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親友ポジのタイムリーパーは、転生ヒロインのハーレムを阻止したい 〜台本を閉じる方法〜  作者: 月乃ふくや
三年目・対外行事の開始

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3-14.対外行事準備開始



 初夏、植木とロープ柵で道を整えると、立ち話の“たまり”が減ってきた。


 そこへ台車のきしむ音が入ってくる。


「配達っす。マークス商会・臨時便。あと会長からの個人的な手紙」


 ジレに煤けた革エプロン。——リックだ。


 台車の上には木箱が四つ。後ろには商会の運搬係が二人続き、荷を下ろすと会釈だけして引き返していった。


 リックだけが残り、箱のあいだに挟まれた細長い封筒を取り出して渡してきた。


 そっと割ると、父の癖字。


〈最愛なる娘アンジェリクへ。頼まれた品、納める。うまく役立ててくれ。矢印シールは一昨年から評判が上がり最近在庫が少ない。頑張って分けた。返礼はまた評判で〉


 思わず眉が上がる。


(相変わらず抜け目ない)


 ふっと笑ってから、封ごとポケットにしまい、箱に目を戻した。

 委員のみんなが集まってくるなか、リックが蓋を外すと“矢印”が顔を出した。


「恒例の『誘導シール』。説明はいらねえな」


 サシャが受け取り、一年生の子たちと貼りに走る。矢印が目に入ったところから順に歩行の帯がするすると整う。


「次。足元チェックの簡易器具。一度光ったら表面が滑りやすいっつーこと。二度光ったら石自体が緩んでる合図」


 リックが棒状の器具を石畳に当てると、器具が静かに二度、白く明滅した。踏んでみるとわずかに揺れる。


「ここは石が浮いてる。排水で目地が甘くなってるみたいだな」


 ——庭師さんに伝えたら、活用してくれそうだ。


 地図に赤丸を付ける。


「次、舞台用の化粧品。流行りの魅了付与は()()。汗と照明に強いだけ」


 女の子たちが笑顔で寄る。ローゼリアが香りを確かめて「助かりますわ」と微笑み、ソフィアと目配せした。


「で、またこっちも恒例。監視具の見張り鈴」


 ディーン先生が無表情で頷き、配置図に印を付けると、チェック表を持ったアレスとブルーノが筆頭になり、残った子たちと分割して持っていった。




 それから少しして、午後には、コロシアム傍の芝に、白い簡易テントが一つ立った。


 札には“修理・検品”。一年目の文化祭から評判の良かった“道具診療所”の裏方版だ。


 今回は一般参加の店舗テントが多く場所を食うので少し控えめな位置取りにしている。


 貸し扇風機の羽根が低く唸り、金具と油の匂いが薄く散るなか、リックは腕まくりで簡易工房台のネジを締めた。


 そこへ早速、一年が誘導用の立て看板を抱えて駆け込んでくる。


「脚がガタつくんです」


 さっそくリックがしゃがみ込み、脚の端をこん、と指で弾いた。


「一本だけネジが“座ってない”。搬送でバラして戻す時、抜けやすい位置なんだよな。今、入れる」


 短いドライバーで半回転ずつ締め直し、もう一度、軽く弾く。ピン、とさっきより澄んだ音が返った。


「これが正しい音。もういいぜ」


 一年はほっと胸を撫で下ろし、立て看板を抱えて走っていく。テントの陰が一度だけ揺れて、風が抜けた。


「今年も出て来てもらって悪いわね」


 横目で言うと「いまさら」と鼻で返された。


「まあそうだけど。今回も、工房の若手何人かで来てくれるのよね。忙しいでしょうに」


「んや、争奪戦だったぞ。先輩たちも参加したいって。他国の魔道具が見れる機会はそうそう無えからな」


 思わず瞬きした。


「そう。楽しんで来てくれてるならなによりだけど」


「おう。いつもの文化祭も若手の勉強になるつっつって、親父もめちゃくちゃ推してたんだから気にすんな。来年からも行かせてぇって……あ、いや今のはナシ」


 慌てて口をつぐんだリックから視線を外して、私はテントの向こうを見た。矢印、見張り鈴。少しずつ必要な場所に貼られ、吊るされ、整っていく。


 どれも私が一年の時にソフィアの周囲を守るために呼び込んだものだった。


 けれど、私が卒業したあとも関係なく学園が彼らの手を必要としてくれて、彼らもそれを是としてくれるのなら、繋ぐ役目までしたい。


 そこまで思ってはたと気づく。


(私、卒業したあとのこと、考えられてる)


 通りの向こうでは、ディーン先生が見張り鈴の置き型の受信機を試し置きしている。


 縦に三つの丸い窓があって、優しい青色が一番下の丸で点灯している。去年まではなかった。


 私の視線の先に気づいたリックが「ああ」と説明する。


「あれ、異常のないときはあの色で光るように改良した。前は無反応にさせてたけど、据え置き型は一般の来場者の目につくから、“安心”が目に見えるようにしたいって、ソフィアが言ってな」


「そうなの?」


「ふふん。そうなの」


 ローゼリアのところから戻ってきたソフィアが、腰に手を当てて顎を上げる。


「まあ、前世の〈信号機〉イメージそのまんま持ってきただけなんだけどね……。青い光は防犯にいいって聞いたことあったし」


 首を傾げた私に、ソフィアはなんでもないと笑って片手を振る。


「魔石のリソースはそのぶん喰うけどな」


「でも、発色はフィルター任せ、発光は聖じゃなく雷の魔石。抵抗を減らすのと雷の暴走防止の微弱結界だけ聖で。——省エネ成功。実用域まで落としたわ」


「おう、その発想はマジで良かった。てか、雷を光源にするって、その発想どこからだ?」


「私の前世の常識、魔法世界での非常識」


 耳心地のいい打ち合いに、私はほんの一瞬、目を閉じる。息を吸うと、胸の奥まで届く感じがした。

 

 今年が最後の学園生活になる、と、ようやく私の頭の芯も自覚が出てきたらしい。

 

(でも、最後ということは、失敗ももうきかないということ)


 吐きながら、軽く拳を握る。


(言わなくても、いい。けど)


 ソフィアと笑うリックをちらと見る。

 

 砂埃が走る。会場はもう、ゆっくりと呼吸している。残ったのは、開幕までの静かな数呼吸——


 そっと指を開いた。

次回【静かな告白】

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