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親友ポジのタイムリーパーは、転生ヒロインのハーレムを阻止したい 〜台本を閉じる方法〜  作者: 月乃ふくや
悪役令嬢ローゼリアの改稿編

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35.小検定:魔法の安定出力

ペア練の許可は申請して、もらってます(キリッ)



 期末試験──この学園で、夏と冬の二度にわたって行われる大きな試験。


 春過ぎに行われた中間試験は筆記試験だけだったが、この夏から実技の試験まで入ってくるのはどの生徒にも知らされているところ。一年生はみんな、どんな試験になるかと戦々恐々としている。


「で、その実技試験ですが、実のところ、あまり心配する必要はありません」


 先生に申請して借りた鍛錬場の一角で、私は言い切る。「そうなんですの?」と不安そうなローゼリアが首を傾げた。


「はい、過去問を探しながら先輩方にも確認しました。今度の期末で求められる実技は、基礎中の基礎。採点は減点方式。ミスしなければいいだけですから」


 ただ、だからこそ、この夏がローゼリアがアレスを追い抜く最初で最後のチャンスということでもある。

 アレスは文句なしの実力者だから、実技で点数差をつけられない今が。


 ローゼリアの肩がわずかに強張る。


「一年生の課題は、主属性魔法の“発動”と“維持”、そして“収束”までの制御」


「授業でも主にそのあたりを中心にしてますものね」


「はい。とはいえ、復習しておいて損はありません。ただ、その前にひとつ」


 私は指先を一本立てて見せた。


「ローゼリア様、“火”に苦手意識がありませんか」


「……よく見てらっしゃるのね」


 ローゼリアは目を伏せた。


「ええ、昔、暖炉で火傷を負って以来。発動はできるのですが」

 

 そう言うと、ローゼリアは指先から数センチ離れた空中に、マッチほどの大きさの赤い“火球”を浮かべた。

 球からはみ出て上に立ち昇る炎の揺らぎ。それは火の自然現象だからいい。


 ただ、彼女が力を込めると、橙色が濃くなるにつれ、火球の輪郭が“煮える”ようにゆらぎ──ローゼリアは慌てて手を払って、床に落とした。魔法の鍛錬場では焦げもなく消えたが、ジュッという音が耳に残る。


「そうだったんですね」


 さて、どうしようかしら。私は顎に手を当てた。


 授業でもたまに見かけていたが、課題は“維持”と“収束”。火傷への恐怖心が先に立って、思考がぶれている印象だ。あと、怖がって先に落としてしまって“収束”の仕方も身についてない。


(まあ、怖いのなら仕方ないか)


「とりあえず、魔法を使う前に必ず呼吸を。それから、維持と収束の反復練習も必要ですが…」


 ローゼリアの指がぴくりと跳ねる。

 それを見逃さない。


「炎を扱うのが不安なら、まずはこっちで」


 袖から出した麻の袋(リックに貰った《アイテム》袋ね)から“保温冷ケース”を出す。さらにその蓋を開けて、取り出した中身をローゼリアの手に押しつけた。


「冷たい……“氷”ですか?」


 ローゼリアが目を丸くする。


「はい。温度調整を必要とするという点では氷も火と同じです。

 火魔法を扱う上で大事なのは“風と温度を保つ感覚”。風が吹けば火は煽られますから。

 風は呼吸で、温度は手の感覚で覚えましょう」


 淡々と言う。


「こんな鍛錬方法は、聞いたことありませんけれど……」


「まあまあ。二十分溶かさず持てるようになったら、次は十秒で溶かす練習。

 そこまでできたら温度管理はバッチリです。

 それから、小さな蝋燭火で炎を扱う練習に進みましょう」


 




✳︎ ✳︎ ✳︎


 ──週明けの運動場。今日は授業だ。実技担当の先生が暴走防止の結界陣を張り、砂時計を地面に置く。


「今日はミニテストをする。各自の主属性で、空中に安定した輪リングを作ること」

 

(来た)


 私が腰の横で親指を立てると、姿勢を正したローゼリアが小さく頷いた。先生の指示に従い、全員が散らばって自分のスペースを取る。


「三十秒保持で合格だ。できなかったら減点。暴発したらさらに減点。

 期末試験でも似たような課題を出すから、予行だと思って心してかかるように」


 先生の言葉で、生徒の顔に僅かな緊張が走った。


「——では始め」


 その合図で、ローゼリアはまず息を整えた。


 そして──意を決したように、まずは、ポケットから取り出した分厚い手袋を、その白い指に通した。

 とたん、周囲の生徒からざわめきが起こる。


 彼女が装着したのは、リックの工房でも使っている本格的な耐火性手袋。


(特訓で十分に温度が調整できるようになっても、結局、ローゼリアの火への恐怖心はすぐには克服できなかった——だから、こうした)


「訓練でも淑女があんな無骨なものを……」

「品がないわよ」

 令嬢たちの囁きは想定内だ。


「訓練時の防具は許可範囲だ」

 先生の一言で、ざわめきは収まる。


 私は手袋を渡した時の彼女の言葉を反芻する。


『あなたは、馬鹿になさらないのね。こんな髪色をして火が苦手なんて、お祖母様にはこの国の貴族の娘として恥ずかしい、隠しなさい、と叱られたものですが』

『怖いものは怖いですよ。怖いままでも、やる。……それでいいんです』


 ローゼリアは手袋越しに小さく払った指先に火球を灯し、それを糸みたいに引き伸ばす。赤い輪が空中にふっと出来上がる。その輪の細さ、色の美しさに、周囲で微かに小さな息を呑む声がした。


 しかし、その直後、ほんの一瞬だけ彼女の指先が震え、輪の縁の揺らぎが大きくなりかける——


 私はつい、ぎゅっと拳を握ってしまう。


 けど、彼女はすぐに、もう一方の手で、火の輪を制御しているほうの手首を下から支えるようにそっと添えた。そして、またゆっくり息を吐く。揺らぎは静かに収まった。


 その後も視線は動かさない。炎の輪は、静かに脈を打つみたいに明滅したけど、結局、砂時計の粒が落ちるまで崩れなかった。

 そして最後は輪を糸へと細め、指先で“収束”させた。


 地面には落とさなかった。音も煤も残さず、ただ温度だけが下がった。


 先生の短い評が落ちる。


「スカーレット、合格。揺らぎ周期の短縮が見えた。呼吸で矯正できていたな。収束も静かでよろしい。……見違えた」


 ローゼリアは小さく頷いただけだが、肩の力が自然に抜けていた。


 そして、そんなローゼリアを視線だけで捉えたアレスは、安定して燃える自身の火の輪を前に顎をこわばらせて——次の瞬間、顔を背けた。


(うん、いい反応。ちゃんと“見てる”)


 ブルーノは、ほとんど音も気配も立てずに、細い一本の“水の線”を空中に固定していた。

 先生はちらりと見て「無音・無滴で線を持てるのは上級だ」とだけ。つまり満点。


 サシャは両手を胸の高さで軽く開き、薄い水膜の輪を作る。

 ブルーノの輪より少し太い。けれど、表面張力のきいた透明な輪は、ぷるり、と一度震えたものの——落ち着いた。


 滴り落ちるものはない。最後は輪を糸みたいに細くして指先にひゅっと“収束”。


「フランシス、張力の使い方、悪くない。次は径をもう半寸小さくまとめられる。合格」


「……アン」


 サシャが小声で私の袖を引いた。目をきらきらさせている。


「ねえ、私も褒められちゃった!」


「やったわね」



✳︎ ✳︎ ✳︎


 さらに少し離れたところ。金砂の輪を完成させていたサーチェスがローゼリアとアレスの横顔を見て、ほんのわずかに目を細め——


「……なるほど」


 とだけ落とした。

 



次回【生垣迷路で衝突。というか迎撃?】

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