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親友ポジのタイムリーパーは、転生ヒロインのハーレムを阻止したい 〜台本を閉じる方法〜  作者: 月乃ふくや
三年目の序章・世界の正体〜アンside〜

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3-09.会議明け・ブルーノの夢の話から



 校舎の鐘が鳴る。


 紙の角を揃える音がぱたぱた続いて、対外行事の実行委員と生徒会の合同会議が、終わりの時間を察する。


 今日は、生徒会からはブルーノとソフィア、実行委からは代表として私とサシャ、他にも数人参加していた。


 片付けに入る直前、書記がまとめた。


「今年の式典は“各国に公平”が原則。行事の期間中は、学園と王都全体に結界・境界警備を強めるため王宮魔導士局が増員して担当。学園の守衛と王都の騎士隊と合同で進められるそうで……通行導線は後日、局から図面が来ます」


 机に回された写しには、朱で『街灯調律/境界巡回/当日結界再編』と走り書きがあった。


「要は、今回の警備は、ほとんど大人たちに任せて良いってことよね」


 誰かが言った。


「うん。国外からの来賓も多いからね」

 

 ブルーノが写しに目を通しながら頷く。最近になって、彼は片目を深く隠していた前髪を少し切った。

 

「学生の騎士隊や僕たち委員は中の巡回や誘導の補助にまわる。……ここまでは例年の文化祭でもやってきたことだ。ただ、過去の記録を見ると来場者の数が桁違いだから、気は引き締めて。決めるところはきちんと決めていこう」


「はい!」


 それから解散。まとまっていた気配が散る。


 椅子がひとつずつ戻るなか、ソフィアが何気なく口にした。


「ねえ、“王宮魔導士”って出たけどさ、実際なにをする仕事なの?」


 私が答えるよりも早く、その職業を目指しているブルーノの目に灯りが入った。


「派手じゃないよ」


 眼鏡を少し持ち上げる仕草のあと、どこか誇らしげに語り出す。


「式典の日は周囲の結界の点検と見張り。夜は街灯の調律。季節替わりは境界の巡回。事故の前後は記録に残す。——国と人々の“当たり前”が続くように、歪みを直しておく。そういう役だよ」


「なるほどね。“縁の下の力持ち”みたいな人たちなんだ」


 ソフィアが腕を組んで頷く。


「……うん、似合うわね」


 それに、ブルーノがふっと息を抜くみたいに笑った。


「ありがとう」


 眼鏡の奥の目が柔らかく細まった。


 会話はそこで切れた。


 けれどその時。部屋の中で、余った書類をまとめていた下級生の女の子ふたりが紙を抱えたまま、ソフィアとブルーノを見て、きらりとした視線を交わすのが見えた。


 ソフィアとブルーノは気づいていない。サシャも今、鞄を整理して駆け寄ってきたところで、きょとんとして私の顔を見ただけ。


「アン? どしたの?」


「……ううん」


 ぱたぱたと、楽しげに足音が扉から出ていく。


(……ほんの少し嫌な予感がする)


 ため息混じりに、手をほどいて風を走らせた。



✳︎


 階段の踊り場で、笑い声がころころと転がる。


「ねえ、聞いた? あのふたりが夢の話してたって」

「境界を守る役って素敵。ソフィア先輩と笑ってたよね。空気、良かった」


 掲示の前では、別の声。


「開会式典の代表って、結局、誰になりそう?」

「私、やっぱりソフィア先輩がいい」

「ねえ、昨日、アレス先輩が距離近かったって」

「あのひと婚約者いるじゃん」

「いや、でもさ、ロマン? みたいな」


 洗い場。蛇口の金属音の向こうで。


「“夢の話”って、告白前のやつっぽい」

「飛びすぎ。……でも“平民出の天才”同士って言われたら、まぁ」


 ——お似合い。


 そこまで聞いてから風を含んだ手を握る。


 そばの机から、小さな紙片がひとつ滑った。


〈ソロ推薦、楽しみ。……支えるのは誰?〉


 丸い文字。拾いあげ、紙を閉じる。


 けれど、私が伏せるまでもなく、この話が本人たちの耳に届くまで時間はそうかからなかった。


✳︎


 翌日の空き教室。


 机の中央に本、両脇にノート。


 いつもの勉強会だ。メンバーはブルーノ、サシャ、ローゼリア、私、そして二年の後半から加わったソフィア。


 いつもと同じ配置。


 ただ、空気だけがほんのわずかに薄かった。


 私は隣のソフィアと一瞬、目を合わせる。


(切り出す? “気にしないで”って)


(藪蛇にならないかしら)


 ふたりで小さく横に首を振る。


 その直後だった。


 ページが一枚めくれる音のあとに、ブルーノが短く切り出した。


「妙な噂が出たけど」


 全員の視線が集まる。一呼吸だけ迷って、彼は続けた。


「あれは——違う」


 ソフィアが眉を上げた。途端に言い淀む。


「いや、その、違うっていうのは、こ、恋人とか、そんなんじゃないって意味で……。ソフィア自身を否定したいわけじゃない。ただ、その、誤解はきちんとなくしておきたくて」


 そこまで言うと、ごくりと喉を動かしてから、ブルーノはサシャをまっすぐに見た。


「僕がいちばんよく話すのはサシャだ。勉強も、実験も、失敗した日も。

 ソフィアは友人だ。だけど、君は——その」


「うん」


 サシャが短く頷いた。


「……じゃ、その……甘いの一個」


「買ってくる」


 即座に立ち上がるブルーノ。走る彼は珍しい。教室を出ていく際に見えた耳は赤かった。


 その背を見送って、残った空気もふんわりと緩む。


 ローゼリアもこちらを見て、静かに微笑んだ。


「アレス様のことも、わかっておりますから」


 その目は穏やかだった。私はソフィアとまた目を合わせ、小さく笑った。


 鉛筆が走る。廊下の向こうで囁きが一度だけ立って、すぐ消える。


 噂はその日のうちに“勉強会の机上”で終わった。


次回【足元の補正】

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