3-17.“例の眼鏡”改良版
外の列が落ち着き、客席が埋まりだした。熱狂はあっても見張り鈴の受信機は静かに青いまま、「大丈夫」を示している。
開会式前の控室。土壁の内側は案外涼しい。
扉の外には“修理・検品”の腕章。リックが「製作者としては立ち会いたいけど、今日は外で待つ。仕様的に“気まずい”からな」と苦笑いで扉を閉めた。
(読まれたくないのね、了解)
私も笑ってあとを引き受けた。
「保険、持ってきた」
リックから預かった薄い二つの箱を出して、演舞用のドレスを着たソフィアの膝の上に一つ置く。
「なにこれ?」
ソフィアが聞いてくる。
「簡単にいうと、好感度チェック用の魔道具。前は“眼鏡型”だったけど、今日はコンタクト版。“強い”感情だけ拾う設定にしてもらった」
箱の底に挟まれていたリックの走り書きを渡す。説明書なのだけど、内容は〈橙赤=過熱好意/黒=冷え・敵意〉と簡潔だ。
「視界の相手が誰かを見ている時、その人の頭上に小さなハートが一個浮かぶ」
「……可愛いわね」
「リック仕様。好意が橙〜赤、逆は黒、普通に友好的なだけなら何も出ない。」
「ふーん、なるほどね。わかったわ」
ソフィアは鏡に顔を寄せ、洗浄液を一滴。ぱちり、と装着して、二度、瞬きをした。
「軽い。光がやさしい」
「舞台は光が強いから、眩しさに強くしてもらってる」
私は机に、昔の黒縁フレームをコトリと置く。「ちなみに、これが元祖」
ソフィアがくるりと持ち上げながら眺めて、口角を上げた。
「なるほど。親友ポジが“誰がどれくらいソフィアを好きか”当てるの、特殊能力だと思ってたけど——謎、解けた」
「半分観察、半分道具。今日の道具は敵の影を見逃さないようにするため」
私も二つ目の箱を開けて、装着する。視界はそのままで白が刺さらない。
「橙以上か黒が“あなたを見て”立ったら、合図して。演目前〜袖に戻るまで装着すること」
「了解。……って」
ふいにソフィアが正面から私を覗き込み、目を瞬かせた。
「……アン、赤い」
私も目をぱちくり。それから鼻を鳴らす。
「熱い友情色ね。見えてるようで何より」
「ちょっ、少しくらい照れてくれてもよくない!? 突っ込んだ私のほうが恥ずかしいじゃない!」
「あなたも赤よ。安心した」
「……うん」
扉の外からノック一つ。「違和感とかねえか?」とリックの声がする。
「大丈夫」ソフィアが答える。
「ならよし。外、段取りは変更なしだと。目閉じて出てこい」
「目閉じたら歩けないわよ」
「じゃあ、下向きながら。お嬢に引っ張ってもらえ」
笑いながらソフィアが立つ。背筋はまっすぐ。
「行こう」
「うん」
歩きだしたドレスの裾が軽やかに跳ねた。
次回【開会式・演舞開始】




