32.アレスの動揺〜ソフィアside〜
ローゼリアたちが教室から出て行った後のアレスとソフィア
「──アレス君、大丈夫?」
「……」
ローゼリアとあの女たちが出て行ったあと、教室の扉を見つめたまま動かなくなったアレスに、そう声をかけた。
しかし、彼からの返事は一切ない。
私は、顔には彼を心配するような表情を張り付けたまま、心の中で悪態をついた。
(……まったく、なんだって言うのよ。婚約者の女に、きつく言い返されたくらいでそんなになる!?)
遠くを見るようなアレスの目は、どこか呆けているようにも見えたが、その口がわずかに動いて何かを呟いているのが、かすかにわかった。
「ローゼリアが、あんなことを……俺に言うとは」
(チッ)
その声を聞いた瞬間、私は慌てて声を張り上げた。
「アレス君!」
「! なんだ?」
ようやく自分に振り向いたアレスに、にっこりと微笑む。
「……魔法の練習、してくれるんだよね?」
「あ、ああ、そうだったな」
もともとここに来た理由を思い出させると、はっと気を取り直したように居ずまいを正すアレスだったが、その動きは緩慢だ。
(……まずいわね、まだ気を取られてる)
今のアレスは、まるで置いて行かれた子供みたいな顔をしていた。
私は少し考えてから、小さな声で呟いた。
「あの……ローゼリア様、怒ってたね。私には悪くないって言ってくださったけど……時々、怖い目で私のことを見てくる時があるから、ちょっと不安……」
それは、婚約者からの仕返しを予感させ、かつそれに怯える振りで気を引こうとしての台詞だった。
しかし、アレスは、まったくそれを気にしなかったのか、それとも気づいていないのか、私を励ましも慰めもせず頷くだけでこう答えた。
「ああ……たぶんさっきは悋気を起こしていたんだろうな。だが、あいつの言うことは決して間違ってはない。たしかに軽率だった……ここで練習をするのはやめて、屋外に行くか」
「はい?」
「なんだ不満か? だが、貴様も、まだ恋人もいない身で、俺様と下世話な噂を立てられて騒ぎになりたくはないだろう」
「……そう、ね」
(何言ってるのよ、噂を立てなきゃストーリーが進まないじゃないの!)
しぶしぶ頷きはしたけど、心の中では悪態をついて、私は親指の爪を噛みながら、アレスの背中を追った。
次回【補正?やまない噂とそれでも】




