3-15.静かな告白
夏らしく空気に水の匂いが混ざって澄みはじめた。
貸し出しの扇風機が点検・修理テントの下で羽根がバタバタと回る。
あと数日で本番が始まろうという頃、今日も運ばれてくる備品の整備に精を出していたリックが、首にかけたタオルで汗を拭っていた。
近づき、私の影に彼が顔を上げたところへ、昼食の包みを掲げて見せる。
「そろそろ休憩」
「悪ぃ、お嬢。これ、最後のひとつ終えたら」
はいはい、とため息をつく。私は包みを一つ長机に置き、もう一つを自分の膝の上に。折り畳み椅子を引いて、彼の向かいに座った。
「……リック」
「ん」
「私ね、この“学園の三年間”を、ずっとタイムリープで繰り返してるの。ソフィアが卒業直前に殺された日から」
カツン、と工具の音が止まる。こちらを見る目が少しだけ泳いでから——まっすぐになった。
「何回だ」
「覚えてない」
「なんで言わなかった」
「言ったら、あなたが無茶をするのを知ってる。もう二度と怪我してほしくなかった」
そう言うと、リックは後頭部をがしがし掻き、短く息を吐いた。
「……なるほどな。悪かった。前の……いや、なんつーか言い方むずいけど……“俺”が前に出たせいで、余計にお前に背負わせた。ごめんな」
私は首を横に振る。
「でも、今言った理由は? これまでも機会はあったろ」
「……今回が“最後”なんだって。だから絶対に無事に越えたいの。それに——」
一呼吸おいて言った。
「あなたに、何も知らないまま、その夜を迎えてほしくなかった」
扇風機が一度、低く鳴る。
「……何が要る」
その即答に、緊張がほどけた。
「“例の眼鏡”、もうひとつ。ソフィアに渡す」
リックが瞬きする。
「……へえ? あいつ、ハーレムは降りたと思ってたけどな」
「ええ、降りたわよ。——できれば、眩しさに強く、たくさん動いてもずれないようにしたいの。……できる?」
指がぴくりと動いたのが見えた。
「了解。やる。開会式までに間に合わせる」
タオルで指先を拭き、工房台の前へ回り込んでこちらへ出てくる。
机の上の包みを取る背中へ、私はもうひと言だけ付け加えた。
「……言わなかった理由、もうひとつ。何を伝えても伝えてなくても、あなたは助けてくれた。——だから、頼ってた」
「……そうか」
短い返事。でも、ほんの一瞬見えた横顔の口角がかすかに上がっていた。
テントの外では、矢印に沿って人の流れが滑らかに動いている。止まらない、滞らない。
工房台の上には補修を終えた舞台の照明器具。紙を解くと、香草焼きの香りが湯気と一緒にほどけた。
次回【開会前の各校入場】




