表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

プロローグ

この世界には、「ケーキ」と「フォーク」が存在する。


ケーキ──


それは、人間でありながら、人間以上の「香り」を持つ存在。


決して人工では作れない


濃厚で、ふわりと甘く


本能に訴えかけるような香気をまとう、選ばれし者。


けれどケーキは、自分がケーキであることに気づかない。


自らを「普通の人間」と信じたまま、日々を生きている。


それが一番の幸福であり、一番の無防備だった。


一方で、フォーク──


かつて、何らかの理由で「味覚」を失った人間たち。


人との関わりの中で、心の奥の何かが摩耗してしまった者たち。


だがある日、突然“香る”誰かに出会い


失われた味覚が目を覚ます。


それが、ケーキとの邂逅だった。


フォークにとって、ケーキは唯一無二の悦楽だ。


一口、いや、ひと舐めでもできたなら。


この喪失だらけの人生に、確かな“味”を取り戻せる。


──だが、当然ながら、ケーキは“食べ物”ではない。


それを理解していてもなお


自制心が壊れてしまうほどの甘美が、そこにはある。


誰にも言えない衝動

誰にも止められない欲望



ケーキとフォークの関係は、

しばしば“捕食”という悲劇を呼ぶ


* * *


朝のテレビから流れる、どこか遠い世界の話のようなニュース。


『……昨日午後8時ごろ、都内の繁華街で、20代の女性が男に襲われる事件が発生しました。女性は軽傷で命に別状はなく──』


ソファに座ってパンをかじっていた俺は、手を止めてテレビに目を向けた。


『犯人は取り押さえられましたが、容疑者は取り調べに対し、“どうしても我慢できなかった”と供述しており──』


「ケーキ……また襲われたんだ」


ぼそりとつぶやいたあと、テレビの画面から目をそらす。


「……怖いな、ほんと……俺には関係ないだろうけど……」


言いながら、自分の胸の奥で、何かがざわついた気がした。


だけど、それが何なのかは分からない。

分かる必要も、ないはずだった。


──そのときまでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ