3-10.足元の補正
ブルーノやアレスとソフィアの噂は名残を残しながらも少しずつ落ち着いていった。
「……」
ソフィアと並んだ寮への帰り道。私は口を開いた。
「ブルーノもアレスも……大事にならなくてよかったわね」
「ほんとよ」
ソフィアが腕を組んで前を向く。
「最近、“私に向いてる”って感じの波、落ち着いてたと思ってたのに。偶然かしら」
「あなた——ソフィアの単独演舞を推薦する流れもすこし出来すぎてるように感じたわ」
「そうよね」
そんなことを話しながら、ソフィアが小走りで乾きかけの石畳に足を置いた瞬間だった。
湿った砂利が薄くあった。
それで、わずかに靴の裏が滑ってソフィアの体が前に傾いた。
「わっ」
「ちょっ」
私が手を伸ばすより早く、前方から片膝の影が差し込んだ。
「止まって」
庭師さんだ。静かに伸びた腕がソフィアの鎖骨の前に行き止まりを作った。
ソフィアはそのままぴたりと止まり、私は肩を支えた。
そのタイミングで、強い風が吹き抜けた。
転びかけた場所に、近くの立て看板が煽られて倒れかけ——それも、庭師さんが片手で支えて静かに戻した。
「ここ、朝から滑りやすいんだ。砂利が流れ込んで。後で目地を詰め直すね」
ただの仕事の話みたいに言って、膝をつき、濡れた砂を指でさばいて排水溝へ流す。自然で、手慣れていて、劇的じゃない。
でも——
(転んだところに、いまの看板が当たってたら?)
ゾッとした。
ソフィアは胸に手を当てて息を整え、私の肘を軽く小突く。
「……ねえ。やっぱり、ちょっと“速い”わよね」
「ええ。こういうの今までもなかったわけじゃないけど」
すると、庭師さんは顔を上げ、私たちのやり取りを一度だけ受け止めるように頷いた。
その一瞬の仕草に、ソフィアと私はちらりと目を合わせ、横に並ぶ。
「庭師さん」
と私が呼ぶ。
「少し、お話伺ってもいいですか」
とソフィアがまっすぐ見つめる。
庭師さんは寮の裏手へ視線をやって、短く言った。
「……ここは耳が多いね。場所を変えようか」
次回【世界の正体開示】




