3-07.殿下への手紙
◇殿下への手紙— アン→殿下
昼休み。対外行事の委員会室は、紙と、雨があがったあとの匂い。
あのソフィアとの話のあと、一回目の会議が終わってすぐに出した便箋の写しを指でなぞる。
宛: 王太子エルヴィス殿下
差: 聖アドリフィス学園・対外行事実行委員会(代表:アンジェリク・マークス)
本年度の対外行事について、学内の警備意識をより高めて運用いたしたいと考えています。
本年は個人を過度に目立たせない方針で進め、成果は可能な範囲で組織名義へ分配し、占有しません。
行事期間中の外側の安全運用(結界・外周・宿場 等)は、従前どおり王宮魔導士局ならびに騎士の所掌と承知しております。変化や異常がございましたら、適宜ご共有ください。
学内の導線運用は当委員会にて統括いたします。
以上、取り急ぎ共有いたします。
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◇別紙(同便・私信)— ソフィア → 殿下
殿下へ(友へ)
最近、商会で私の名前を聞かれることが増えているようで、アンが心配しています。今回は“目立たない”進め方にします。そっちでも同じ方向で、軽く口添えお願いします。
P.S. 前に渡した指先用バーム、書類の多い日に使ってくださっていますか?
今度会える時は、甘い差し入れを用意しておきます。
— ソフィア
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返書は、翌日には届いた。
——受領。警備意識の徹底は妥当。
たしかに、今季は彼女の名を耳にする機会が増えている。
「占有しない」方針を支持する。必要に応じ、静かに支援する。
情報は随時共有する。
P.S. 友人へ。バーム助かっているよ。甘いものは止まらないから“適量”で。
— エルヴィス
——ソフィアとふたりで額を突き合わせるようにして文面を読み終える。
ソフィアが親指を立てるのに頷いてから、そっと折り畳んで委員会室の引き出しへとしまい、廊下に出た。
鐘がひと打ちして、風が吹く。
その一瞬の溝に、紙の白がどこからともなく差し込まれた。
次回【速い補正の風】すぐ




