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親友ポジのタイムリーパーは、転生ヒロインのハーレムを阻止したい 〜台本を閉じる方法〜  作者: 月乃ふくや
アン始動

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11.窓辺に落ちた春、図書館にて 〜とある女生徒 side〜

花屋の娘で、普通の子。

転生ソフィア視点だと「背景のクラスメイトその3」くらいの女の子。

でも今回は、その子が主役です。

サシャ視点で見る、窓辺の春と図書館奥の“青”。




(あ、窓が少し開いてる)


 それに気が付いたのは、窓際の自習席を通りかかったとき。


 ひらり——と、隙間から舞い込んできた花びらが、机の上に落ちたのを偶然見たからだった。


「まだ咲いてたんだね……桜」


 つまんで掌に乗せ、窓辺へ。

 門から校舎前までは入学の日に見た。けれど図書館のあるこの隅にも木があるのかな、と窓の外をのぞく。


 ところが近くには見当たらない。この子だけ、きっと遠くから飛んできたんだろう。


「残念。ここからも見えたらよかったのにな」


 そう呟きながら、私はそのまま、窓のそばの席に腰かける。春らしいぬくもりを含んだ風を顔に浴びて、ふぅと息をした。


 ——入学式の日、空いっぱいのピンクに本当に感動した。


 それまで“桜”は図鑑の中だけ。この国では学園以外に自生はしてない。


 “桜”ははるか東の島国原産。昔、友好の証にこの学園だけに賜った、と聞いたことがある。

 それから、その国の慣習に合わせ、入学期に満開になるよう魔法で微調整して咲かせているんだとか。


『新婚旅行で見たけどね、とても美しいんだよ』

 田舎で花屋を営む父と母は、図鑑をめくりながらそう言った。


「——実物はそれ以上だったなぁ」


 うっとりと呟く。せっかくだしこの花びらも押し花にしよう——と、破けないよう、鞄から取り出した手帳にそっと挟む。


(そうだ、お父さんとお母さんに送ったら、喜んでくれるかも)


 昨日の夜に書きかけのまま封をしていない手紙がある。それに一緒に入れよう。……そう考えた途端、胸が少し重くなる。


「手紙、か……。水魔法の適性はあったけど、今の低いレベルじゃ、伝えられないよね」


 顔を突っ伏す。


 ——小さい頃から、実家の花屋でよく言われていた。

『サシャが近づくと、花が嬉しそうに見えるね』

 少し大きくなって、私にもかすかに魔力があるらしいとわかったとき、

「じゃあ、属性は水か土か……それとも土の派生で、めったに出ない草か。はたまた、風で揺らしているのかも」

 なんて、笑っていた両親。


 初日の判定で“水”だと確定したのは嬉しかった。やっと答えがもらえたような気がして。

 でも、後から後から、どんどん優秀な人たちが出てきて。


 その後の授業でも、理解は遅れがち。


(ぬか喜びさせたくない。今日だってせっかく実技があったのに……)



✳︎ ✳︎ ✳︎



「——サシャ・フランシス。力を入れすぎだ」


 そう言われた瞬間、指先でぐねぐね伸びていた水泡が、耐えきれず「べちゃっ」と情けない音を立ててつぶれる。

 構えっぱなしだった指と、ついでに顔までびしゃびしゃに濡れた。


「やり直しだな」


 ぴしゃりと言われて落ち込む。その時、少し離れたところで高い歓声。


 見ると、クラスメイトの一人、ブルーノ・オーシャン君が片手間に読書しながら、人ひとり入る泡の中でくつろいでいる。


 この授業は“自分の魔を形成し固定する練習”。

 未達成の私たちを、彼は退屈そうに待っていた。


(すごい……さすが入試トップ。それに比べて私は……)


 声援を送る女の子たちの輪に混ざることもできず、私はそっと目をそらした。


 同じ水でも差が明らかすぎて。


 気づけば、クラスのほとんどの子たちが、それぞれ自分の“球”を作れていた。


「大きさは問わない。今回できなかった者は補講もするが、魔法構造の基礎くらいは頭に入れておけ」


 補講。胸の奥にその言葉が重く残った。



✳︎ ✳︎ ✳︎



 序盤の授業だし必要以上に焦るな、と先生は言った。でも、やっぱり焦ってしまう。


 一年生が一人で魔法実技の練習をすることは許されていない。せめて先生の言う通り、知識を詰めないと……。


(って、こうして図書館でも勉強してるけど、授業となると手が震える)


 暖かい日差しのあたる机に、顔を突っ伏す。

 

 ──元々緊張には弱いほうだけど。


「頑張って入試には受かったけど、向いてないのかも……」


 うつむいたまま、ぽそり。


 そのとき。


「——フランシスさん? どうしたの?」


 突然、声をかけられて背中が跳ねた。


「あっ、ごめんね」


 私が顔を上げるより早く、謝る声。


(いつのまにそばにいたんだろ)


 足音が静かで気がつかなかった。


 瞬きをしながら顔をあげる。斜め後ろに、栗の皮みたいな濃い赤茶色の髪をした女の子が立っていた。


 授業初日、隣に座っていた子だ。名前は——


「えっと……」


「ああ、私、アンジェリク・マークス。でも、アンジェリクって仰々しいから、アンって呼んで」


 さらりと名乗ってくれて助かる。


「わかった、アン。私はサシャで」


「ありがとう、サシャ。——ところで、大丈夫? 体調、悪い?」


「あ……ううん、それは——」


 一瞬返答に悩む。でも、腰を屈めて心配そうにこちらを覗き込んでくる彼女の目に、気が付くと素直に首を振っていた。


「ごめんね、違うの。ただ、ちょっと落ち込むことがあって……」


「落ち込むこと?」


 気遣わしげに、座っても?と目で聞いてくるアン。

 いいよと言って、そっと隣の椅子を引く。


 並んで腰掛け、私は、今の悩みを静かに打ち明けた。

次回【水属性女子、透明の一歩】

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