3-18.開会式・演舞
〜客席の親子side〜
学園のコロシアムは三層の円環。外回廊に、食品の出店がぐるりで、内側は円形の砂床を段々の観客席が囲んでいる。
開幕からこちら吹奏楽の演奏が空気を盛り上げ、熱気は高いが、上空の青の手前に張られた帆布が日射をやわらげて、全体的に気配は落ち着いている。
客席の子供が、自分の隣に立つ四角柱とその上に固定された多面カットの巨大なクリスタルを見上げる。
「なんだろう?」
「さあ?」
父親が首を傾げながら、クリスタルを軽くコンと叩いた。ガラスではない、軽い透明材なのはわかったが、用途はわからなかった。
よく見ると台座の天辺と横に窓がある。丸いのと細長いの。
でも、なにかが覗けるわけでもない。
そして、よく目を凝らすと、砂床の真ん中や四隅、そして客席の他のところにも等間隔に点々と同じものが見える。
「会場を華やかにする飾りかな」
子供はふーん、と頷いた。すると、ちょうどその時、彼らの足元に影が差す。見上げると、コロシアムの上空に薄い天蓋のような闇が広がっていくところだった。
演奏が一時、止まる。
桜色の髪の少女がひとり、砂床の中央に進み出た。
「ああ」と呟く。「始まるぞ」
ーーー
明るさを落とした会場。
中央に立つソフィアを、私は一段目の客席の間から見下ろした。
一礼。ソフィアが顔を上げた瞬間、空気が切り替わった。
舞は軽やかに始まった。ドレスは真珠みたいな乳白色。
スカートは正確にはキュロットタイプのフレアパンツで足の動きに合わせて柔らかなドレープが波の形を変える。
重力を忘れたみたいに、くるり、とろり。
ソフィアが回る。つま先が撫でたあとから、“土”が起き小さな円環の堤防を作る。
手首を返す。中指の先に“火”が灯り、線が環の内側を静かに走る。
気がつくと“水”のたまり。ぱしゃりと足音のあとに裾がふわり。
最後に、息を吹く真似で“風”。水面を撫でて白い霧が立つ。
同時に、用意していた噴霧器も作動し、コロシアム中に薄い霧が走る。
霧の中、ソフィアが指先からひと筋の光を伸ばす。光は最寄りのクリスタルを乗せた台座の細窓に吸い込まれたかと思うと、さらに隣の台へ通り、また一つ。さらに一つ。繋がって十字にのび、やがて雪の結晶のような紋様を描きだす。
ほう…、とあたりから息が漏れる。
けど、まだ終わりじゃない。
ソフィアが裾を広げてひと回り。すると、台座の丸窓から光があふれて、クリスタルを通して無数の丸い虹を散らした。
子どもの頬にひとつ、隣の肩口にもうひとつ。そして、一気に。
「わあ!!」の歓声。
ソフィアは水の縁を跨いで火を消し、足裏で土をならす。
合図はないまま、四方のトンネルから、生徒たちの群舞が波のように入ってくる。虹の丸は踏まれずにすり抜け、衣の上で遊ぶ。
ソフィアは一歩引き、群舞の中へ溶ける。
それでも虹の丸は出たまま。台座は光の道を互いに通し続け、クリスタルを煌めかせ続ける。
舞は騎士の礼、嫋やかな扇子の演舞、羊皮紙を広げて学ぶ所作、工具を手に叩く振りを重ねながら交差し——最後は中央でまとまり全員で同じ振り付けに。
最後は、再びソフィアが光をまとめ、虹の円環を砂床と客席の間に作り、美しく締めた。
静止。一拍。
ロイヤルボックスの影がほんの一歩早く手を叩き、それから客席に爆発的な拍手が湧いた。
司会の声がここで追いつく。
「開会連環——虹の群舞。設計:対外行事実行委員会。先導:ソフィア・テレーゼ」
学生たちが礼をする。その輪の中にソフィアも溶け込んでいる。
私は息を整え、コンタクト越しに観客席を一巡。黒は立たない。橙と赤はちらほら見えるが、表情と仕草に矛盾はない——
(大丈夫)
——中身は、ちゃんと届いた。
次回【屋台と照合】




