雨の日に、黒いモヤを拾った
ある雨の日。
黒いモヤを拾った。
何を言っているかわからないと思うが、私もわからない。
ただ、見捨てられなかった。
『くぅーん』
「え…」
ダンボールがあった。
その上に黒いモヤがあった。
ダンボールには『拾ってください』と無責任な言葉があった。
黒いモヤの下には、ボーダーコリーの子犬の『遺体』があった。
『くぅーん』
「…はぁ。一緒においで」
『わんっ!』
私は庭にある愛犬のお墓の横に、ボーダーコリーの子犬のお墓を作った。
そして黒いモヤを家に入れた。
お仏壇に手を合わせて、亡くなった両親と愛犬にお願いして愛犬の愛用のおもちゃと食器を使わせてもらった。
まだ古くなっていない愛犬のペットフードをモヤに与え、愛犬のおもちゃでモヤと遊ぶ。
最初こそモヤは犬の形すら保っていなかったが、そんな穏やかな日常を過ごすうちにモヤは犬型になった。
そろそろモヤも晴れて成仏してくれるかな、と思ったある日のことだった。
「強盗だ!金を出せ!」
「…っ」
えー、平和な日常を送ってたのに急にこんなことある?
どうしよう、金は最悪いいとして命は取られたくない。
どうしよう、どうしようと混乱する中のことだった。
「ばうっ!ばうっ!」
「な、なんだ、犬!?どこにいやがる!?」
「がうっ!」
「いてぇっ!?」
黒いモヤがジャンプして、犯人に飛びかかり彼の手を噛んだ。
犯人はナイフを落とす。
私はそれをただ呆然と見ていた。
黒いモヤが、小さなボーダーコリーの子犬の姿を取り戻す。
ナイフは依然として犯人の近くにある。
ボーダーコリーの子犬は、噛んだまま犯人の手を離さない。
そこにもう一つ、大きな声が聞こえた。
「わんっ!」
白い大きな影が犯人に飛びかかり、犯人は倒れ伏した。
それもそのはず、その白い大きな影は確実に我が家の愛犬サモエドのシロ。
一度は成仏したはずだった、我が家のアイドルだ。
サモエドにのしかかられては、それは動けないだろう。
私はその隙にナイフを奪い取って、警察に電話した。
「ご無事でなによりでした。しかしよく武器を奪えましたね」
「いやぁ…あはは」
私の両隣でしっぽを振る二匹は、私以外には見えないらしい。
犯人をのしたのはこの子達ですとも言えない。
犯人をのした事に関してはとりあえず、正当防衛で済むらしい。
犯人はお縄になり連れていかれた。
「シロ…成仏してたのに、ごめんね」
「わんっ」
「二人とも、助けてくれてありがとう」
「わんっ」
「わんっ」
そこでふと思い出した。
「君たちまだ成仏する気ないの?」
「わんっ」
「わんっ」
「なら、君にも名前が必要になるね」
どうせすぐ成仏して離れていくだろうと高を括っていたので、名前はあえてつけなかったけど…。
「女の子みたいだし、ココにしようか」
「わんっ!わんっ!」
「よしよし、ココもシロも良い子だなぁ」
「わんっ」
「わんっ」
そして、私は二匹との生活を始めた。
のだが。
何故か不幸は続き、その後も平和な日常だったはずが何故かココがモヤだった時より明らかにヤバイモヤに遭遇したり、トラックに跳ねられかけたりした。
でも、その度にココとシロがおうちでお留守番させてたはずなのに何処からともなく駆けつけてくれて、モヤに威嚇して追い払ってくれたりトラックから引き離すように後ろから服を噛んで引っ張ってくれたりして命拾いしている。
でもまあ、なんだかんだでそんな日常もまた愛おしくて。
ちょっとくらい不運になっても、まあいいかと思えた。
「シロ、ココ」
「わんっ」
「わんっ」
「ずっと一緒にいようね」
「わんっ」
「くぅーん!」