40.結果発表
口笛吹き荒らしたい
今回の魔導掲示板には、学年ごとに上位十位までの生徒の名前しか載らない。
最下に書かれた名前から順に上に目を滑らせた私は、なかなか出てこない目的の名前に焦りを覚えつつ──だけど、上から三列目にあった名前を見つけた瞬間、体が震えるのを感じた。
「アレス……プロミネンス」
隣でブルーノが頷く。
「そして、その上の二位にブルーノ・オーシャン──僕だね。ときたら──」
「一位」
──ローゼリア・スカーレット
その文字が読めた瞬間、
「わたくしの名前……ですね」
いつの間にか側にきていたローゼリアが、どこか呆けたような声で呟いた。
「達成、できてしまいましたわね」
目を細めて柔らかく笑ったローゼリアに、つい抱きしめそうになったのを私は堪えたけど、代わりに、サシャがローゼリアに飛びついていた。
しかし、すぐ。
「これはどういうことだ?」
人混みの中をかき分けて出てきた赤い髪の青年を目に留めると、私は、ローゼリアを咄嗟に自分の背に隠した。
彼が出てきたのは早くも狙っていた反応ではあったが、彼の表情には強い憤りが浮かんでいて、その状態のまま彼女と突き合わせるのは躊躇われた。
それでも、間を阻んだ私の頭越しにローゼリアを睨んで彼は言った。
「ローゼリア、貴様が俺を抜かすなんて。いったいどういうことだ」
言葉は強いが、掠れた声だった。ただ、その台詞は、まるでローゼリアが実力でこの成績を収めたことを認めていない言葉にも、一瞬、聞こえる。
「アレス様──」
不安そうな、というよりも、それに対して、どこか哀しそうなローゼリアの声が後ろから聞こえた。
すると、ブルーノ君とサシャの二人も、彼女を庇うように私の横に立った。
「プロミネンス、その言い方はどうかと思うぞ。大人しく認められないのか」
「そうです。ローゼリア様、すごく頑張っていたんですから!」
「なんだ貴様ら」
普段、決して気の強い方ではないサシャでさえアレスをキッと見つめ返す。
そのことに、ローゼリアも気を持ち直したみたいだった。
「オーシャン様、サシャ様……」
そう呟くと、私の肩にそっと手を乗せて、私の横に進み出てくると、これでもかというほどの優美なお辞儀を彼に向けて言った。
「分を弁えぬことをして申し訳ありません、アレス様。ですが、わたくしは……」
「この女に、何を吹き込まれた」
「え?」
ローゼリアが虚を突かれたような声を漏らした。
不機嫌そうな、顔。苛立ちを含んだ赤い炎のような目が、今度は私を睨んで指を差す。
「常に、俺を立てようと力を抑えていたこいつが……ここにきて俺を抜かすなんて、貴様、何を言った。どういう手を使った」
私に向けて発されたアレスのその台詞は、さっきのものとは明らかに違う意味を含んでいるようだった。
「さあ……特別なことは、何も」
私がそう言うと、彼の目の奥の炎が一瞬、揺れた。
それはローゼリアもぽかんとした顔のままちゃんと見ていたと思う。
だけど、
「なら──」
一拍の沈黙が落ちる。アレスの喉が鳴った。
「単に、俺に、愛想を尽かしたということか…」
普段、おそらく彼の口から聞くことなどないだろう、暗い声色で呟かれた言葉とその表情の意味を飲み込むのには、ローゼリアのほうが、私たちよりも時間がかかっていたみたいだ。
一拍遅れて、青ざめた彼女は冷静さも忘れて叫んでいた。
「ちっ、違いますわ!」
「違わないだろう」
一方のアレスは、なんというか、いつもの自信をどこに置いてきたのかという感じの表情のなくなった白い顔でそれを一蹴した。
「貴様は、とうとう俺に愛想をつかしたから、こんなことを……ようやく実力を抑えて俺を立てることをやめたんだろう」
「誤解でございます! アレス様──アレス様……!」
それは、いつものように彼女を突き放すような言葉ではあったが、意味が明らかにいつもと違う。ローゼリアは咄嗟に、今、縋りつかなければと感じたのだろう。普段なら言わないような必死の告白が漏れたのはきっとそのためだった。
「アレス様、わたくしは……貴方様を心の底からお慕いしています! あ……愛しています! だから、彼女のアドバイスを聞いて、貴方様と共に並ぼうと今回こうして頑張ったのではありませんか……!」
「なっ……!?」
その瞬間、その顔をボッと赤くしたアレスは目を見開いた。
「えっ!?」
それを見て、自分のさっきの台詞を思い出したのか同じように赤くなるローゼリア。
(火魔法の使い手が二人も寄ると、熱くて敵わないわねー)
私はというと、ついニヤけてしまいそうになる顔を慌てて横を向いて隠した。そして咳払いする。
「えー、こほん。とりあえず、お二人とも、ここでは人目が多いので、場所を変えてお話ししてきたほうがいいのでは」
「「……っ」」
そうして、頭から蒸気でも出しそうなふたりに、ひらひらと手を振った。
「──これで二人目」
小さく呟きながら、アレスがローゼリアの手を強引に引いて食堂から出ていくのを見送った私。
その時、聴衆の中に、呆然とした顔のソフィアを見つけると少し申し訳なくなったけど、それでも今は安堵の気持ちの方が大きかった。
ただ、一言「ごめんね」とだけ聞こえない声で置いた。
次回【ローゼリア編・決着】




