03.世界はゲーム、彼女はヒロイン
なるほど?
魔法と精霊に守られた国アドリフィス。その国で最高の学園。物語は、そこへ一人の女子生徒が入学するところから始まる——
「乙女ゲームなのよ。で、私がヒロイン」
ソフィア・テレーゼ——に“転生した”と話す彼女は言う。
そして私、アンジェリク・マークスはヒロインの恋を応援し、好感度を教え、助言し、体を鍛えたり勉強をして一定のレベルになると便利な“アイテム”をくれたりするサポートキャラ——銘じて“親友ポジ”だ、と。
「じゃあ、私がこの学園生活を終えられないのは……あなたがゲームで何度も戻していたから?」
話を聞き終え、私は頭を抱えてベンチに座り込んだ。
自分を構成するものが足もとから崩れる感覚。
幼い頃の記憶も確かにあるのに、この世界が虚構だなんて信じたくない。
けれど彼女は、私の過去のリープの直前にソフィアに起きたことを言い当てていった。“攻略対象”という男子たちの話も、私が見守り、彼女から聞いた内容と一致している。
沈黙。
(どうしたらいいの)
終わりのない未来。震える体を抱きしめて俯いたとき——
「ああ、もう!!」
突然の声に顔を上げる。ソフィアが何かを吹っ切った顔で立ち上がる。
「いつまでもうじうじ考えてても仕方ないわ」
彼女は自信たっぷりに頷いた。
「あなたがタイムリープしていようといまいと、ここで私の目指すことは変わらない」
「……目指すこと?」
「ええ!」
長い髪を払って、淡い色の瞳を輝かせる。
「このゲームの隠しルート——ハーレムルートをクリアするのよ!!」
私は口をぽかんと開けた。
「そうよ、私、絶対に、卒業までにこの学園でハーレムを作ってやる!」
また言った。
近くの木から鴉が飛んでいく。
「……ばかなんですか?」
思わずこぼれた一言で、崩壊しかけていた私のアイデンティティはどこかへ飛んだ。
彼女は気にせず続ける。
「私は本気よ。というか、入学前からずっと狙ってたの。で、さらに、あなたの話を聞いて確信も持てた。ハーレムルートが開いてる可能性は俄然高いって」
「どういうことですか?」
「よく聞いて。隠しルートは“全員のハッピーエンドを回収”すると解放される仕様。
私、どうしても見たくて。
寝ても覚めてもやって——最後の一人を回収できた夜、ハーレムルートをロードして門前のプロローグまで見て、残りは明日にしようって眠って——」
「はあ」
「で、翌朝、事故で死んだの」
「……」
「すごく無念だったわ」
「……それは、きっとそうでしょうね」
「ええ。——で、あなたの巻き戻り順と、私の攻略順は一致してた」
ここまで言えばわかるでしょ、と視線で問われ、私は小さく頷く。
本当に世界とゲームがリンクしているのなら、今はそのハーレム解放後の世界。作るか、作らないか。それだけだ。
「……なら、普通に“作らない”でいいと思いますけど」
「いやよ。ずっとそれが見たくて頑張ってたんだから。せっかくヒロインに生まれ変わったんだもの、目指すべきでしょ」
「本気でわかって言ってますか?」
「さっきも言ったでしょ。私は本気。だからお願い」
彼女はにっこり笑った。驚くほど、綺麗に。
「あなたも手伝って。“親友ポジ”でしょ」
次回【縁か補正か?“親友ポジ”の距離】




