人垣から半歩下がり掲示の下段に目を落とす。《初回招集:本日放課後、生徒会室》。その一行を目でなぞってから、踵を返した。 本来、私がここで目立つ必要はない。
(ないけれど——)
廊下の角を曲がったところで、ソフィアと鉢合わせた。目が合った瞬間、彼女はほんのわずか鼻先を上げた。
「おめでとう、ソフィア。忙しくなるわね」
「ふん。ここで“活躍”して、注目を取り戻すわ」
返ってきた言葉に軽さはなくて、目は、私への敵意にも似た挑戦的な光が宿っている。顔を背け、歩き去っていくソフィアを私は追わなかった。追えば、彼女は走る。遠ざかるソフィアの背から廊下の隅へと自然に視線が落ちた。
(……まさか、委員に入るとは思わなかった。噂では誰からの推薦とははっきり言われてないけど)
おそらく殿下だろう。“誰”が話に登らないのが逆にその証拠みたいなものだ。 過去周回では、ソフィアは期末の掲示板に載って文化祭委員に入り、それでようやくエルヴィス殿下やフィン先輩と顔を合わせて、以降の覚えがよくなる流れだったけど。
(先回りされてたのがこういう形で活きてくるなんて。——ローゼリアがソフィアに手を出す心配はもうしていないけど、結局、大きな流れは同じになってる……それが少し不安だわ)
耳の奥では、さっきの生徒たちのざわめきがまだ反響している。
「……通信室、空いてるかしら」
次回【第一回委員会会議】




