20.ソフィアと食堂 注目の中心の四人
昼の食堂のど真ん中でキャラ違い美形集団が女の子囲んでるのは目立つって!
それは、アレスとローゼリアのやりとりを茂みから盗み見る数日前のこと。
(——やられた)
最初にその光景を見た時に思った。
他人の恋路を“うまく邪魔する”のは、叶えるより難しい。静かに打てる次の一手を探しているうち——雨季が明け、夏が近づき始めていた。
学園高等部の生徒のほぼ全員が集まる昼の食堂。そこで、ある集団が注目を浴びていた。
離れた席でそれを見ながら、私は片手で自分の顔を覆う。
「──ソフィア、貴様、本当に魔法の扱いが下手だな。
せっかく鏡の判定で、全属性適性があることも、潜在的な魔力量は高いこともわかってるってのに……
わざと下手な振りでもしてるんじゃねえか。そうでなけりゃ、センスがなさすぎんのか」
「へ、下手なのは確かだけど、そこまで言わなくてもいいじゃない。アレス君」
「そうだよ。アレス」
呆れたように言いながらドカッと席に座った赤い髪の同級生アレス。
それに、むうっと頬を膨らませて言い返す右隣のソフィア。
そんなソフィアの正面から彼女をフォローするまた別の人物……。
「彼女は、君や私のように幼い頃から家庭教師について魔法を習ってきたわけじゃないんだから。きっとまだ慣れていないだけなんだよ」
「エルヴィス殿下! ありがとうございます。そうですよね!」
“殿下”。そう、パッと花が咲いたような笑顔になったソフィアが呼んだ相手は、エルヴィス・アドリフィス──呼称通り、この国の王太子。
彼は、ソフィアに対し、鮮やかな柑橘を思わせる橙色のウェーブがかったボブヘアと同じ色の瞳を細めて穏やかに微笑んでいる。
「でもよ、こいつのへぼい魔法を見てたら何かしら言いたくもなるだろ」
「そう? そこまで気になるなら、アレスが教えてあげればいいじゃない」
「は!?」
「えっ!いいの?」
「いや、なんで、もう決まったことにしてるんだ、貴様。つか、なんでそんなことを俺が……」
気楽に言ったエルヴィス殿下に、アレスは舌打ちする。
その態度は本来王族を相手にするものではないと思う。
が、この王子様とアレスは幼い頃から兄弟のように接してきた親交があり、この二人の間ではさほど珍しくない。
実際、殿下は全く気にしていなさそうで、くすりと笑うだけだった。
「それくらいいいだろう?」
「面倒だ」
そこへ──
「ええ~」
今度は、気の抜けるような声が、彼らの間に滑るように割り込んだ。
「じゃあ俺がソフィアちゃんに魔法教えてあげようか?」
「きゃっ」
背後から肩へ両腕を回してソフィアに抱きついたのは、ハッとするほどに美しい相貌の、紫の髪を垂らした背の高い青年。
「フィン先輩!」
「フィン、そうやって気安く女性の体に触れるのはよくないよ」
エルヴィス殿下が眉を寄せて窘めると、フィン・リゼルは「ごめーん」とあっさり離れ、ソフィアへ軽くウィンクする。
「でも、どう? 本当に教えてあげてもいいけどね。全部の属性は無理だけど、俺も優秀なんだよ?」
含み笑いまじりの声。その手が再びソフィアの肩へ伸び──
「……おい」
アレスが舌打ちしながら、その手を牽制するように軽く払った。
「冗談もほどほどにしとけよ、副生徒会長様。妖精族の血を引く天才肌のお前が、こんなセンスのないやつに基礎を教えられるわけねえだろ」
「あはは。バレた? まあ……ソフィアちゃんに構いたいだけだから」
「チッ……」
「ふたりとも、こんなところで言い合いはだめだよ」
エルヴィス殿下が口を挟む。
「あっ、なんなら私が彼女をみて──」
「! 王太子が馬鹿言うな」
「そうだよ。もし魔法が失敗してケガでもしたら大変じゃん」
アレスとフィンが即座に止め、殿下は「まあ、そうだよね……」と少し肩を落とす。
「やっぱり私はだめか。残念だけど」
「はあ……昔からだけど、その天然どうにかしろよな……」
「本当にね〜、エルらしいけど」
「はは、いつも気を揉ませてすまないね」
「でも、お話ししやすくて私は嬉しいですよ」
「ふふ、ありがとう。私も、こうして気楽に接してくれる友人が出来て嬉しいよ」
アレスは苛立ちと呆れを滲ませ、フィンはへらりと軽く笑い、ソフィアは空気を和ませようとする。
そして正面のエルヴィス殿下は、どこまでも穏やかにお茶を飲んでいた。
(……これで“注目の中心”にならない方が、無理ってものよね)
次回【ソフィアの挑発、アンの受け止め】




