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親友ポジのタイムリーパーは、転生ヒロインのハーレムを阻止したい 〜台本を閉じる方法〜  作者: 月乃ふくや
はじまり

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02.祝砲と白いリセット

桜色の邂逅……?

 


 ——ドン、ドン、と祝砲が上がっていた。


 その日は朝から見事な快晴。


 高い天井の大聖堂。正面のステンドグラスから差す光が美しい。

 

 祭壇の前で永遠を誓ったばかりの新郎新婦を包む光景は、まるで神の祝福そのものだった。


 純白の衣装の二人が参列席を振り返り、お辞儀。そっと腕を組み、扉へ歩み出す。


 温かい拍手。茶々も混じる。


 けれど、ここにいる全員が今日を祝っているのは明らかだった。


 ——ただ一人、両手を胸で組み、切実に祈っていた私を除いては。


 扉の前で二人が立ち止まる。参列の隙間から、新婦の桜色のまとめ髪を見つめ、私は誰にも聞こえない小声で囁く。


「どうか——どうか、これからも幸せでいてね。ソフィア」


 扉が外に向かって開く。白い光が溢れ、私はその眩さに意識を呑まれた——。



✳︎ ✳︎ ✳︎



(またか、と思う気にもならない)


 上も下も真っ白な世界に沈んでいく。


 耳の奥に薄い耳鳴りがする。


 始まりはいつだったか。何十年も前のようでも、つい先日のことのようでもある。


 ——浮上する。


 ぱちりと瞬きを合わせた次の瞬間、

 私は「聖アドリフィス学園」と刻まれたアーチ門の前に立っていた。



✳︎ ✳︎ ✳︎



 天井のない空はただ青い。


 足下は先ほどまでいた大聖堂の木板の床でも、何もない白でもなく、明るい色のレンガ道。


 朝露に濡れた鉄門の匂いと、配布冊子の新しいインクがまじり、遠くで鐘の音が一度響いた。


 胸の前で強く組んでいた両手の指をそっと解く。

 すると、ちょうど、その掌に、小さな花びらがひとひら舞いながら落ちてきてちょこんと収まった。


 まるで狙い澄ましたみたいなタイミングで。


「やっぱり」


 ため息がこぼれる。


「今度も同じ」


 薄い色の花びらを風に返す。ふわりと飛んでいく先は、見なくても()()()()()()

 歩き出したとき、横風が強く吹き、上からも地面からも花びらが一斉に舞い上がった。


 その向こう、門をくぐってすぐの場所で、花びらと同じ色の髪が風に揺れるのが視界の隅に入る。


(——声は、かけない)


 どうせ後で出会う。

 ここで話すと入学式に遅れる——それも、何度も経験済みだ。


 “タイムリープ”


 始まりは入学の日。終わりは定まらない。

 十五でこの門を仰いでから、十八の卒業までのどこか、あるいは卒業して三日後の友人の結婚式まで——

 約三年を、私は何度も繰り返している。


(原因はわからない)


 最初のきっかけだけ覚えているが、繰り返すうちにどんどん曖昧になっていった。

 

 だから最近は考えるのをやめた。

 運命だ、とでも思わなければやっていられない。


 ——この学園で私の学友となるソフィア・テレーゼ。

 桜色の髪の、優しい子。


 その彼女が死んでも。

 彼女と恋しようとした男性が死んでも。 


 あるいは恋した相手と結婚に至っても——。


 なぜ私だけが巻き戻るのか。何かを変えようとしても、ここから抜け出せたことは一度もない。


 ——きっと、これからも


(今回はいい。入学式は出ない)


 半ば投げやりにそう決める。

 点呼は寮で取られる。今いなくても目立たない。


 人の来ない校舎の陰へとまわり、湿った木のベンチに腰かける。スカート越しにわずかな冷たさ。微妙に気持ち悪いのが、逆に、今の自分にちょうど良い。


 それから、どれくらいそこにいたのか。


 涼みながら、ぼんやり……でも少し真面目に、次の三年の身の振りを考えているうちに、影の角度が変わったのに気づいた。

 

 そろそろ行くか、と立ち上がり、スカートのホコリとベンチの小枝を払う。


 そこへ——


 その人物は駆け足でやってきた。


「やっと……やっと見つけたわ——アンジェリク・マークス!」


 バタバタした足音のあとすぐ、背後から名前を呼ばれ、思わず振り返る。


「あなた、入学式にもいないと思ったら……こんなところで何やってるの!?」


「え——?」


 息を切らし、怒った顔で詰め寄ってくる少女に目を見開く。


 桜のまっすぐなロングヘア、同じ色の瞳——。

 過去に何度も友達になった、ソフィア・テレーゼがそこに立っていた。


「どうして話しかけてこないの!?いつ来るかいつ来るかって門のとこでずっと待ってて、式、遅刻しかけたんだけど! 寮の場所だって、あなたが案内してくれるはずでしょ!」


 彼女は茶色のローファーを鳴らし、腰に手を当てて言い放つ。


 めまいを覚えた。


(この子は——何を言ってるの)


 いつも穏やかだった彼女からは考えにくい語気。なにより——


「ソフィア……あなた、私を知ってるの?」


 この周回では、まだ出会っていないのに。


「え?……あっ!」


 ハッと口を押さえ、俯く。


「つい焦って……えーと、なんて説明しよ……前世とか……ゲームの世界とか言っても……。……あれ? でも今、向こうも私の名前——」


 もごもご聞き取れない。

 

 私はふと、彼女が私を知っている理由に思い至る。


「もしかして——」


 同時に、彼女も顔を上げ、私を見据える。

 胸がわずかに跳ねた。

 ずっと一人で時間を駆けてきた私の世界に、何かが変わる予感。


 お互い一歩だけ距離が近づく。呼吸を合わせ、舌を噛まないようゆっくり口を開く。


「あなたも……時間を遡ってきたの?」


「あなたも……転生したの?」


 ……

 ………


 お互いの台詞を頭で処理するまで、少し間があって——


「……どういう意味?」

「……そっちこそ」


 理解できず、もう一度たずね合うことになった。


次回【転生者とタイムリーパー】

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