3-16.開会前の各校入場
夏の光が差す。
正門の脇で学園の衛兵が抽選券を確認し、実行委員が一般客と保護者、商会招待の手首に色の細紐を結び、区画ごとの入口へ色ごとの矢印に沿って進むよう伝えている。
正門から校舎前を通って会場のコロシアムや講堂へ向かうのは、この学園では大移動。
道中の上空には、透ける色テープと虫除けシャボンが浮かび、目を喜ばせる。
委員の腕章をつけた私は、入場客の顔の明るさを見て胸を撫で下ろしてから、外壁の内縁をぐるりと進んで来賓の馬車が入る裏門へ行く“ふり”をして、転移石をタップした。
(ショートカット。久々)
裏門近くの木陰に出ると、蜂蜜色のコロシアムがすぐ目の前。
緑の蔦が絡みつく外壁の下にはいくつかの馬車がすでに横付けされている。
中には異国風の意匠もちらほら。
食品テントから甘い菓子や焼いたソースの香りも漂い、すっかり祭りの会場らしい。
そこへコロシアムの中と繋がるトンネルからサシャが慌てた様子で駆けてくる。
「ちょうど良かった、アン! ソフィアの化粧道具、誰かが持ってっちゃったの! メイクの子が、持ってる自前のやつ使おうかって迷ってて」
「こっち、魅了付加なし。持ってって」
私は予備を手渡した。
「なんかノイズが出るんです!」
二年がスピーカーを抱えて“修理・検品”テントへ。リックが指でコンコン。「接続が甘いだけ」手早く直し、返却。
「ん、おわり。行っていいぜ」
「はい!」
見ていると、次の箱へ手を伸ばすふりで、リックが脇の布包みをトン、と指さす。「持ってきた」の合図に、私は短く頷いた。
その時だった。
突然、裏門を指差して「来た!」の声が飛んだ。一斉に人の視線がそちらへ向かう。
とたん、肩にふわりと何かが乗り、ひとりが「冷たっ」と声を上げた。
「なに?」掌を上に向けると氷の花が乗る。
ヒュイと鳴き声に見上げると、真っ青な空の低いところで白い鷹が旋回し、羽ばたきのたびに雪を散らしていた。
そして門から入って来たのは、白樺の紋の入った硬い黒檀の連結馬車。
まっすぐな姿勢の学生たちが、鹿革の外套を脇に畳んで抱えて降りてくる。厳格な雰囲気。北境の学院だ。
上空の白い鷹が輪を描きながら、先頭のひときわ体格のいい青年の背に留まった。
「通路、氷は撒かないでくださいね」
準備委の一年が進み出ると、素直に頷き、一礼が返る。
掌の氷花がすっと溶けると、人だかりからはほんの少し惜しむ声が落ちた。
次に現れたのは、砂海の王国から、金糸の幌車。
細い鈴と弦楽器の音を携え、旗の赤を翻し、房の琥珀をさらりと揺らす一団の先頭、日に透ける紅色のショールを衣装に纏った少女が踊るように布を翻すと、足元に小さな蜃気楼と一緒に甘い香りが広がった。
蕩けるようなため息があちらこちらで溢れた。
海都の学院は、どこよりも賑やかだった。
塩の匂いをさせた青銀の箱馬車から降りてきたのは、音楽隊のような白地に青いセーラーカラーの制服を着た生徒たち。
鼓笛、トランペット、ホルンを抱えた隊列が音楽を奏でながら通ると、自然に人垣が割れ目を作り、コロシアムに入る手前で演奏が切れ目よく終わると、一斉に拍手が湧いた。
最後は絡繰の都。
キコキコ、と小さな歯車音の後に、ぬっと、門から顔を出してきたのは真鍮の巨大人形が乗った折り畳み舞台と格子箱いっぱいのオートマタ。
どよめきのなか、委員の子が高さを測って通す。
操者の少年がにこやかに笑ってようやく、辺りの緊張が解けた。
けれど、他の生徒は四輪の箱の中に入って隠れたまま、箱の上で走り回る三輪車や、回転木馬、ぱこぱこと飛び出したり引っ込んだりを繰り返す銅の雀の絡繰たちだけを見せつけながら、中まで入って行った。
「じゃあ、そろそろ」
うちの代表選手たちも並び出した。見回り班と分かれた騎士団の代表選手組も合流。サーチェスが校旗を掲げて全員へ「よろしく」と言うと、それに返る声は緊張を帯びつつも華やかだった。
「よろしくお願いします!」
「みんな楽しもう!」
鐘がひとつ長く鳴った。開会二十分前。
外門が落ち着き、王宮騎士団の学内班がコロシアムのトンネル口・来賓席裏・搬入路につく。
学園騎士隊の見回り班も各所へ。
「外周、異常なし」旗の合図が上がる。
「物資表、最終確認」ブルーノ。
「前列の風よけは俺が立つ」アレスが腕章を結び直す。
期待でふくらむ段々の観客席で、ざわめきが一段、深く揺れた。ロイヤルボックスに殿下もついた。
ローゼリアが扇を軽く上げる。
「では——開幕とまいりましょう」
開会鐘の余韻が石壁に当たり、四方の校旗が同時に光をはねた。
次回【例の眼鏡改良版】




