3-20.中日・講堂の魔道具展示
行事は順調に進んでいる。
個人戦では、サーチェスが勝ち抜き。今日は正面勝負を押し切り、白線ぎわで綺麗に一本。
術式の部はブルーノが水糸を乱さず通して上位に。
混成の運搬リレーはアレス・ブルーノ・サーチェスの三人が無駄なく一往復して勝ちを取った。
今日の私たちの予定は、講堂——各国の魔道具展示場巡りだ。リックが「しっかり休憩もらってきた」とウキウキ顔だった。
とりあえず三人で氷屋台の雪苺を買ってから、歩き出した。
道すがら、軽音部が短いセッションをしていた前で、アレスが串焼きを三本持って現れ、ブルーノに一本押し付けているところを見た。
「食え。血糖、落ちてる顔」
「まだ見回りのスケジュールが……いや、ありがとう」
もぐもぐして顔色が戻る。
「明日の係、頼んだよ」
「任せろ」
反対の通りでは、北境の学院の生徒と砂海の生徒がそれぞれ布物を仲良く交換していた。
(なんだか、どこもいい)
ざっくりした感想だけどそう思った。
「アン、満喫してる?——って、あ、氷ずるい!」
講堂の前で、腕章を揺らしたサシャと出くわした。
「仕事が終わってからよ」
「一口だけ!」
笑ってから私がスプーンを差し出すと、サシャは幸せそうに目を細めた。
「おいしぃ〜、ありがとう! いまから中、入るの? 混んできたから気をつけてね!」
「ええ。……ところで、人気のブースってどこかある?」
「うーん、初日はねえ、ソフィアの〈共鳴宝珠〉と光を編んだ〈色替わりドレス〉にぐわーっと集まってたけど、今はどこも同じくらいの印象かなぁ。……強いていうなら、王宮魔導士局さんの〈避雷板〉やブルーノくんの〈微細霧化器〉とか。あと、展示じゃないけど、見張り鈴の〈受信機〉の仕様について、よく聞かれる」
サシャの説明に私たちは顔を見合わせる。
「いい感じ?」
「いい感じ」
「だな。とりあえずゴミまとめたら入るぞ」
リックがテキパキ動いて颯爽と中へ行くのを、はいはい、と追いかけた。
✳︎
講堂はドーム型の高天井。樫の床に、樹脂と金属の匂いが薄く混じっている。入口脇の受信機は静かに青。案内の矢印がゆるく波打つ。
最初に人だかりがあったのは、王宮魔導士局の〈避雷板〉。卓上の尖塔模型へ、指先の火花が細く送られる。銅帯が“吸って”、脇の板が“逃がす”。
「……これで礼拝堂沿いが守れるのね」
私が呟くと、係の魔導士が短く会釈する。
試験火花が小さく走り、板に吸われて静まる。私はほんの少し目を細めてそれを見つめてから、離れて、次へ。
北境の〈霜織り布〉。さっき砂海の子と交換してたやつだ。白い布に、息をふっと吹きかけると、布目に霜の華が一瞬だけ咲く。
「綺麗…」
「携行の冷却に向く。氷室が遠い道すがらに」
説明を聞いて、ソフィアが布を手にとり、手触りを確かめた。さらさらと柔らかい。手に掛けると
滑らかに滑り落ちる。
砂海の王国。素焼きの壺に細い金具と布。〈風砂濾し壺〉——注いだ濁り水が、滴になる頃には透明になる装置だ。香の棚には、小瓶の〈日陰の香〉。
「これ、休憩所に一つ置いたら?」とソフィア。私は頷き、配置図の余白に小さく印をつけた。
海都の〈波信ロープ〉は、張った縄の一端を軽く弾くと、遠くの鐘が“ちり”と鳴って返す。湿りにも強いらしい。貝殻の細紐が光る。
「港で役立つやつだ」リックが目を細める。「うちの連絡線にも応用できるかもな」
うちの学内の展示へ。ブルーノの〈微細霧化器〉も置いている。一年の時より改良されて、さらに少ない水量でも安定して全体に霧が行き渡るようになっていた。
「粒、均一ですね」砂海の職人が感心している。「水の少ないうちでも使いやすい。欲しい」
リックが横で分解図をのぞきこみ、「継手、ここは詰まりやすい。角、半分だけ落として」と指先で示す。職人が「書いて」と紙片を差し出し、筆が走った。
人だかりの切れ目、〈受信機〉の前で何人かがメモを取っていた。
「平時は青、異常で段階点灯です」
そう説明すると、「魔石の交換頻度高そう。どう?」と問われる。ソフィアは「電源を雷石にしています。ご想像よりは低いかと」と返しつつ、実装の注意を何点か話した。頷きが連なる。
機巧の都は歯車と細い針金。掌の上で回る〈自整クランク〉は、回転の偏りを自分で少しだけ直す。
「あの国、電が不安定で影響受けやすいって話だが、こういう調整してんのか」
リックの声が低くなる。
「海都が、最近嵐が多くて困ってるって話だったわね。」
つい身を乗り出し、係の少年と二言三言。紙が一枚、やりとりされた。
通路の角では、色替わりの布地が静かに揺れていた。染めの層が光に合わせて薄く変わる。初日の人だかりはほどけ、今日は近くで縫い目が見える。
「綺麗だな」リックが囁いて、次の台へ。
〈共鳴宝珠〉はケース越し。触れず、音だけ。声に合わせて七色の光が立つ。列は短く、目は静か。
「なんだかんだで、この頃から、ソフィアって“わかってた”わよね」
「なにが?」
「“綺麗なもの”への感動が人をひとつにするってこと」
私はケースの縁を一度視線でなぞり、青の受信窓をもう一度確認する。問題なし。
ひとめぐりして、外へ出た。風は軽い。どこかで口笛が一音だけ通り、切れる。
「いい勉強になった。——行くか」
「楽しかったわ!」
「ええ。中日、順調」
それぞれが各々の腕章をつけ直す。人の波はほどけたまま、広い。
――
次回【中日のアプローチラッシュ捌き回】




